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学園HERO  作者: きーち
3/9

やらねばならぬ

「この学園は様々な火種を綯交ぜにした爆弾庫だ。直接的な解決方法というのは、それそのまま、爆弾庫を爆発させることに他ならない。私の目的はそこらをヒーロー的観点から防ぎ、曖昧、灰色の決着を目指すという…………おや、もうこんな時間か」

 学園ウルフの講義を聞きながら、彼の声に釣られて教室の窓を見た。外はすっかり日が落ちている。

 一度、この教室での訓練で床に突っ伏すことになってからも、講義と実践訓練を何度か繰り返していたのだ。これくらいの時間は経つだろう。

「こういう時こそ、寮の門限っていうのが邪魔にしかならないって切に思っちまいますよね」

「馬鹿を言うな。学生にとっての門限は社会にとっても家庭にとっても、良い側面が多いのだ。さあ、間に合わなくなる前に帰りたまえよ。体は動くだろう?」

 実践訓練で散々体を痛めつけられたものの、立てず動けずと言う状態ではない。そうならぬ様に手加減をされていたという事だ。

(それくらいの力量差はあるってわけだよな。ったく。誰も彼も自分より高い位置にいる)

 真っ先に浮かびそうになった姉の顔を頭から振り払い、俺は寮へ帰るための支度をする。と言っても、立ち上がり、壁に立て掛ける様に置いてあった学生鞄を手に取るくらいであるが、その前にちょっと思い出したことがある。

「ああ、そうだ。先生。ちょっと良いですか?」

「うむ? 何かね?」

 学園ウルフの方も、こちらが去り次第、どこかへと帰るつもりなのだろう(想像したら酷く馬鹿らしい光景が浮かぶ)が、とりあえず話しておかなければなるまい。

 彼の返事は、若干、気が抜けた様な口調であるものの。

「伝えておいた方が良いと思うことがありまして。いちいち小姑が如く学園の人間関係を把握していて、いらんことまで覗きたがる出歯亀根性丸出しな先生には必要の無いことかもしれませんけど」

「君の言葉から嫌味しか感じない私を許して欲しい。これでもまだ人間性が仏の如くまで昇華されていないのだ」

 良くわからない例えを口にする学園ウルフの言葉は無視しておいて、続きを話すことにする。

「うちのクラスの宇宙人と魔法使いは知ってますかね?」

「そういう呼び方は好きではないな。差別的表現云々以前に、真実にわざわざ布を被せる行為だよ。だからこういうべきだ。レイレリス・アクネイターとファリッサ・ルイ・コートナについてだとな」

 やはりストーカー一歩手前くらいには事情を把握しているではないか。彼女らが本当の意味での問題児であり、ある程度名が通っているという理由も無いわけではあるまいが。

「あー………はい。すみません。その二人です。その二人ですが、もう一触即発です。というか、今日、事が起こっても仕方ありませんでした」

 今日の朝に起こった事について、思い出しながら学園ウルフに伝える。あれだって教師がやってくるタイミングが良かったからなんとかなったのであって、少し遅ければ、そのまま爆発していたと思う。

「だろうな。そろそろなんとかしなければなるまいと思ってはいた」

 思案する様子(と言っても、顔は覆面だ)の学園ウルフ。こちらが口にした例の二人に関しては、今日起こった中庭での一件の問題とそう変わりは無い。 

 両者共に不安定な陣営の一派であり、さらに二人はその一派の中でもある程度の地位にあった。

「ファリッサ嬢は確か次期月の指導者層を期待されている身であったな。レイレリス嬢についてはもう説明する必要すら無い。貴族の子女だ。クラスでも、雰囲気からしてお嬢様、と言った感じだろう?」

 しっかり彼女らの立場も理解しているらしい学園ウルフ。もしかして、彼は学園中の生徒の動向や立場を認識下に置いているのだろうか。

 学園には地球、それも日本の学生制度が多く導入されているから、身分によりクラスを分けるなどとはしていない。ある視点だけで見れば正しい事なのかもしれないが、今回はきっとそれが仇となっている。

