07.王都での初仕事
いつも、見てくださってありがとうございます!!
「今日は肉がお買い得だよ〜!そこのお姉さん見ていかないかい?」
「あら〜お姉さんだなんて、照れるわ〜少し見ていこうかしら?」
「今日とれたての新鮮な野菜はいかが〜!」
「ママ〜僕あれ食べたい!」
「そうね...最近はちゃんとお手伝いもしてくれるしいいわよ」
「わーい!やったあ!!」
色々人々の声が響き渡り賑わっている市場に現在私達はいる
なぜ、ここにいるかというとそれは、昨夜...ケルベロス達と出会った夜に遡る
〜昨夜〜
それは、ケルベロスを部屋に連れていった後...まだ名をつけてなかった時の話だ
私は、ナターシャに呼ばれた
「ギル、あの魔物の話ですっかり忘れていたけどね。明日、王都に行こうと思うんだ」
「わかりました。明日も森で修行しながら待ってます!!」
この世界は、前の世界と同様に1週間は7日、1ヶ月は30日、月は12ヶ月、1年は365日という周期になっている
そのなかでも、ナターシャは月・金は王都から離れた村々に水・土には王都で診療所を開いている
今週は、馬車の点検で村に行く日がズレてしまったが明日は予定通り王都へ行く
「そうじゃなく、明日はお前にもついてきてもらおうと思っているんだ」
...?
ナターシャの想定外の言葉に思考が停止する
「お前がここに来てもう半年たった。その間、魔法や剣術だけじゃなく薬の勉強も頑張ってるだろう?だから、そろそろ助手として働いてもらおうと思ってね。気が乗らないならまた今度誘うがね。どうだい?」
「行きたい...けど、留守番はどうするんですか?」
嬉しい誘いではあったが、私までいなくなると家の番は誰もいないだから行けないのでは?という不安をナターシャは笑い飛ばした
「アッハハハ!なーに言ってんだい?留守番なんてね、お前が来るまで私は一人暮らしだったんだよ?その間、この家に留守番なんていなかったから大丈夫さ。それに、ちょうど番犬が家にはいるじゃないか。流石にあの子達を王都に連れていくことは出来ないからね」
「そうですか...わかりました。ついて行かせてください!」
正直、あの子達とも一緒に行きたかったが...
こればかりはしょうがない
魔物を連れて王都に入ることなんて出来るわけがない
少し残念に思ったが、気持ちを切り替える
初めての仕事に今からドキドキしている
「よく言った!それじゃあ、明日の朝出発するよ。あの子達にはお土産でも買って帰ってあげよう」
「はい!僕、頑張りますね!」
「よし!その意気だ!!...だかね、1つだけ言いたいことがあるんだよ」
ナターシャの顔が笑顔から一瞬にして訝しげな顔に変わり私の顔へと近づいてくる
その変わりように驚くと同時に焦る
なにかしてしまったのだろうか...やはり、あの魔物の件について怒っているのだろうか?
どんなに考えてもナターシャが何に対して怒っているのか分からない
「あ...あの、僕何かしましたか?」
辛うじて出た言葉
それを聞いた途端ナターシャの眉間のシワが深くなった
自覚はないが、なにかしてしまったのはその顔で一目瞭然だ...
とりあえず、謝ろうと声を出そうとしたその時、突然顔を指さされた
「強要するつもりはなったけどね...もうここに来て半年だ。そろそろ敬語を治してもらいたいんだよ。私らは家族なんだから」
ナターシャはそういうのにこりと笑う
本当の家族ではない
それでもそんなふうに思ってもらえるそのことがとっても嬉しかった...涙をこらえるほどに...
