8、緒戦
「うちの拾い子が行った事だ。」
ん?どうやらおじいちゃんが誰かと話しているっぽい。
邪魔になるのも悪いし物陰で話が終わるまで待とう。
「拾い子?本来なら報告が必要ですが?」
青年のような若々しい声だ。
「報告が遅れたのは申し訳ない。拾い子は魔力を潤沢に秘める事ができる才能がある。だからこそ暴走されると困った。だから教育を施していた。」
おじいちゃんはおじいちゃんボイスだね。てか嘘と本当を混ぜるの上手いね。
「しかし、昨日は一人でにやった実験で暴走してしまったようなのだ。暴走してしまった以上、この騒動を収めるのは手間だろう。ここは一つ、うちの拾い子で妥協しては頂けないか?」
「……男ですか?女ですか?」
「男だ。しかし顔立ちは整っている方だ。」
「女ではない……それは少し厳しいですかね……」
「だが魔術には深い才能がある。最悪特攻させても破壊力はあるぞ?」
「なるほど。だがそれだけです。そんなことは誰だってできますよ。」
「くっ……
研究結果一つ用意する。それでどうだ?」
「……まぁ妥協しましょう。」
話が終わるとおじいちゃんは書斎へと向かった。
これはまずい状況だ。おそらく拾い子とは俺の事。そしその拾い子を売る交渉をしていたように思える。
これは恐らくファンタジーにある【奴隷落ち】だろう。
元々立場がない俺だが、奴隷という立場が確定するのはまずい。逃げ場がなくなる。
幸いにも話していた誰かは何をするでもなく座っていて、こちらを見ていない。逃げるならば今だ。
キッチンへと向かう。キッチンに一度入ったことがある。キッチンには火事の時逃げるため非常口が設置されている。
キッチンは食器が美しく並んでいる。そしてアンドレアが昼飯の用意していた。
「あ、ユスティンおはよう。」
「お姉ちゃん、おじいちゃんにサプライズしたいから、ここから出たことは秘密だよ?」
「もちろんだよ!」
心が痛むが、ここで嘘をつかなければ人生的な死が待っている。
俺は非常口を開き、裏口へとダッシュする。
広い裏庭を駆け抜け、門まで一歩というところで正面に風が吹き出した。ここを通ることは飛ばされて壁に打ち付けられることと同義と考えて良さそうだ。
「ハッハッハッ!ユスティン、今まで優しくしてくれたおじいちゃんから逃げるなんてひどいじゃないか?ん?」
「ねぇ、ユスティンは「あれ」に入れるべきじゃないよ!」
「いや、これは魔術王に売る。
良いだろうユスティン?ここの王の下で働けるのだ。
泣いて喜ぶべき待遇だぞ?」
「ユスティンは有能よ!絶対に手放すのは惜しい!」
「決定事項だ。地位が落ち、実験が出来なくなるのは一大事だ。
ユスティン、『気流壁』を見るのは初めてかな?
魔素を魔道具で衝撃を伝えることで風を作り出しているのだ。これもわしの発明だよ、すごいだろう?」
おじいちゃん、いやエリアスは初めて見た笑み同様の顔だ。
前まで優しいおじいちゃんの笑みだったそれは、今や欲にまみれた老人の笑みに見えてくる。
だが魔術の仕組みは聞いた。ならば攻略は難しいことではない。
俺は右側に酸化で高熱を発する元素を創造し、左側には湿った風と熱された空気を吸う元素を創り出す。
すると『気流壁』は上昇気流と変化して無効化された。
「何をやっている……?『熱風』と『冷感』か?
まさか無詠唱で構築するとは……
ッ!?何故『気流壁』がなくなる!?」
「今までありがとう。クソジジイ。」
「待てぇ!ユスティィィン!!」
俺は裏口から国の門目指しダッシュした。