「ぶつかったら、学園内での単なる喧嘩で収まりますかね?」

「収まるものか。それだけは確実だぞ。一度大きくぶつかれば、本人の意思如何に関わらず、どちらかに肩入れする連中がわらわらと出て来る」

 学園ウルフから見てもそうらしい。俺も俺で、そんな事態になるのではと懸念していた。

「こう………学生同士の闘争とかになります……かね?」

「なる。月に属する生徒らは常に護身用の道具を所有しているし、大陸の魔法使いはもう魔法そのものが脅威だ」

 所詮学生。などと侮らない方が良い。彼らも彼らで、自らの陣営の面子を背負って学園に来ているのだ。

 異種族は敵とは言わないが違う存在である。いざとなれば相応の対処を。そう教えられて学園に来ている生徒が殆どだ。

「学内では喧嘩は禁止ですよ?」

「なら学外でやらかすかもしれんな。それに今日の喧嘩とて、学外での事だというのを忘れてはならんぞ? 未然に防ぐということもできん。爆発するものを抑えたところで、何時かどこかで同じくらいの規模で爆発する」

 その通りだろうとも。人の性根に手を出さない限り、鬱屈やら苛立ちと言った感情は溜まり続けるものだ。

「やらかすならやらかせば良い。人間関係のしがらみなんぞ、どこにでも転がっているのだ。そんな事にいちいち首を突っ込んではいられない。ただし、どちらかが勝者になる事だけは避けねばなるまいなぁ」

 宇宙人陣営と魔法使い陣営の生徒の幾らかがぶつかる事を学園ウルフは想定しているのだろう。

 俺も、そうなると考えている。クラスでの諍いの中でレイレリスとファリッサ。どちらかが手を出した段階でスタートだ。

 二人の喧嘩に俺も俺もと参加する人間が出て来ることだろう。そうなった時、その二人はどう思うだろうか? 喧嘩が自分達の手から離れて行ったと気付いたところで、それはもうきっと遅い。

「じゃあ、折を見て先生がまた、あの妙に古臭い音楽を鳴らしつつ、馬鹿みたいに笑いながら現れるわけですね?」

「ま、まあ。そういうことになるのだが…………ちょっとそこらで聞いておきたいのだが、本当に一触即発と言った様子だったのかね? その二人は」

 何を気になっているのか、学園ウルフは首を傾げながら聞いて来る。覆面なので、ボディランゲージを交えているのだろうが、大変鬱陶しい。

「ええ、そうりゃあもう。今日が何も起こらなかったってことは明日には事が始まるってことですよ。あれは」

「そうかぁ………」

 額に指を当てて困った様子(繰り返すが覆面だ)の学園ウルフ。

「何か問題でもあるんですか?」

「いや、あるのでは無く私の方に暇が無くなるかもしれない」

「はぁ?」

 暇が無いと言ったか、この男は。何時も覆面を被って活動しているというのに暇が無いだと?

「以前説明していたかもしれないが、私の真の正体はかつて学園に飾られていた銅像でな。定期的に銅像に戻り、太陽光を浴びないと、十分に活動できなくなってしまうというか―――

