研究者たちの対巨獣戦線
友達からのお題『「さくら、ふともも、じゅうでんき」をSFで』に従い書き上げたものです。
SFは完全に専門外だったこともあり、友達に「SFというよりただのコメディじゃん」と言われてしまいましたが、私は気にしません。
その内真面目にSFを書いてみたくもありますが、いつになることやら……。
大陸沿岸部、そこは戦場となっていた。
空には数千の戦闘機が飛び交い、地上では数万にも及ぶ戦闘車輌が配置されている。これは国同士の戦争などではない。戦車の砲口の先に居るのは山のように聳え立つ十三体の巨獣。
突如現れた二十もの未確認巨大生物に人々が震撼したのは、実に三年も前の事だった。
これまでに倒された巨大生物は実に七体。未だにお互い一歩も退かない熾烈な戦いが続いていた。
だが人類側は危機感を募らせていた。
それも当然であろう。交戦を始めて既に早三年。にも拘らず半分も数が減らせていない。軍事費はこの三年で莫大に増え、被害も増える一方である。資源も大量投入し、既に一般家庭の需要量と一般供給量との差は致命的なまでに広がっている。
このままでは内陸部で暴動が起きかねない。多くの国が軍の殆どを沿岸の戦線に割いている。もしそんなことにもなればもはや鎮圧は不可能な所が多い。
早期の戦況の改善が望まれた。
内陸部。
その中でも特に安全とされるクリューネ王国。最も多くの資源と財源を巨獣討伐へ提供している国である。その分軍の国内駐在率は高い。暴動が起こっても鎮圧が可能な数少ない国の一つである。
この国では兵器に関する研究も推進されており、敵の殲滅を終えることが出来れば実地での戦闘を支えた大国として力を誇示することが出来るだろう。
そして現在、この国の王都のとある場所にて会議が行われていた。そこに集まるのは各国の代表の対巨獣兵器の研究者たち。彼らはこれからそれぞれの研究の成果を発表し、その情報から総合して今後進めていく研究について話し合う。
だが状況は芳しくないらしい。集まった内の誰一人として第一声を上げようとはしなかった。
重苦しい沈黙が議場を支配する。
辺りを見渡してそれぞれの反応観察する者、俯いて視線を上げようとしない者、腕を組んで渋面を浮かべている者。
動きこそ違っていたが、全員不安そうな表情をしていた。
「まず私から現段階での我が研究の成果を発表しよう」
そんな中で口火を割ったのは、開催地クリューネ王国の研究所長ミハイル・ストンハイムだった。これによって開催国としての威厳を示すことが出来たため、後日この日の報告を受けた国王は安堵したという。
「―――ということで、前回報告した新型ミサイルの効果は薄いという結果が出た」
だがその報告は予想通りあまり良いとは言いづらいものだった。
他の国の研究員が口元を歪め、苦々しそうに顔を伏せる。中には頭を抱えている者も居た。
その後他国も研究結果を発表するものの、やはりと言うべきか、語るに足りぬようなものばかりであった。
だが最後の一人の発表は違った。
「あの巨獣だが、女性の太ももを見ると激しく反応し、その方向に強く引き寄せられる傾向がある」
「ほお、それは興味深い」
今までになかった発見である。まず今回の発表で新発見があったことだけでも大きな収穫であった。
「その特性を利用して誘導するのはどうか」
それを聞いた他の研究員から意見が上がる。
「女性を囮にするのか!?」
「さすがに許されないぞ!」
口々に非難の声が上がり、言った男は気まずそうな顔をする。この場に女性が居なかったこともあって口を滑らせたのだろう。
「ああ。別の問題も含めて、現場の女性の協力を得るのは難しい」
「と言うと?」
「奴等は太ももに興奮して白濁した粘液を撒き散らすのだ」
「何てことだ……」
頭を抱える。一部は何を想像したのか顔を赤くした。
「さらにそれはピンポイントで女性の服だけを溶かす」
「すまない、少し何を言っているのか分からないのだが……。男の服は溶かさないのか?」
「溶かさない。女性のだけだ」
「訳が分からない」
「実際に被害者が居るから、この事を隠して協力を願うことも無理だ」
ガタッ。
会議場の机が揺れる。多くの人間が動揺していた。
「被害者が……居るのか」
ごくりと唾を飲み込む音が響く。
男たちの目は真剣だった。自分たちの預かり知らぬところで、そんな素敵な展開もとい大変な事態が起きていただなんて。その女性の容姿は良か否、その女性は無事だったのか。
「被害者は19才の新人で、胸が大きくて、とても可愛いい娘であるらしい……」
報告する研究員の目から涙が溢れた。
