厨二病だった俺が生き抜くため 3
私は魔術の国から1日ほどで到着するほど近くの村スディで猟師の男をお父さんに持つ、何てことない農民だ。
私のお母さんはノモモンという植物の茎をすり潰したものを一週間毎に摂らなければ血を吐き死んでしまう病気に罹っている。でも、それさえ摂れば元気そのものなお母さんだからなんも感じることはなかった。
けれど、その日常は火事によって全て灰塵に帰す事となる。
火事によってお父さんは死んだ。お母さんは助けに来た村の人によって救われたが、ノモモンの薬は全て燃えてしまった。
いつもノモモンの茎が取れるスディの森は今は人面牛の発情期で近づくことが出来ない。村の人も、お母さんも諦めていた。
でも私は諦めない。お父さんが居なくなった上でお母さんも居なくなったら生きていけない。例え村の人が助けてくれても心は死ぬ。
だからスディの森に入る事を悩むことなんてなかった。
私は幼いから小柄だ。かくれんぼでも負けたことはない。だから村からこっそり出るのは簡単だった。
森に入り、私は慎重にノモモンを探す。20分くらい前方に進んだ頃だろうか?私はノモモンを見つけた。
大はしゃぎで根元から引っこ抜き、持ってきたバスケットに何本か入れた。これで発情期が終わる頃までは足りるだろう。
気持ちが高ぶっていたことで、私は背後から近寄る人面牛に気づくのはその間合いに入られた時だった。
バスケットを顔に投げつけ一瞬の時間を稼ぎ、逃げようとするが、たかが9、10歳の足で逃げ出せるはずもなく人面牛は走り出した。
大分手を抜き人面牛は私の前に回り込み、下卑た顔でこちらを覗き込む。
恐怖のあまりへたり込んだ私の眼前から、人面牛は左側へと吹き飛んだ。何かが人面牛にあたり、その勢いで吹き飛んだのだ。
「何か」の飛んできた方向を見ると、その瞬間、世界的な魔術師が使うような大爆発を起こした。
そして私は見てしまった。狂ったように笑い声をあげながら爆発を起こす彼が、鳶色の美しい瞳をしているのを。
彼は人面牛に木を根元から引き抜き投げつけたり、近くまで来た人面牛の頭を握りつぶしたり、足を踏み鳴らしクラックを作り出したりしていた。
逃げるべきだが、彼が嗤う度、彼の鳶色の瞳は数瞬のみ若草色に変化する。その光景の誘惑には逆らえなく、私はフラフラと彼の方向へと進んでしまう。
そして彼は私のギリギリ前までを覆う大爆発を起こし、爆風が消え去る頃には倒れていた。
放っておいたら死ぬ。しかし彼に構ったら共倒れだ。それを分かっていて尚、彼を背負って私はノモモンの残骸を拾い集め、村の方向へと駆け出した。