「何くだらないこと言ってるんですか! えっ、本当に動けないんですか? 何時から何時まで!?」

「ええっと……その………明日から一週間くらいはキツいかなーって……い、いや、急ぐぞ? こう、早く動ける様に、目一杯太陽の光を燦々とだな………」

「はぁ……もう良いです。じゃあこの件に関しては先生を頼れないってことですね。それじゃあ」

 学園ウルフの手は借りられないとなれば、さっさと教室から出よう。借りられぬ手をアテにするより、俺が何とかしなければ。

 そんな事を考えていると、学園ウルフに呼び止められた。

「待ちたまえ、いったい何をする気だ?」

「時間が無いんですよね? 俺なんて、先生ほどの腕は無いから、事前準備ですぐに動く必要があるんですよ」

「いや、それは分からんでも無い話だが………あ、ちょっと、だから待ちたまえって―――

 労力が足りぬとなれば、せめて時間の利くらいは手に入れなければなるまい。

 まだ学園ウルフは何かを話そうとしていたが、無視して帰宅する。これから暫く動けない人はいないものと思って考えよう。

 将来については、期待より不安が多い方が、対処も考え易いだろうから。




 次の日、俺は何時もより30分近く早く登校したおかげで、一部始終を見ることができた。

 日が差し込む教室にて、まず先にレイレリスが非常に不機嫌な顔で教室に入って来たのだ。不機嫌な理由は、恐らく昨日の喧嘩をまだ引き摺っているのだろう。

 レイレリスが教室へやってきてから暫くして、ファリッサがやってきた。

 彼女もまた不機嫌顔かと思ったが、意外にもそうでは無い。彼女は自信満々と言った表情でいるし、しかも背後に男子生徒を二人連れている。典型的な取り巻きだ。確か彼らも魔法使いだったはず。

(手勢連れての御用入りって感じかねぇ)

 ファリッサはレイレリスの顔を見ると、三人で彼女に近づく。自信満々な表情のそれに、あからさまな嘲りを混じらせながらだ。

(さてと、準備準備)

 ノートの何枚かを千切り、サインペンで文字を書くと、セロテープをノート紙の端に付ける。丁度、ノート紙をどこかへ貼れる様にだ。

「あーら。月のお嬢様。昨日の件はどうなったのかしら? なんとかいうあれ、見つかりました? もしかして、自分の部屋に置いてあったなんてことないですわよねぇ? ねぇ?」

「………見つかった」

 なにやら不穏な会話が聞こえて来るが、今は作業に集中しよう。こういうのはタイミングが重要なのだ。

「聞こえませんでしたわぁ。いったい何がどこで見つかったって言うんですの?」

「E型量子計算機は私の部屋にあったと言っているんだ! だが私の部屋の郵便受けにだ! そもそも何故その事をお前が知っている!」

「やだっ。もしかして、それもわたくしの仕業なんて言うつもりなのかしら? 宇宙人お嬢様ったら、とっても傲慢ですのね? いえ? 自分の不手際まで他人のせいにするなんて、傲慢というより恥知らずって言った方が宜しいかしら?」

「貴様ぁ! 今度と言う今度はっ―――

 ダンッと、俺は用意が終わったので自分の机を強く叩いた。丁度良く、喧嘩をしている二人にも聞こえたらしい。口論が止まってくれた。まさかこちらから音が響くとは思っていなかったらしい。しっかり叩いておいて良かった。手が痺れた甲斐もあるというもの。

 響いた音のせいで、こちらを見たまま、どうして良いのか分からない教室の生徒達。これは幸いと、口論をしていた二人、ついでにファリッサの付き添い二人の顔に、さっき用意したノート紙を貼って行った。

 それぞれ『煩いぞヒス女』『黙れ高慢ちき』『その他1』『その他2』と書かれている。

 どれがだれかだというのはどうでも良いことだ。一通り終わったところで自分の席に戻った。できれば彼らが日本語を読める存在であって欲しいものである。

「…………ええっと、いったいこれはどういうことなのかしら?」

 真っ先に自分の顔面に貼られたノート紙を剥がし、その内容を確認したのは高慢………違う、ファリッサだった。

「高慢ちきって言うのは、いかにも高慢であるさまって意味だな。あ、高慢って言う単語から教えた方が―――

「言葉の意味を聞いてるんじゃありませんわっ!! これをわたくしの顔に貼る意味を聞いてますの!」

 ノート紙を握り潰しながら、こちらへ寄ってくるファリッサ。髪の色と同じくらいに顔を真っ赤にしている。

 ちなみにレイレリスとファリッサの付き添い二人は、漸くノート紙を顔から剥がしたところである。先にファリッサが怒り始めたので、どうすれば良いのか困惑しているのかもしれない。

「うん? その紙の事を聞いてるのか? あー良かった。いっつもあんたら二人で話してるから、他の人間が見えない視覚障害にでもなっちまったかと思ったんだよ。オーケーオーケーとりあえず実験は成功だ」

