03 不安と幸福と新しい一歩
再び一日眠ったが、あの夢の続きを見ることは出来なかった
しかし、あの風景に覚えがある…そうだ…あれは死ぬ数日前の記憶だ…
だから、少しならまだ覚えている
確か…ロイドは、悪い人に拾われ暗殺者として育てられ、その人の命令は絶対
自分の感情はなく人形の様に生きていたが主人公と出会い徐々に自我を持ち始める
ハッピーエンドでは主人公と一緒に旅に出るがバットエンドでは主人公を守って死ぬ
しかも、その他のルートではどんなエンドだろうと処刑されるはずだ
…って生存確率低すぎませんか!?
とりあえず怪しい人にはついて行かなければ問題ないいはず!いやいや、拒否したら逆に殺される!!
どうしたらいいんだ…
頭を抱えこみ悩んでいると扉が開いてナターシャさんが入って来た
「目が覚めたようだね。顔色もだいぶ良くなってきたけど調子はどうだい」
「ありがとうございます。だいぶ良くなりました」
ナターシャさんの元気な笑顔をみると何故か明るい気持ちになった
「そうかい、そうかい…そりゃあ良かった。ちょうど食事の準備もできたところだ。今持ってくるよ」
「お手伝いします!」
「バカ、治りかけの病人は安静にしとくもんだよ!ちょっと待ってな、すぐに持ってきてやるさ」
慌てて立とうとした私を止めナターシャさんは部屋から出ていき、すぐに戻ってきた
「ほら、冷めないうちに食べな」
持ってきてくれたの出来たてのお粥だった
看病をしてくれただけでなくご飯まで…本当に申し訳ない
「いや、大丈夫でグゥーーーーー…す」
「…ふ…あはははははは!なーに遠慮してんだい!これも治療の一環だよ!さぁさぁ、遠慮せず食べた食べた」
断ろうとしたのだが、お腹の音が声を遮る
恥ずかしさのあまり下を向くしかしそんな私の姿を見たナターシャさんは大笑い
結局押しに勝てず、お粥をいただくことにした
まともな食事はいつぶりだろう…最近は道端に生えてる草ばかり食べていたからお粥の味が身に染みる
「美味しいです…ありがとうございます」
「そりゃあ、良かった。あんたは痩せすぎだからね…どんどん食べな!」
ナターシャの気遣いが心を暖かくすると同時にこの後のことについての不安が心を冷やしていく
「あ…あの…」
「ちょっと待った、あんたが何を言おうとしているのかはその顔見りゃわかるよ。だけど、あんたは今目覚めたばかりで体もボロボロだ。だから、今は体を治すことに集中しなさい。それまでは、あたしもその話は聞かないよ。ほら、安静にして寝てな」
ナターシャは早口でまくし立てるようにそう言うと、私が再び何か言おうとする前に空になったお椀とスプーンを持って出ていってしまった
そんなに顔にでてしまっていたのだろうか…
そういえば、生前も嘘をつくのは下手だった
ご飯を食べたせいかナターシャの言葉に安心したせいか私は再び睡魔に飲み込まれていった
*************
再び目覚めたのは、あれから一日後だった
そのせいか、体調もすっかり良くなった
まぁ、元々体が頑丈だったのも要因の一つかもしれない
ナターシャは私の回復を喜ぶと同時にその速さに驚いていた
そして、治ったということはこの前の話の続きをすることになるということだ
今、私達はナターシャの家のリビングの机を挟み向かいあって座っている
ナターシャが、おもむろに口を開く
「それじゃあ、この前の話の続きだね?」
「はい…」
「あんたが話したかったのは、治療費のことだね?」
「はい、そうです…命を助けてもらっただけでなく食事まで…すごく感謝しているのですが、私には治療費を払うほどのお金はないんです…でも、でも、絶対に払います!少しずつだと思いますけど…必ずです!!」
普通こんなこと許されないだろう…命を救ってもらっておいて…しかし、私にはこれくらいしか出来ない
お金はない、渡せる物両親の形見のペンダントくらいしかない、あの人達に頼ることは出来ない…これが、今出来る最大限のことなのだ
「容姿もよく魔力も絶大、おまけにこの歳でこれほどの言葉遣いに礼儀…こりゃあ、大層なもんを引き取ることになるな」
ナターシャは私を上から下まで値踏みするように見ながら、小声で何かを言っていたが私には聞こえなかった
「いや、あんたにはまだ出来ることがあるだろ?」