「うん!ありがとう!!」
「あぁ!これからも遠慮はするんじゃないよ?それじゃ、おやすみ...ギル」
「おやすみ、ナターシャ」
その後、紅玉達に話を聞くうちに小さくなれると知った私は、すぐにある計画を立てた
その名も『ケルベロス王都に連れていこう計画』
ナターシャが外で馬車の準備をしている間に私の準備と紅玉達の準備を整える
「よし...準備完了!」
「どこかに出かけるのか?」
「昨日から楽しそうにしていましたから、そうなのでしょう」
「えー、ずるい!僕も行ーきーたーい」
「駄々をこねるでない!主が困るだろうが」
「珍しい...兄者も愚図ると思ったのですが...」
「紅兄の裏切り者〜」
「お前らは俺をなんだと思ってんだ!!!」
面白い会話だったが、これ以上時間を使うと計画が崩れるため急いで止める
「はい、ストップ!皆にまた質問があるんだけど、結界とかって作れたりする?」
「もちろんだ」
「簡単ですよ?まぁ、強度によりますが...」
「楽勝!楽勝!」
「それは、体が小さくても?」
「問題ないと思うぞ?」
「少し強度は落ちますが、大丈夫です」
「出来るよ〜!」
「それじゃあ今お願いしてもいい?」
3人はこくりと頷くとみるみる小さくなり手乗りの人形と同じ大きさになった
それを掴み胸ポケットの中に入れる
「次は、外に出たら家の周りに結界をお願い」
「ぬ!!まさか我らも共に出かけるのか?」
「そうだよ?留守番はつまらないでしょ?」
「わーい!お出かけ!お出かけ!!」
「黄玉騒ぐな!確かにそうだが...我らがいると主に迷惑が...」
「兄者の心配は分かりますが、大丈夫ですよ。兄者と黄玉を私が見張っておくので心配無用です」
「なぜ我もその部類に入るのだ!!」
「蒼玉が言うなら安心だ」
「主まで!?」
「僕だって大人しく出来るもん!!」
「2人とも外では念話以外では絶対に喋らないでくださいね」
「「流された!!」」
「あはは、皆息ぴったりだね」
「ギルーー準備は出来たかーい!そろそろ出かけるよーーーー!!」
思ってたより話している時間が長かったようで、ナターシャの大声が聞こえてきた
「大丈夫ーー!今行くーー!!」
急いで荷物を持ち階段を駆け下りる
外に出ると素早く結界をはり馬車に乗り込んだ
「それじゃあ、行くよ!」
ナターシャの運転はジェットコースター並に荒々しい運転だった
私は酔うことはなかったのだが、紅玉達はぐったりしているようだった
王都は円形の都市だ
強度な壁に囲まれており、魔獣対策も万全
王都は円の上半分が貴族や王族が暮らしており下半分が一般市民、冒険者などが暮らしている
もっと下半分について詳しく分けると、右半分が市場や道具屋、一般市民の暮らす家々が並んで入るが、左半分はギルドや冒険者達の宿、そしてスラムがある
ナターシャの診療所は市場を抜けた先に1つとスラムに1つある
そのため、市場を通ることになる
市場は活気があって楽しそうだった
診療所を営むナターシャを知っているものは多く
「ナターシャさん!この前はありがとうございます!!これあん時の礼でおまけにどうぞ!」
「ナターシャさんのおかげですっかり良くなったよ〜これ、サービスだ!」
「そんな気にすることないが、まぁ、貰えるものはありがたく貰っていくよ」
「おっ!そっちのチビはどうしたんです?」
突然、自分に話をふられて驚いた
「こいつは、私の養子だ。弟子でもあるからこれからはこいつの事も頼ってくれよ?ほら、挨拶しな」
「初めまして、ギルバート・アルダンテです」
「俺はノース・ゴルダンだ!よろしくな、チビ助」
「チビ助じゃないです!ギルバート!!」
「おっさん耳が遠いから聞こえねぇな〜」
ノースはニヤニヤしながらこちらを見る
明らかに聞こえているに決まっている
確かに、私は小さい...しかも女でありながら男と偽っているのでノースからはいつまでもチビ助扱いだろう
そう思い不貞腐れる
(なんなのだこの男は...呪うか?)
(兄者良いことを言いますね、異論はありませんよ)
(主を馬鹿にするやつは許さないよー!)
(ストップ!ストップーー!落ち着いて大人しくしてて!!)
もしここで顔を変えたらまたいじられてしまうだろう
だから、慌てながらも表情は一切変わらないように努力した
「あんまり私の子をいじめるんじゃないよ?ノース」
「冗談ですって!悪かったなチビ...ギルバートほら、これ食って機嫌直せって」
私を見て笑うナターシャと物で機嫌を取ろうとするノースに表情の変化がバレなかったことに安心すると同時に益々不貞腐れながら渡された肉を食べる
「美味しい!!」
「だろ?俺のところの肉は最高に上手いからな!」
とっても美味しかったせいで、怒りも忘れてしまった
「ほらほらもっと食え食え!!サービスでナターシャさんにも渡しとくから帰ったら今日はご馳走だぞ!」
「ほんとに!!!」
「あぁ、腕によりおかけて作ってやるよ!ただし、初仕事を無事成功させたらだけどね」
目を輝かさながら聞くとナターシャは意地悪そうな笑顔で答える
「頑張るよ!」
ナターシャの料理はほんとに美味しい
しかも、こんなに美味しい肉がナターシャの料理に使われるのだ
美味しくないわけがない
よだれが垂れるのを堪えながら一層気を引き締める