「ああそう………どういう実験なのかしら、それは?」

 睨み付けてくるファリッサであるが、俺は彼女よりさらに目つきがキツく、尚且つ恐ろしい目線を日常的に向けられているので、慣れている。

「いや、喧嘩を売ったら買ってくれるかなって思って不安だったんだが………悪い。そっちはもう少し分かりやすくした方が、リハビリって意味なら厳しかったか―――っとぉ!」

 ファリッサからビンタが飛んできたので、顔を少し逸らすことで避けた。

 空を切るファリッサの右腕であるが、矢継ぎ早に左手が飛んできた。だから掴んでみる。

「ちょっと待てって! ビンタってのは頬に当たると痛いもんなんだぞ!」

「あら、そうでしたの? じゃあこっちはどうかしらねぇっ!!」

 再度、ファリッサの右手が迫ってくるが、今度はビンタでは無かった。その手のひらに火が灯っているのだ。

(おいおい。いきなり手加減抜きかよ!?)

 こちらは座った状態であるため、掴んだファリッサの左手を放し、椅子を滑らせる形で上体を逸らす。

 視線の真上を、炎が灯る手が通り過ぎるのを見ながら、椅子から転げ落ちる様に体ごとすべらせ、安全圏へ逃れようとした。

「避けないでくださる?」

「無茶言うなっての!」

 ファリッサは避けられた右手を、そのまま床に転がっている俺に当てようとして来た。この女、まったく容赦が無いのである。

 俺としては、追撃をさらに転がって避けるしかない。向こうの動きは大振りであったおかげで、体勢がちょっと崩れてくれた。その隙に俺の方は一気に立ち上がり、どうとでも動ける体勢を取る。

「お、おい。八島。お前いきなり何やって―――

「飯沼。ちょっと下がっててくれ。クラスが変わってから、何時までもおいたが過ぎる連中に、ちょっといろいろ物申したくなったってだけだ」

 何時の間にか登校していた飯沼くんを、近づかない様に制してから、ファリッサを見る………が、その途中で目に映った光景を見て、咄嗟に後方へステップした。すると自分がいたその場所に一条の光線が走る。恐らくは電気的な。

「私を………侮辱したな?」

「漸く気が付いたのかよ」

 光線の元にはレイレリスがいた。彼女の手には、その手よりも小さいだろう銃の様なものが握られており、その先端が俺へ向けられていた。足元にはくしゃくしゃに握りつぶしたノート紙が落ちている。

 構えているのは護身用として携帯していた電圧銃だろうか。それにしたって学園内への持ち込みは禁止されているだろうに。

「ほら! あなた方もぼーっとしないで彼を捕まえなさいな!」

 レイレリスばかりに構ってはいられない。ファリッサが叫ぶと、その他1、その他2の張り紙が貼られた男子生徒が、二人並んでこちらを捕まえようと迫って来た。

「紙! 剥がした方が良いんじゃないか!」

「え? お、おお、そう言えば―――ぐほぉっ!」

 律儀にノート紙を剥がそうとするその他1に接近し、足を引っ掛けて転ばす。そのすぐ後に、横に並ぶその他2の懐へ、床を滑る様に体をズラす。

「お前ぇ! ゲミンヅはちょっと頭が足りないんだぞぉ!」

「そういうあんたは背中への警戒が足りないんじゃないか?」

「なんだと――ぎょほぉあああっ!」

 その他2がはじけ飛ぶかの如く痙攣した後、こっちに倒れ込もうとしてきた。覆い被されるのは御免こうむるので、さらに体を後方へ。

 男子生徒が倒れるのを避けるだけが目的で無く、残ったレイレリスとファリッサから距離を置き、両者を同一の視界に収めておきたかったという理由もある。

「ちぃっ、ちょこまかと!」

 と、レイレリスの声が。きっとその他2を電圧銃で撃ったのだろう。本来それは俺を狙ってのものなのだろうが、幸運な事にあまり命中率は良く無い様に見える。

(というか、その他連中は魔法使い陣営だろうし、どっちに当たっても良かったんだろうけどな)

 状況は俺、ファリッサ、レイレリスの3すくみという状況になったと言いたいところだが、そうでもあるまい。

 両者共、怒りを完全にこちらへ向けている。とても良い兆候だ。

(これで良い。俺は魔法使いでも無ければ宇宙人でも無い。俺が怒りを買って喧嘩をするのなら、これは単なる生徒同士の喧嘩だ。子どものやんちゃは叱られて終わりなんだが………)

 とりあえずは喧嘩相手の二人とやり合わなければならない。そうして今後、喧嘩を繰り返さない形にしなければならない。

(ようはきっちり決着付けてやらなきゃってことで―――学内でまだ魔法を使うのかよ!!)