「えっ?」
「その体だよ。必ず返すという口約束でなんとかなるなら皆そうするさ」
「…っ!!」
ナターシャの突然の発言に思考が停止する
確かに、今私が差し出せるものはペンダント以外はそれだけだ
奴隷…実験体…臓器売買…不穏な言葉が頭の中をぐるぐると回る
体の震えが止まらない…そこで気づいた私はまだ死にたくないのだと…
しかし、反論することは出来ない
命を助けてもらったのだ…それなのに、嫌だなんていう資格はない
覚悟を決め、返事をしようとしたその時
「ふふ…ふ…あっははははは!!!あ〜面白いなんだいその顔は!あんたまた悪い方に考えてんじゃないのかい?まぁ、そう考えさせるためわざと怖く聞こえるよう言ったんだけどね!」
大爆笑するナターシャについていけず、ポカーンと口を開け固まる
「あ〜笑いすぎて涙が出てくるわ!」
散々大笑いして涙を拭い始めたナターシャを見てようやく声が出た
「えっと…あの…ど、どういうことですか?」
「簡単なことさ、あんな死にかけの状態だったんだ。帰る家なんてないんだろう?住む家も仕事も金もない。それじゃあ、いつになっても治療費を払うなんて無理な話さ。だからね、あんた私の養子にならないかい?」
ナターシャの発言は私に大きな衝撃を与えた
治療費の代わりにナターシャの養子になるだなんて…私への条件が良すぎる
逆をいえば、ナターシャの利益が少なすぎるのだ
理由がわからず、再び呆然とする私に向かってなおも説明を続ける
「詳しく言うと、私は色んなところで出張診療所を開いているのだが人手が足りなくてね。しかも、普段はこんな山奥で一人だ。まぁ、わるくはないだがね、やはり、たまに暇になる時があるんだよ。だから、あんたが養子になってくれりゃそれは、治療費に相当するほど、いいことなんだよ。だから、私の子になりなロイド」
名を呼ばれた瞬間、涙が止まらず流れ出す
必要とされるそれがこんなにも嬉しいことなんて知らなかった…
「はっはいっ!ありがとうごっございます!!」
「ははは、すっごい顔、涙でぐしょぐしょだ」
自分でもわかる私は今すごい顔をしているのだろう
ナターシャはそんな私に近寄ると優しく抱きしめてくれた
私は、声を上げて泣いた…泣き続けた…
私が泣き止むまで、ナターシャはずっと、ずっと、抱きしめていてくれた
「大丈夫かい?」
「ひっく…は…い…っく」
心配しながら優しく頭を撫でられ、また泣きそうになってしまうのを必死にこらえ返事をする
すると、ナターシャは私の体をはなし真剣な顔で私を見つめる
そして、口を開いた
「お前の過去は詮索はしないよ。でもね、その名前は少し有名過ぎる…だから、これからは違う名前で過ごしてもらうよ」
ナターシャ言われて気づく
そうだ…本名を隠すことに必死で表で使っていた名前を出したが、貴族であり大量殺人の被害者であるシュバルツ家…そして、その唯一の生き残りであるこの名前が有名でないわけがないのだ
この名前を使わなくなるのは少し寂しいが、私はこくりと頷いた
「そうかい…それじゃあ、新しい名前をどうしようかね…ギルバート・アルダンテ…今日からお前はギルバート・アルダンテだよ」
「ギルバート・アルダンテ…」
頭の中で新しい名前を何度も復唱する
「どうだい?気に入らなかったらべつのをかんがえるが…」
そう問われた時にはもう答えは決まっていた
「いえ、これが…この名前がいいです!」
「そうかい!気に入ってくれてあたしも嬉しいよ。あともう二つ、決まって早々なんだが、あたしは普段は少し省略してギルと呼ぶよ。ギルの方が呼びやすいからね。あと、ギルと私は家族になったんだから遠慮はなしだ。いいか?」
家族…その言葉にまた涙がこぼれる
涙を流しながらではあったが精一杯の笑顔でこの気持ちを伝える
「ありがとう…ナターシャさんこれからよろしくお願いします!」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよギル」
これから、ギルバート・アルダンテとしての新しい人生が、始まったのだ
早く出します詐欺してごめんなさい!!!
どうも、新年早々、大風邪ひいて寝込むという最悪なスタートをしたココナツです
今年の抱負は、出来るだけ早く話を投稿するです!
頑張るぞーオーー!!