9、厨二病だった俺が生き抜くため 1
この国は高い城壁に囲まれている。
門から出るのはこの場合は避けるべきではあるが、ここで俺は一つ賭けに出る。
最も大きい街道の隣の路地を走る。
そしてほぼ一直線で門に着くと、門番にこう話しかけた。
「早く出してくれ!緊急だ!」
「何だ?緊急といっても理由を聞かなきゃ……」
「詮索するな!」
そう言いながらネックレスを見せる。
あれは地位の高い人間しか手に入れられないはずだ。
「は、はっ!貴族様でしたか。
どうぞお通り下さい。」
そういうと門番はピシッと敬礼した。どうやら賭けには勝ったようだ。
そしてまた走りだす。魔術の基本論理は頭に入っているからして、どこかしらの集落まで生き抜く力を文字通り命がけで手に入れる。
斯くして、俺は街道を離れ、森の中へと入っていった。
森に入って少し。俺は土に手を当て、ある容器を作っていた。
やかんが一つ。そのやかんの出口がもう一つのやかんの底に入れるような形で作製。
ひたすら集中して造る。土を手足のように思えるほどに集中力が高まったあたりで、その容器は完成した。
したらば、その一つ目のやかんに水を入れる。そして二つのやかんに火を創る。最後に二つ目のやかんの出口を風の力で蓋をする。
そして火を保ったまま森の中を進んでいく。食べれそうな感じのものを探さなければならない。知覚を最大限解放するように集中する。こればかりはきっと魔術ではどうにもならない。
数刻進んだ後、草を食む牛を発見する。牛はこちらを見つけたようでこちらに顔を向けた。その顔は苦痛に歪んだ人の顔のようなものだった。
「ヘッヘへへへへへへへ!」
苦痛に歪んだ醜悪な顔で狂気に満ちた笑い声。
俺が恐怖するのには充分だったが、発狂する程ではない。
俺は牛に近づき、顔に二つ目のやかんの出口を牛に向けて噴射する。
「ヘブッ!へへヘヘッ!」
顔の右半分は高熱により融けた。
俺がした事は単純。水を加熱すれば水蒸気が出来る。そして水蒸気を加熱すると過熱水蒸気になるのだ。
歩いている間ずっと超高温で熱し続けた水蒸気は臨界点を突破し、超臨界水となる。
それを熱した圧力によって噴射したのだ。むしろ顔面半分で済んでいる意味がわからない。
「へへヘヘッ……」
牛はこちらに突っ込んできたが、過熱水蒸気製造機を投げつけたら死んだ。
容器はもう使い物にならないので必要ない。これでも砂鉄に炭素を混ぜ、いわゆる【玉鋼】を造ったつもりだったのだが、壊れ、融け、使い物にならなくなってしまった。
だが、牛は恐らく1トンはあるサイズだ。これでしばらく生き抜く事はできるだろう。
次は寝床を探さなければならないな。