 ファリッサの手に白い光の様なものが集まるのを見た。

「春に凍えなさいな!」

 白いそれが光で無く、発生した冷気によって霜を生じたせたものだと気付く。その空間が極端に冷えているのだ。

 そうして冷えた空気は俺が立つ場所までまっすぐ、それもかなりのスピードで進んでくる。移動した分だけ霜が発生するのでなんとか視認できた。

(避けられないって速さじゃないけどな!)

 机立ち並ぶ教室にて、まっすぐ進む冷気を横に避ける……が。

「曲がった!?」

「まっすぐ進むだけでは能がありませんもの」

 こちらが避けた方向に冷気が曲がる。こちらが移動するスピードより多少なりとも早いため、再度避けようとするも、徐々に追い詰められていく。

(なら、何か障害物を使って―――くそっ!!)

 足で体を前方に飛ばし、着地の際は出来るだけ屈んだ姿勢となる。そうして椅子を盾に冷気を受け止めた。

「学内で飛び道具をぱんぱか使うなよ! 無関係の奴ら巻き込んだらどうすんだ!」

「はっ、あなたが大人しくしていれば、誰も害なんて受けませんわっ!」

 ファリッサの言葉に閉口しながら、自分の左手を見る。かじかんで震えている手だ。もしかしたら凍傷でもした可能性だってある。椅子だけでは冷気を完全に防げなかったのだ。

 本来は机を盾にして完全に防ぐつもりだったが、それが不可能だった理由を横目で見る。

(短気かと思ったけど、存外冷静じゃねえか)

 レイレリスが小さな電圧銃を構えている。さきほど、冷気に追われる俺を狙って一発放ちやがったのだ、あのお嬢様は。

(くっそ。二対一なのは理解してたはずだろ。こんな光景、先生に見られたらまた叱られちまう)

 何時も余裕を持って対処せよだ。一人相手にする際も余裕を持って二人目に意識を向けていれば、左手が暫く使い物にならなくなるなんて事態にはならなかっただろう。

(あの電圧銃の形状からして、動力からの充電タイプじゃなくてストックタイプだな。残弾あと1、2発ってところか?)

 もし別に武器が無ければ、その1、2発を撃たせればそれで無力化できる。既に教室内から外へ生徒の大半は避難しているため、誰かを巻き込むということもあるまい。

 ならば今度はレイレリスを挑発してみるか。そう思案し始めた時………。

「おい! いったい何の騒ぎだ!」

 教室の外から大きく叫ぶ声が聞こえた。良く知った声であったが、その声を聞いて酷く焦る。

(嘘だろ!? まだ早すぎる!)

 何時かは教師が騒ぎを聞きつけてやって来るだろう。そんなことは既に想定していたが、その予想より、もっと早くやってきてしまった。あと5分ほどは余裕があると思っていたのに。

 しかも最悪な事に、駆けつけた教師はこの場をもっと厄介にしてしまう存在であった。

「レン! まさかとは思ったが、お前か!」

 自分をレンと呼ぶ人間は、この人工島内では姉だけだ。彼女は獣の如き俊敏さで教室内へ立ち入ると、こちらへ近づいてくる。

「姉さん………」

 どうしてこうもタイミングが悪いんだと口にしたくなる。まだ喧嘩は始まったばかりだ。だが、教師が来た以上、喧嘩は一旦ここで終わってしまう。まだ決着も付かないうちにである。

(ここで中途半端に燻ったままじゃあ、またあの二人はぶつかるぞ!)

