ハーレム研修。貴方はそれでも可愛い女性に囲まれたいですか?
自分もハーレム物を読むのですが、大概が女の子達の仲がよくてこういう毒というか、イジメ要素のあるものって中々ないんですよね。探し方が悪いだけかもしれませんが。
なんというか、甘い物だけじゃなくて辛いものも食べたかったんです。
そんな訳でイジメ描写とか、女子の仲が悪いものが苦手な方は遠慮願います。
TS要素は本当に少ないです。
「調子のってんじゃねーよ」
通りすぎる時に、あまりにもドスの効いた声に、情けないことだが肝が冷えて、胃が痛くなってしまった。
冒頭の言葉を述べた、と言うよりも叩きつけたのはこの冒険者パーティの花形であり、リーダーである男と一番付き合いの長い少女だ。
茶色のふわふわとした髪に、妖精のような可愛らしい顔立ちの少女である。
名前はエリ。刈谷エリである。
何でも異世界から転移させられた、聖女の役割を与えられた少女である。
さて、言葉を叩きつけられた方。
こちらも少女であった。
名前はウイ。田所ウイである。
エリと比べると平々凡々を絵にかいたような、黒髪に眼鏡をした気弱そうに見える少女であった。
ウイはつい最近、この世界にやってきた。
右も左もわからず、うっかり奴隷商人に売り飛ばされそうになっている所を、この冒険者パーティのリーダーであり、ゆくゆくは世界を救う勇者という役割を与えられた男に助けられた。
男の名前は、和田トシ。
まだ幼さは残っているものの、精悍な顔つきの少年である。
さて、なんやかんやあってウイはこの少年が率いているパーティの仲間入りを果たしたのだが、このパーティ少し問題があった。
男女の比率が一対五なのである。
ちなみに、男が一、女が五である。
そう、女性の方が多いのだ。
いわゆるハーレムパーティである。
ハーレムは、男の憧れなどと言うが、それは女の本性を知らなければの話である。
一人の男に複数の女。
こう言ったパーティの場合、よほどビジネスライクな関係と割りきっていなければ大変な事態になるのは明らかだ。
それが十代の、ガキんちょのパーティであれば尚更である。
その証拠に、すでにウイは洗礼を受けた。
別に調子に乗ったわけでも何でもない。
討伐クエストを無事終わらせ、トシに「ありがとう」と労ってもらっただけである。
ウイの体格はこのパーティの中で一番小さく小柄である。
そのため、労いの言葉をかけられた時、トシが小さい子供にするように頭を撫でたのだ。
ウイにしてみれば鳥肌モノ以外のなにものでもなかった。
しかし、それがエリにしてみると気に食わなかったようだ。
こうしてパーティに所属して、クエストをこなすようになって既に一ヶ月近く経過したのだが、このパーティがハーレムパーティであるためか、女の戦い、否、蹴落とし合いの一番の被害者にウイはなりつつあった。
トシの前では仲の良い振りをする女子たちは、その裏では醜すぎるほどの争いを、日夜繰り広げている。
正妻面しているエリは、トシとの付き合いも長く信頼が置かれている。
残りの三人の女性も、エルフに獣人族、魔族と個性的な面々が揃っている。
エリ以外、トシに救われて仲間になった者達である。
そういった経緯のためか、吊り橋効果でウイを除いた者が皆、トシに惚れていた。
しかし、肝心のトシはと言うと、今のところ特別な誰かを決めてはいない。
だからこそ、女の戦いはヒートアップしていくのだ。
只でさえ、お人好しな上にモテる彼は次々と人助けをして気づけば無自覚ハーレムを形成していた。
これ以上増えてくれるな、と女性陣が考えていた矢先にトシはウイを助け保護してきた。
初対面の時は、皆ウイに優しく接してくれたが、宿でのウイの歓迎会が終わり、トシにお休みと言って分かれ大部屋に戻るや本性を現した。
新入りなんだからベッドを使うなと言われ、毛布もなく床で眠ることを強制されたかと思えば、持っているアイテムは装備しているもの以外全て没収。
備え付けの浴槽に宿の人が準備してくれた湯はエリの魔法で水に変えられ、さらに気を利かせてお湯を持ってきた従業員を営業スマイルで追い返した。
殴る蹴るは、基本なかった。証拠が残るためだ。
そんなこんなで、女の恐ろしさの洗礼を受け、陰湿な嫌がらせを受ける日々はウイでなかったらとっくに根をあげていることだろう。
「トシに言いたかったら言えば? 信用してもらえる立場だと信じてるなら言ってもいいよ」
「勘違いしない方がいいよ、トシは皆に優しいんだから」
「てゆうかさ、自分が私たちにどう思われてるか自覚しなよ」
「そう言えば、トシさんから何か聞いてないの?」
宿に戻って、食堂で食事をしたあといつもの尋問が始まった。
つるし上げだろう。こうしてネチネチと嫌みを言われ続けるのだ。
三番目の質問まではうつ向いて聞いていたウイだったが、四番目の質問に不思議そうに顔をあげた。
「えっと、その、何かってなんでしょうか?」
そこでその質問をした魔族の少女は、にやにやと笑みを浮かべた。
「そうね。例えば貴女をパーティから外す話とか。
まだならきっとこれからするのかもね。でも、この子が言ったように私たち、トシも含めてどう思われてるかちゃんと自覚した方がいいよ」
読者の皆様、お分かり頂けただろうか?
