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おかしな水先案内人

作者: 古賀める緒

  どうも、こんにちは。

 え、ここはどこかって?どこだと思いますか?

 記憶がないようですね。まぁ、仕方ないと思いますよ。

 一瞬のことでしたから。


 ええ、そうです。

 あなた死んだんですよ。

 交通事故です。


 覚えてないでしょうね。

 完全に死角からでしたからね。

 そうそう、あなたが自転車で信号待ちしてるところで。

 ダンプがズドン、ってね。

 ご愁傷さまです。


 まぁ、よかったじゃないですか。

 苦しむこともなく終わったわけですし。

 生きていたってどうせ、いつかは死んだわけですから。


 え、残された家族が不憫?

 ははは、面白いこと言いますね、あなた。

 大丈夫ですよ。

 あなたがいなくたって、彼らはちゃんと生きていきますし、彼らもいつかちゃんと死にますから。

 心配しなくても、あなたのことを覚えてる人なんて、すぐいなくなりますよ。


 え、酷いことを言う?

 イヤだなぁ、事実を言ったまでじゃないですか。

 それともなんですか?

 あなたはこれからずっと自分の名が、永久に後世まで語り継がれていくと思ってたんですか?

 ね、そうでしょ。

 あなたの命なんて、その程度のものなんですよ。

 だから、気に病むことなんてありません。


 え、そもそもお前は誰かって?

 これは大変失礼いたしました。

 名前を名乗っておりませんでしたね。

 ここはあなた方風に、"水先案内人"とでも名乗っておきましょうか。

 え?ふざけた名前だって?

 ははは、これは失礼いたしました。


 まぁ、私のことはいいじゃないですか。

 まずは自分の心配事の方が先じゃないんですか?

 そうでしょ?

 よかったよかった。

 物分かりが良くて助かりますよ。


 それでは、現時点でなにか質問ありますか?

 今なら何にでもお答えしますよ。

 それであなたの気が済むならね。


 え、自分はこれからどこに行くかって?

 どこだと思います?

 天国か地獄か、って?

 あははは、あなた本当におめでたい人ですね。

 いや、失敬、失敬。

 でも、本当に信じてたんですか?

 無垢な人だなぁ...


 こっちだって、そんな暇ないですよ。

 誰も彼もが天国か地獄かに選別されて、そこにずっと居続けるってやつですよね。

 そんな運営をするのに、どれだけの人員とコストがかかると思いますか?

 そんな予算も人員もないですよ。

 分かるでしょ?

 あなたの世界と同じですよ。

 こちとら万年人員不足ですから。

 本当に世知辛い世の中ですよ。

 

 じゃあ、自分はこれからどうなるのかって?

 簡単ですよ。

 次の命に生まれ変わるんです。

 あなた方の言葉で、輪廻転生っていうんですか?

 死んでは生き返り、死んでは生き返りを、永遠に繰り返していくわけです。

 生命の循環ですね。

 物事は循環が大事なんです。

 お互いに、休んでる暇なんかないわけです。

 大変ですよね。


 自分は次は何に生まれ変わるのかって?

 ...別になんだっていいじゃないですか。

 あなた方はこの質問、必ず聞きますよね。

 そんなに気になるものですか?


 ほう、前世の行いが、生まれ変わる時に影響すると?

 影響しませんよ。全く。ご心配なく。

 あなた方はただ生きて、ただ死ぬだけですから。

 それ以外に何をしようが、なにも影響ありません。

 残念でしたね。

 それとも、ホッとしました?


 え、行いの善悪があるはずだ?

 だって、そんなもの、我々には何の影響もないですから。

 関係ないですよ。

 そもそも善悪なんて、あなた方が勝手に決めたルールでしょ?

 なんで我々が、あなた方のルールに従わなきゃならないんですか。

 おかしいでしょ。

 自分で勝手に決めたルールなんだから、好きにしたらいいじゃないですか。

 我々を巻き込まないでいただきたいものですね。


 分かっていただけるか分かりませんが、あなた方が我々に影響できるものは、なにひとつないんです。

 そのことをよくよく心に刻んで、身のほどをわきまえていただきたいものですね。


 え、人間には自由意思があるはずだ?

 ははは、何を言ってるんですか、あなたは。

 あなた方が生きている間に何を行ったって、こちらにはなんの影響もないとさっき言ったじゃないですか。

 あなた方の行いなんて、所詮その程度の影響力だし、あなた方の自由意思なんて、その程度のものですよ。

 あなた方は結局、重力と酸素に縛られて、自分達の意思でコントロールできる部分はごく僅かですしね。

 そんな状態でできる意思決定や行動なんか、所詮限られているんですよ。

 残念ながらね。


 では、なぜ自分達は生きるのかって?

 面白いこと聞きますね、あなた。

 それを聞いてどうするんですか?

 ただ知りたい?