 別に自分が悪役になるのならそれで良い。だが、事態が変わらず進行してしまうのはまずいのだ。

「姉さんじゃあない! どうしてお前はこうなんだ! 風聞だけだと信じていたが、こんなことをしでかして!」

 そういう事じゃあないんだ。こっちが何の考えなしだなんて思わないでくれ。

「俺は………」

「力はこういう事のために使うものじゃあない! 父さんにも言われ続けていただろう! 力も技術も、暴発すれば単なる暴力だと! だと言うのに……お前はどうして!」

 やめろ、やめてくれ。それ以上は言わないでくれ。あなたが俺を心配しているなんてことは分かっているんだ。だからせめて、こっちの事も少しくらい分かってくれても良いじゃないか。

「もういい。お前はどうしようもない―――

「ハーハッハッハッ!」

 と、教室に妙なBGMと笑い声が響く。そうして外側の窓がガラリと開き、その人影が飛び込んできた。

 学園ウルフ。腰にあまりにも古い時代の携帯音楽プレイヤーを付けての参上だった。

「お、お前は、何だ!!」

 突如現れた覆面男に困惑する姉。教室の中にいるレイレリスとファリッサも同じ様な感じである。

「私の名は! 学園ウルフ! 学園の守り手にして、悪い子にめっする正義の使者だ!」

 まったく説明になってない名乗り口上を叫びながら、学園ウルフは教室内を跳んだ。丁度、こちらがいる場所まで。

「えっ? ちょ、何が!?」

 学園ウルフは俺の目の前にやってくると、そのまま俺の腰を掴み上げ、教室の廊下側まで走り抜けて行った。

「お前!? いったい何のつもりだ! 弟を離せ!」

 そう、姉から見ても、どうやら俺が学園ウルフに攫われようとしている風に見えるらしい。

 腰を掴まれた状態で、一体何が何やらと理解が追い付かない俺を含む学園ウルフ以外の人間達。そんな者達に説明するかの如く、学園ウルフは叫ぶ。

「この朝っぱらから気でも狂ったのか如く暴れる悪い生徒は、私の退治対象である! この後きっちり叱るまでは解放するつもりは無いため、そのつもりで! ではな!」

「ま、待て!!」

 姉が学園ウルフ(と、捕まっている俺)を追おうとするも、彼は廊下側の窓から外に出た。教室は2階にあるため、地面まで暫しの自由落下を開始するものの、やはりというか、服に仕込んである重力操作の魔法で無事着地する。

 そうしてそのまま、追手を完全に撒く為だろう、学園中を縦横無尽に駆け巡った後に、どの様な経路が理解できぬまま、何時の間にか、彼と俺が何時も会っている教室までやってきたのである。

「さて、これで良しと」

 到着するや否や学園ウルフは俺を教室の床に放り出した。

「ちょっ、ぶっ!」

 受け身を取ることに失敗して、顔面から着地してしまう。痛みが走る顔を抑えながら、俺はなんとか学園ウルフを見た。

「先生………今日は動けないんじゃなかったんですか?」

「まだ朝だ。出張………ごほん。太陽光エネルギー吸収タイムまでにはまだ間がある。つまり、ギリギリ動ける時間だ。そうしてその時間を、君の救出のために使ってしまったわけだが。何か言うことはあるかね?」

「………」

 学園ウルフのその言葉に、目を逸らしたくなった。なんとか出来ると思ったのだ。だがこの様だ。

 いくら可笑しな恰好をしていると言っても、彼からいろいろと教わっている立場からすれば、失敗した事実に申し訳無さが先立つ。

「上手く………やれませんでした………」

「そうだな。その通りだ。君の教室で起こっているファリッサ嬢とレイレリス嬢の問題は、いっさい好転していない。まあ、今日は君に喧嘩を止められた形になるから、一時停戦状態になるとは思うが」

