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13 救援

 徐々に数が減って動きやすくなった襲撃者が俺へと向き直ろうとすれば、すかさずトクタル達が攻勢に出る。

 敵はなりふりを構っていないため動きは粗くお互いの連携もない。

 それに引き換え俺達は不思議と息が合い意外に容易く勝敗が決した。

 さすがに部族の巫女の護衛は手練れが揃っていたようだ。

「ザイン、ありがとう。助かりました」

 いつもより顔色を少し悪くしたサラハが俺の前に立つ。

「それよりもお経我が!?」

「大丈夫です―――でもあなたとルミナが一緒ではないということは、あの子はラクの部族ヘ一人で応援を求めに行ったのですね・・・・・・」

 俺はルミナの姿がここに無い理由を知って眉をひそめた。

「ラク族?」

「ここから半日ほど東へ行ったところに野営地を構えている私達と共闘の盟約を結ぶ者達です。今日の昼に来ていたのは知っていますか?」

「・・・・・・エランと一緒だった男達ですね」

 ルミナの様子がおかしくなったことも俺は思い出した。

 そうだった、彼女は普通ではなかったのだ。

 俺は握り締めた手の平に嫌な汗を感じる。

 だがこの場は何とか勝ちを収めたが、まだまだ劣勢には違いない。

 ルミナのところへ向かうか、サラハを守るか。

 落ち着かない俺を見たサラハが場違いに少し寂し気な笑みを見せた。

「ザイン、行ってくれますか? この場はトクタル達と必ず持ちこたえてみせます。だから必ずルミナと共にラク族を連れて来てください」

 部族同士の盟約は敵にも知られているので待ち伏せがあるかもしれず、向かっているルミナやこれから立とうとする俺にも危険は待ち構える。

 しかしこの場に残る方が遥かに危ういことは肌で感じられる。

 野営地の中で見た敵と味方の数が違い過ぎるのだ。

 救援の確実性を増やすか、こちらを持たせるか。

 決めかねて黙ったままの俺に彼女が静かに告げる。

「―――もし私達が倒されていたら、そのままあの子を連れてどこか遠くへ逃げてください」

「・・・・・・いいえ、必ず間に合わせます」

 彼女は望みを口にすることで答えを与えてくれたのだ。

 もちろん俺は逃げるためにこの場を離れるのではない。

 だがサラハはそれも考えて行かせようとしている。

 俺のためだけではないのは分かっているが、胸が締め付けられる。

 これが母か―――。

 俺は彼女へ一礼をしてから近くに佇んでいる栗毛を呼び寄せて、白の天幕へと馬首を向けた。

 さすがに手元を頼りなく感じていたのでサラハの長槍を手にしてからルミナを追いかけるつもりだった。


 昼間にルミナと手合せをした広場へと引き返し目的の物はすぐに見つけたが、その周りに十人前後の騎影がある。

 ―――どういうことだ?

 しばらく様子を窺っているとその中に一頭の見慣れた白馬に気づいた。

 そして騎乗する人物がサラハの長槍を引き抜く。

 俺が合図を入れるまでもなく、栗毛は吸い寄せられるようにそちらへと走っていた。

「ルミナっ!!!!」

 俺の声を聞く前に彼女も白馬を一歩進ませ集団を出てこちらへ近づいていた。

「ザイン―――無事なのは分かっていたけれど本当に良かった・・・・・・」

 彼女は疲れたように微笑む。

 いや、実際疲れているはずだった。

 俺も少しだけ安堵のため息をついた。

「ああ。サラハ様もケガをしているがトクタル達が守ってくれている」

「やっぱり・・・・・・いつもの力が感じられないのよ。母様はどこ?」

「こっちだ、案内する」

 俺はすぐに取って返そうと馬首を向けた。

「待って。ワンド、族長の天幕はさらに奥へ行ったところです。そちらを頼みます」

「任せろ、我が巫女よ!」

 ルミナが側にいた若者へ声を掛けた。

 俺はそいつに見覚えがある。

 昼間にサラハの天幕へ入って行ったラク族の者だ。

 彼は周囲の者達を引き連れルミナが指す方へ勢いよく駆け出した。

「私達も行きましょう。ザインにはこれを」

 ルミナは辺りの燃え盛る炎を受けて朱に輝く短槍を差し出した。

「何のつもりだ?」

「槍がないみたいだから・・・・・・使ってくれない?」

「それならサラハ様の長槍を貸してくれ。これはお前の大切な武器だ」

「もう掃討戦になるからから短い槍で私を守って・・・・・・そして長槍は私に任せて」

「―――分かった」

 この戦場で最も生き残れるであろう選択は、俺が短槍、ルミナが長槍を持つことだ。

 情けないがそれが今の実力だ。

 俺は短槍を受け取って先ほどサラハを見つけた場所へルミナを案内し、すぐに二人を会わせることができた。

 ほとんど動いていなかったのは彼女がケガをしていたことと、倒されずに残っている天幕の側で人目を遮ろうと考えたからだろう。


「母様っ! おケガは大丈夫ですか!?」

 白馬を飛び降りたルミナはサラハの元へと駆け寄り抱きついた。

 本当に心配だったのだろう。

「ルミナ・・・・・・あなたこそケガはありませんか? 私は大丈夫ですから」

「でもっ!」

 サラハはケガをしていない方の右腕で愛娘の肩を優しく抱いた。

「本当に大丈夫です。こんなにも早く戻って来てくれて本当によくやってくれました。ありがとう、ルミナ」

「いいえ、精霊ジンが落ち着かないことを心配して、母様が昼間にラクの者達へ注意を喚起されていたお陰です。彼らも空の色で異変に気づいたらしく、私が駆けつけた時には応援の準備も済んでおりました。ワンド達も族長を助けに向かってくれていますのでご安心ください」

「そうでしたか・・・・・・」

 ルミナから危機が去りつつあること知らされたにしては、サラハの表情は何処となく冴えない。

「ところでどうしてその槍を?」

 サラハはルミナが持つ長槍に怪訝そうな視線を投げかけると、少し離れた所で短槍を握る俺へ目を向けて少し辛そうな笑顔を見せた。

 彼女にも槍の腕ではルミナに敵わないことを同情されてしまったのか。

 いや、分かっているから俺も冷静に受け止めるぞ。

「これは―――」

 俺が事情を説明しつつ歩み寄ろうとしたところ、ルミナが急に俺とサラハの間に立って俺へ背を向けたまま口早に話をし始めた。

「い、いえ、ザインが武器を持っていなかったので危ないから私の槍を譲って、代わりに私が父様の長槍をお借りしています。それだけですっ」

「―――そうなのですか?」

 サラハは俺とルミナを交互に見遣り、何か言いたげである。

 俺は腰に剣を帯びているが、騎馬の民にとって武器とは槍のことである。

 それはいいとしても譲られた覚えはない。

 しかし俺が口を開く間もなく、再びルミナが言葉を発した。

「そうです。ですからこの―――ムラート様の槍は――――守り手たるサラハ様の元へお返しします」

 彼女が両手で静かに差し出した長槍を、サラハも両手を震わせながら握り締める。

「・・・・・・確かに―――受け取りました」

 二人の周りにいたトクタル達がそれを見て片膝を着き拱手をし始めた。

 何かの儀式か?

 どうして急に父と母の呼び方を変えた?

 これまで俺も彼女から長槍を借りて、手合せが終われば返すことを何度もしているが、このような場面はなかった。

 理由を聞きたいが雰囲気がそれを許さなかった。

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