ノースに別れを告げた後、再び診療所に向かって歩き出す
その間にバレないようにノースから貰った試食のお肉を紅玉達にも分けてあげると目を輝かせて喜んだ
市場から歩いて数分、診療所が見えてきた
既に結構並んでいることに驚いた
「診療所はね、ここ以外には貴族様達にしか行けないような金額の診療所しかないんだよ。だから、素早く丁寧に済ましてしまうよ!」
「了解!!」
開くと様々な怪我人、病人が訪れた
「魔物に襲われてしまって...」
「風邪が長引いて...」
「はいはい、じゃあ見ていくよ...」
ナターシャは基本、治癒魔法は使わず自然回復を推奨している
治癒魔法に頼りすぎると自然回復力が落ちるかららしい
ナターシャは患者を丁寧に診察しその人に合う調合薬を手際よく手渡していく
正直、私の必要がないくらい完璧だ
そこへ優しい声が響く
「あらあらまぁまぁ〜そこの子はどなた〜」
「あぁ...めんどくさいのに見つかったね...」
現れたのはナターシャと同じくらいの年の女性
どうやら、ナターシャの知り合いのようだ
「めんどくさいとは失礼ね〜貴方と何十年の仲だと思ってんるのよ〜。それに貴方の...」
「はいはい、分かった!分かったよ!他にも患者はいるんだ。教えたらすぐ薬持って帰んな!...まったく、ほんとにあんたはいい性格をしているよ!」
「うふふ、何のことかしら〜」
私が入る間もなく話が続いていく中、ナターシャが折れた
ナターシャは彼女に逆らえないようで顔がどんどん歪んでいく
まぁ、本気で嫌っている様子ではないようだけども…
私は、いつものナターシャとは違う様子に驚きを隠せず呆然としてしまう
「そういうとこだよ!まったく...ギル!そこにある薬を渡せばいいから、あとは任せたよ」
「えっ!ちょっ!?ナターシャさん!!」
「あらあら、逃げちゃったわ?もう少しお話がしたかったのだけれど...それは貴方にしてもらいましょうか。お名前は?」
「僕は、ギルバートです。あとこれが、薬になります。どうぞ」
ナターシャは私に押し付けるようにその場から離れ次の患者についてしまった
どうしようかと慌てる私に対して向こうはマイペース
もしかして、天然なのだろうか...
どう対処していいか分からなかったので、とりあえず名乗り薬を渡す
「あらまぁ、ありがとう〜。でも、帰る前にも〜っと貴方の話が聞きたいわ〜。それにね、貴方と同じくらいの年の孫がいるのよ私。今度連れてくるわね?仲良くしてくれると嬉しいわ〜。そうだわ!今度来る時は美味しいベリーパイをね...」
彼女のマシンガントークは止まらない
チラッとナターシャを見ると同情したような目をこちらに向けてきた
ナターシャが逃げた理由がようやく分かってしまった
(長いな...)
(長いですね…)
(もう、つまんない〜!!)
あまりの長さに黄玉は駄々をこね始める
「あら嫌だわ〜私ったら名乗りもしないでべらべらとごめんなさいね?私の名前はジャンヌ・メルス。ナターシャとはもう40年以上の付き合いになるわ〜。私も頼ってくれて大丈夫よ〜これからよろしくね〜」
ようやく話は終わった
話は面白かったが、私も少し疲れてしまった...
しかし、ここでそんな顔をする訳にもいかない
できるだけ、笑顔でお礼を述べる
「ありがとうございます!こちらこそよろしくお願いします!!」
「うふふ〜いい返事ね〜。それじゃあ、話の続きなんだけどっあ!すっかり忘れてたわ!今日は用事があるんだったわ〜ごめんなさい。またお話を聞かせてちょうだいな?」
「はい!」
また、話が始まると思いきや、用事を思い出したとジャンヌさんは去っていった
診療所を出るまでにこやかに笑い手を振ってくれた
話は長かったが、聞いていて楽しかった
気づくと今度会うのが楽しみになっている自分がいた
「ようやく、嵐が過ぎ去ったね...ったくあいつはほんとに騒がしいやつだよ。昔から何度も言ってんのにあのおしゃべり癖は治らないみたいだね...」
ジャンヌさんがいなくなると同時にナターシャがやってきた
心なしか疲れが出ているように見える
「あいつと話すと3割増しで疲れるんだよ...ギルがいて本当に良かったよ。おかげで、すべての患者を見終えたよ」
「えっ!?」
ナターシャに言われて辺りを見渡すと沢山いた患者はおらず、今は私とナターシャだけだ
「ごめんなさい!全然手伝えなかった...」
「何言ってんだい!あいつが来るといつも時間が2〜3時間オーバーしてスラム街の診療時間が減ってたのが、今日はオーバーするどころか早く終わったくらいさ!助かったよ。ありがとうギル」
謝る私の頭を笑いながらくしゃくしゃに撫でる
お世辞かもしれないけど、役に立ったと言われるのは素直に嬉しかった
「さぁ!次はスラム街に行くよ!また、少し歩くし治安も悪い...充分注意して仕事を済ますよ!!」
「はい!僕ももっと頑張るよ!」
診療所を閉めて[CLOSE]の看板を吊るす
次のスラム街はここから反対方向にある
治療には余り役に立てなかった分も次で活躍するためいっそう気合いれてスラム街に向けて歩き出す
とっても遅くなってしまった...
見てくださってる方、見捨てずにいてくれてありがとうございます!!!
週一のペースで書けるようこれから頑張っていくので、これからもよろしくお願いします!