 それだけだと学園ウルフが言葉にする。同感だった。

 暫くすれば、またあの二人はぶつかり、それが魔法使い陣営と宇宙人陣営に確執を生んでしまう。そうなればもう遅いのだ。

「だがね。そんなものは後から矯正すれば良いし、鍛えて経験を積めば、次の機会にでも上手くやれるだろうさ。私が君に言いたいのはそういうことじゃあない」

 学園ウルフに指を刺される。指の先端を目のすぐ近くに向けられるのは妙に落ち着かないため、その人差し指をとりあえず手でどかしてから、彼の言葉に疑問の声を上げる。

「じゃあ一体、俺はどうすれば良かったんです」

 普通に指がどけられた事が釈然とせず、自分の手をグーパーしながら見つめる学園ウルフだが、こちらの質問には答えてくれた。

「余裕を持てと教えただろう? この際、上手くやれたやれなかったは関係ない。問題は、君があの二人を抑え付けることができたとして、君がどうなるかと言う事だ」

「どうせ、俺はもう問題児のレッテル貼られてますから」

 姉さんにすら、見捨てられそうになった。

「そういう若い奴の自暴自棄というのは、聞いていて腹が立つのだよ。君はこの後、どれだけ長い人生を送るのか分かっているのかね? それを幾らか台無しにするなど愚か極まりない」

「そういう、どうやったって若い側は反論できないことを言う大人の発言も、こっちとしては腹が立ちますけどね」

「ふむ………上手い具合に言い負かされてしまったか」

 あっさり矛先を納める学園ウルフ。だが、それでも彼はこちらの失敗に対して痛烈な言葉を口にした。

「まあ、良い悪いもこの際置いておこう。出張まで時間が無い。ただし今回、君の行動が致命的であることには変わりあるまい? 今回の件で、君は警戒されてしまうだろう。成否如何問わずだ。そんな状況で、また同じ問題が起こった時、君はどうする? 今回の件で、どう足掻いても、何がしかの陣営に関わってしまうことになるのだぞ?」

「そ、それは………」

 八島・錬太郎は魔法使いと宇宙人に喧嘩を売った。そうであれば、今後動く場合にも、彼らの陣営から警戒されるし、彼らの陣営に対して何らかの確執を持っての行動だと思われてしまう。

 そうであれば、ファリッサやレイレリス達と立場は変わらなくなってしまうではないか。喧嘩の結果が、どこかの陣営にとっての利や損になり、自分自身が学園の火薬庫を起爆させるスイッチになってしまう可能性だってある。

「一回こっきりで何も行動できなくなってしまう。それは大いに馬鹿野郎なやり方だと思わんか?」

 こちらに関してはぐうの音も出なかった。そうだ、今回はあの二人の喧嘩に関して、解決する方法が頭に浮かんだ。そうして実行した。

 だが、次からはどうなる。あの二人の問題を解決したとしても、この学園には他にも種々様々な問題があちこちに転んでいる。それをなんとかしようとしても、次からは俺と言う存在そのものが邪魔になってしまう。

「ええ、どうしようもない馬鹿野郎みたいですね……俺は………」

「わかれば宜しい。すぐに反省できるというのも若さという奴だな。で、こちらから質問があるのだが」

「なんです?」

「そもそも、何故動いた?」

「え? それは………」

「私に色々と教わっているから……という義理立てなどと考えんでも良いぞ? 私は君が戦い方を教えて欲しいという言葉に了承しただけであって、君もまた学園を守る正義の使者になって欲しいと頼んだ覚えはない」

 彼と自分を繋ぐものは、単なる教師と教え子と言ったところなのだろう。彼の如く動く必要なんて、確かに俺には無かった。

 ただ……どうしてだろう。彼の様に事を解決できるのではと思えた時、それを実行しようと思ったのだ。

 それが今回の動機だった。その動機がどこから来るのか。それを考えようとするが………。

「わかりません………」

「ふむ?」

「わからないんですよ。ただ、単なる喧嘩から、もっと大きな問題に発展するなんて、馬鹿らしいと思ったんです。そんな馬鹿らしい事態をなんとかできるかもしれない方法があって、それでも行動しないなんて、正真正銘の馬鹿野郎なんじゃあないかって」

「……………そうか」

 自分でも良く分からない理屈を口にしたと思う。そんな言葉だというのに、学園ウルフが覆面越しに笑った気がするのはどうしてか。

 それについても、俺にはさっぱり分からなかった。


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