 なるほど、あなたは手品の種を知りたがるタイプですね。

 でも、手品の種を知ると、何だか虚しくなりませんか?

 『なんだ、こんなことか』って思うと、妙にガッカリしたりとか。

 それでも知りたい?

 まぁ、いいですけど。

 どうせ、ここでのことは生まれ変わったら忘れますし。

 ガッカリしないでくださいよ?


 いや、簡単な話ですよ。

 血液がなぜ循環してるか分かりますか?

 そう、あなたが生きるためですよね。

 では、あなた方の命がなぜ循環しているか?

 それは、我々が生きるためですよ。


 我々とはなにかって?

 まぁ、あなた方が言うところの「神」といえばいいのか、とにかく高次元の存在だと思ってください。

 あなた方の命は、我々を構成している要素のひとつ、つまり血液のようなものなんですよ。


 つまり、あなた達の命の循環で生み出されるエネルギーによって、我々が生きていけるわけです。

 そういう意味では、我々もまた、あなた達に生かされていると言えるでしょうね。

 例えば、心臓が動かなくなったら、あなた達は困るでしょ?

 心臓が動いて、血液を循環させることで、あなた達は生かされているんです。

 それと同じことですよ。


 どうですか?

 スッキリしました?

 ね、やっぱりそうでしょ。

 みんなその顔をするんですよ。

 どうにも承服しかねる、っていう顔をするんですよね。


 じゃあ、生かされている理由はなんなのかって?

 さぁ、どうでしょう、知りませんよ、そんなこと。

 別にいいじゃないですか、理由なんかなんだって。

 自分で勝手に決めれば良いんです。

 それに、あなたが生きて死ぬことで、他の誰かに貢献できているわけですよ。

 それだけで、素晴らしいことじゃないですか。

 え、納得できない?

 ははは、困った人ですね、あなたは。

 

 そもそも、納得してもらう必要なんかないんですよ。

 例えば、あなたがもし、あなたの心臓から「なぜ自分は生きてるのか?」って聞かれたらどう答えます?

 「<私>が生きていくため」って言いません?

 じゃぁ、「自分が生かされている理由ってなに?」って聞かれたら、なんて答えるんですか?

 「知るかそんなこと」って言うでしょ?

 それと同じですよ。


 さて、そろそろ出口が見えてきましたね。

 明かりが見えてきたでしょ?

 いよいよ、次の人生が始まります。

 準備は良いですか?


 次は気をつけて、ぜひ長生きしてくださいね。

 なるべく長く生きてくれた方が、死後に発生するエネルギーが多くなるのでね。

 我々にとっても、嬉しいわけですよ。

 これ、言わない予定でしたけど、オマケで伝えておきます。

 頑張る気になりました?

 え、余計に気力が無くなったって?

 ははは、生まれる前からそれでは、先が思いやられますよ。


 まぁ、大丈夫です。

 何よりも、基本的にあなた方には、「生き続けたい」という本能が、プログラムとして組み込まれてますから。

 あなたが生まれ落ちた瞬間から、あなたの全細胞のひとつひとつが、その本能に従って邁進するわけです。

 だから、あなたはそれに身を任せればいいんですよ。


 それに、あなた方には効率よく繁殖してもらえるように、交配時にはとびきり快感を伴うようにプログラムされてありますしね。

 抜かりないでしょ?

 命が次々と生まれてくれないと、我々が困りますから。


 さて、そろそろお別れです。

 何か言い残すことはありますか?

 

 世の中が意外に無機質な仕組みで驚いた?

 ははは、どんな世界を想像してたんですか。

 無機質とは聞こえが悪いので、シンプルと言っていただきたいですね。

 物事は常にシンプルなんですよ。

 なにも複雑なことなんかないんです。

 単純な仕組みほど強靭ですしね。


 世の中がもし複雑だと思っているなら、物事を勝手に複雑にしているのは、ひょっとしたら、あなた自身かもしれませんね。

 

 さて、時間になりました。

 大丈夫です。そう悲しがる必要はありません。

 またすぐ会えますから。

 え、全然悲しくない?

 ははは、それはよかった。

 

 それでは、ここに入ってください。 

 ちなみに拒否権はありません。

 はい、そんな感じで構いません。

 ありがとうございます。

 気持ち悪いところはありませんか?

 私の存在?

 ははは、面白い冗談ですね。


 しかし、あなたは本当に面白い人ですね。

 おかげで久々に楽しめました。

 私はこれでも働き者でしてね。

 普段はなかなかここまでリップサービスすることもないのですが。

 今日は言わなくていいことまで言ってしまいましたよ。

 え、確かに一言多い?

 ははは、それはよく言われます。


 それではまた会いましょう。

 あなたのご多幸を祈っています。

 ご機嫌よう。

 さようなら。





 「死んだらどうなるのだろう?」という問いと、「そもそも生きている意味ってなに?」という問いから生まれた小説。

 色んな解釈があると思いますが、それもまた面白いと思います。

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