瞬間、それを聞いた人たちの慟哭が議場を揺らした。
自分たちは暗い研究室に閉じ籠って、そもそも女性と関わることすら叶わなかったと言うのに。
研究者の魂の叫びだった。
「彼女はどうなったんだ?」
「彼女が所属していた部隊の隊長が急いで大きい布で体を隠させ、避難させたそうだ」
「紳士だな」
「素晴らしい」
「ちなみに被害者とその部隊長は後日付き合い始めたそうだ」
「「「「隊長死ねッ!」」」」
研究員の気持ちが国家の壁を越えて統一された歴史的瞬間だった。
「そう言ってやるな」
「なっ、貴様奴の肩を持つと言うのか」
裏切り者を見る目をするが、そもそもここに居るのほとんどがその"奴"のことをろくに知っていない。にも拘らずこの様な扱いを受ける部隊長が不憫でならない。
「実は彼、先日死んでしまったんだよ」
「神は居た!」
「いや、さすがに不謹慎過ぎるだろう」
「戦闘機で飛び立つ前に、『この巨獣群を倒したら、俺結婚するんだ』と言っていたらしい」
死亡フラグだった。彼は良くも悪くもフラグを立てるのが上手かったらしい。
「幸せを手にする前に亡くなったのか……。ならば我々が彼を恨むのは筋違いでは無いだろうか」
沈痛な面持ちで言うが、死んでいようと死んでいなかろうと彼らが部隊長を恨むのは筋違いである。
この場に居る全員が、顔も名前も知らぬ彼に黙祷を捧げた。
再び室内に静寂が満ちた。
発表が行われるよりも人々の表情は暗く、まともに顔を上げているものすら見付からないほどであった。あ、半分くらいは寝てる。
「実は……」
静まり返った中で一人、挙手するものが居た。
クリューネ王国の東隣に位置する国、アルネス王国の研究員ビル・クラウドマンだった。彼の国の研究は、特に成果が上がっていない印象を皆が持っていた。
「まだ問題の多いために発表なかった極秘プロジェクトがあるんだ」
「ほう……?」
極秘研究プロジェクトという単語に研究者たちが色めき立つ。
わざわざこの場でそれを明かすとなると、どうにも期待してしまう。
「SAKURA計画」
口々にその名前を繰り返し、波紋のように広がる。
「それはどういう意味なんだ? 何かの略なのか?」
「いや、名前に意味はない」
「フィーリングか」
「ああ、フィーリングだ」
ビルは真顔で頷いた。
他の研究員も真顔で頷いた。
会話が止まった。
「それでこの計画なんだが……我々は今、対巨獣用戦闘ロボットを開発している」
「ほう」
「しかし充電の際、短時間で大量の電気を発電し送ることが出来る重電機と、それと本体とを繋ぐコードの用意が出来ないのだ」
「くっ……ダメなのか」
何故本体の開発に合わせて電源周りの整備をしなかったのか。しかしそこに突っ込むものは居なかった。
「いや、発電用の重電機の用意は我々が出来る」
「何ッ!?」
「大量の電気を必要とする兵器の発明の可能性を見越して既に開発済みだ」
「だが繋ぐコードはどうにも……。繋ぐにはロボットを持ってきて貰わなければならないし、今あるコードを伸ばせる範囲に巨大兵器を置けるスペースはない。何より普通のコードではエネルギーの無駄が多すぎる」
内陸国の研究員が自分たちの発明品を真面目に分析しているが、巨大兵器用の発電機なのにも拘らずそれに対してのその不便さは酷過ぎはしないか。
計画の杜撰さが目に見える。ロボットも同じくだ。
「コードは我々が」
「それは本当か?」
「ああ、万が一に備えて用意していたんだ。変換プラグ用の材料もある」
「素晴らしい」
どんな万が一に備えていたのか誰も疑問を挟まなかった。そもそもロボットの性能などに一切の疑問も抱いていないのもどうなのか。本当にこれで大丈夫なのか。巨大兵器に関する資料を貰ってもいない彼らは手を取り合って喜んでいた。
彼らにとって、巨大ロボットは密かな浪漫だった。それを考えれば、盲目的な今の状況も仕方ないと言えば仕方ないのかも知れない。
議場に歓声が響いた数か月後、とある国に巨大人型兵器と長大なコードが運び込まれた。
それらはこれまた巨大な重電機に繋がれた。その様子を、世界中の研究員が固唾を飲んで見守った。
そしてその数か月後、人々は空を飛んで海の方へ移動する人の形をした巨大な影を見たという。
十三もの巨獣は無事、全て駆逐された。
活躍したのはとある兵器だった。
内陸深くの国から戦場までの移動が原因で着いた途端にエネルギー切れを起こした新兵器は、巨獣が現れた当初から意見として出ていたものの反対意見によって使用が見送られ続けていた核兵器によって海の藻屑に消えた。
各国政府の決断に研究者たちは泣いた。