これが女性の陰湿さである。
魔族の少女は面と向かって、ウイを罵倒したりしないのだ。
言葉の裏を読むこと。意味合いを察することが女性特有の会話の仕方である。
【皆からどう思われてるか、ちゃんと自覚した方が良い】これは意訳すると【これまでの扱いで嫌われてるって気づいたでしょ? トシも貴女のこと嫌ってるよ】である。
「はぁ、さっきはありがとうと言ってもらえたので、少なくともクエストには貢献していると受け取っていますが」
その返しに、さらに蔑みの視線が酷くなる。
今度は獣人の少女が言ってくる。
「あっそう! へぇ! つまりは自分は特別だから痛くも痒くもない、と」
「いや、そんなこと」
言っていない、と続けようとした言葉を遮られる。
というか、言わせないようにする。
ウイに発言権はない、とばかりに今日のクエストでのダメ出しをされ、【イヤらしい目でトシを誘惑してすみませんでした】と言えと強制された。
ウイは正直ドン引きであった。
そこまでして、普段は憎みあい足を引っ張りあっているはずの四人は共通の敵を追い出すため徒党を組んでいるのである。
怖いにもほどがある。
その日はそれで終わった。
しかし、翌日にさらに畳み掛けるような攻撃が始まったのだ。
男にはわからない程度の嫌みを、普段から言うようになったのだ。
例えば、【この前も教えたよね? この陣の時は云々】、【またミスして! ねぇいつになったら覚えるの?】、【やる気あるの? へぇ、返事だけはいいんだね】、【言われなくても動くの基本でしょう? ねぇ今まで何してたの?】
さてそんな公開処刑が続いたある日、それは唐突に訪れた。
クエストを終え、日課になった嫌味の時間が始まろうとしていた。
しかし、突如トシのパーティメンバー全員が天界の、女神の下へ召喚されたのである。
それは、トシとエリ、そしてウイを異世界へ転移させた女神であった。
美しい女神は、微笑みを湛えて全員を一瞥すると告げた。
「これ以上、あなた方に世界の命運を任せておけないと判断しました」
トシとエリは元の世界に強制送還。獣人、エルフ、魔族の少女達は時間を戻され元の生活に戻ることを告げられる。
当然、文句が噴出した。しかし女神はそれを黙らせる。
理由をいちいち説明するのが面倒なのか、パーティメンバー全員に、ウイへの態度の映像を見せる。
「お前らふざけるなよ!」
激昂したのはトシだった。
「お止めなさい! 見苦しいにも程があります。
貴方だって、女性達が自分を取り合う様に愉悦を感じて見てみぬ振りをしていたでしょう」
「そんなことは」
「無いとは言わせません。とにかくこれはすでに決定事項です。今までお疲れさまでした」
「ちょ、ちょっと待て。ウイの処分はどうなるんだ?」
そのトシの言葉に、女神は優しくクスッと笑うと、ウイにかけていた魔法を解いた。
現れたのは、地味ではあるが整った顔立ちの、もう何年かすれば美形になるだろう優しげな顔立ちの少年であった。
「貴方の後釜となってもらいます。これはいわば研修、いえチュートリアルだったんですよ。
女性を侍らすルートは大人気なのですが、その分トラブルも多い。そのため一番問題のあるパーティの素行調査を兼ねて女性の醜さを知ってもらおうとなったのです。
ウイ。どうしますか? ハーレム、作りますか?」
話を振られたウイは、女神を真っ直ぐみて、
「女って、怖いですね」
そう返した。
それから、数分前まで仲間だった者達を見て言った。
「安心しろ。あんた達の代わりにしっかり世界は救ってやるから」
女神は満足そうに頷くと、ウイの元仲間達を元の場所へと戻した。
それは有無を言わせない素早さで、元仲間達は消え失せる。
「さて、それでは。世界のこと頼みましたよ? ウイ」
ウイは苦笑で返した。