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タロウは住民と遭遇する4

私の名前はリリア。

青の月になり18歳になった。

私にはカールという10歳の可愛い弟がいる。



そんな私はこの誕生日月にタロウさんと出会う。



―――――――



その日は弟がすごく楽しみにしていた狩りの日だった。

弟はまだ自由に狩りができない年齢だったが、あんまりにもしつこく頼むものだからついつい参加を許してしまった。

まったく、私は弟には甘いものだ。


カールの初めての狩りということもあり、私がついているが万が一のことも考えて魔獣もあまり強くない北の森へと移動していた。

その日は珍しく森が静かで、何か起こるのだろうかと思っていたら案の定。

異変が起きた。



魔力の波動を感じたのである。



誰かが転移してくる。

侵入者かと考えたが、魔力の大きさ自体はそれほどでもない。

その魔力反応もすぐに消えてしまった。

弟のカールも言っていたのだが、この程度片手でどうにでもできる。

森ごと破壊した方がわざわざ行かなくて済むし簡単だった。

しかし、狩りに出て初のイレギュラーだったためか私は直接行って殲滅するということに頭がいっぱいだった。



それが、私と彼を引合すことになるとは思いもしなかったけど…



エテボテスという大きな猿。

村では級外(要は雑魚)に認定された魔獣である。

基本的に集団で移動していて、群れているので非常に面倒くさい。

はぐれとして見たことも何度もある。大抵は私が近づく前に逃げてしまうが。

何か得物でも見つけたのだろうか、叫び声をあげて腕を振り下ろそうとしていた。



人だった。



村外の人だ。

私は魔法を使った。

とっさにでたのが爆裂の魔法だ。

こういう所は母に似たのかもしれない。

私は好んで氷系の魔法を使うのだが、その日だけは火炎系の魔法を使ってしまった。


標的は一瞬でパン、と弾け飛んだ。まあ、級外ならこの程度だろう。

むしろ魔力を込めすぎたくらいだ。

襲われているその人はもろに血を浴びせてしまったが。


私の失敗その一だった。

氷系の魔法でもっと血を出さずにスマートに撃滅すればよかった。


その人は気を失っており、私達は急いで村まで運んだ。

その人は脱糞と失禁をしていたが気にも留めなかった。

身に着けていた一組のダガーは邪魔だったので、カールにどこか適当なところに保管してもらった。


今なら言えますが、水系の魔法で血を落とせば私は汚れることはなかったのではないのでしょうか。



 ―― ―― ――



カールが着替えさせるというのだが、どうも心配だったので私一人ですることにした。

男の人を着替えさせるのは弟以来だった。

ついでに水魔法で水分補給もしておく。

彼はこくこくと小さく喉を鳴らした。

彼の身体をキレイして父の服を着せる。


鍛え抜かれた筋肉。身体に刻まれた傷の数々。

私よりも弱いはずなのに、この人は確かに戦人(いくさびと)だった。



この人はどういう道を辿ったのだろうか



呼吸の度に彼の身体が上下する。

なんとなくだが、私の手がその頬を撫でた。



いや、何をやっているのでしょか私は!

身体が勝手に!?



醒めぬ興奮の内に彼の起きる気配がした。

廊下待機だ。

うろうろと行ったり来たりを繰り返し私はそろそろ彼が起きるだろうと思い、どうしようと考えた末、お茶を出すことにした。


私が庭で大事に育てているお茶である。

家族以外に出すのは初めてだが、なぜかその日は出そうと思った。

気分。そう……その日はそのお茶を飲みたかった日なのだ!

話してみると彼は意外に優しそうだった。




彼の名前はタロウ。

強い意思を秘めた瞳が綺麗なのだ。




冒険者証第3級だとも言っていたが、それがすごいのかよく分からなかった。

エテボテスにやられそうな大人を今日初めて見たのだ。

級外の魔獣にやられそうになるなんて村外の人にちょっとがっかりもした。


途中ジロジロと見られもしたが、それは私が珍しい恰好をしていたからに違いない。

彼を担いだせいで服が血まみれになり汚れてしまったので、替えた黒のアンダーシャツだけでいたのを忘れていた。

いつもならしないミスだっただけに恥ずかしくて、すぐにお茶の準備をした。

家族以外に初めて私のお茶を出すということもあって内心冷や汗ものだった。


「美味い!…はっ!」


私のお茶に驚いた後、美味しいと言ってもらえた。

それがなんだか照れ臭く感じ隠すように髪を(いじ)る。

言葉には出せないが、胸が温まるというか、なんというかそんな感じである。

私はこのような経験を一切したことなかった。

嬉しさも相まって、すぐに2杯目を飲んでもらおうとした。


少し談笑をして部屋をでる。

この調子ならタロウさんは大丈夫だろうと思っていた。

しばらくして通りかかると、中から泣くような、そんな声が聞こえてきた。

それがどうしようもなく、私の心を締め付けるように感じていた。



 ―― ―― ――



時間が流れるのはあっという間で、タロウさんが来てから2か月経っていた。


彼いや、タロウさんは非常に弱い。

此方が不安になるほどに弱い。


それも手加減した弟のカールに勝てないのである。

彼が鍛えてほしいと私にお願いしてきたので、仕方なく。

そう、仕方なく私は彼に鍛錬をつけようとした。

結果は、散々で、最終的に弟にその役を取られてしまうのだが。



タロウさんは何も悪くなかった。

強すぎる私が悪いのだ。



彼の動きは日に日によくなっていた。

流石に冒険者と名乗ることはあるのだろう。

手加減をしているカールも以外な奇襲に結構苦戦することもあった。

まあすぐにカールに対応されてしまうのだが。

未だカールの本気には届かないだろうが、それでも彼の努力を目の前でずっと見続けた私は彼の成長が自分のように嬉しく感じた。

いつの間にか心の中で、彼を応援もしていた。

彼の鍛錬の様子は意外にも村に良い刺激をもたらしたことも忘れてはいけない。


カールがよく彼をボコボコにするので、それを見かねた私は回復魔法をかけたのだが、彼はそれをかなり驚いていた。

聞くと、回復魔法を使うものはあまりいないそうだ。

教会という所でお金を払い治療してもらうそうだ。

回復魔法をかけてもらったことは2回ほどしかないらしい。

基本的に安く済む回復薬(ポーション)で回復しているそうだ。

そうですか。そうですか。

もう貴方を粗悪品(ポーション)なんかでは回復させません!!



後でカールはボコボコにしといた。



歳を聞けば32になるのだと。

私は20代半ばぐらいだと思っていたのだが、見かけによらないものだ。

そんな彼は私の村では有名人であった。

部外者が長く村にいるのはかなり珍しい。

珍しいどころではない。

例外中の例外なのだ。


村の女達も彼と話してみたいのか、結構寄ってくるのだが、私の『客人』ということでそれらをなんとか防いでいる。

しかも若いのが多い……のは私の気のせいだろうか。

彼の笑顔は村の男とはどこか違う、そう…違う魅力があるのかもしれない。

時折みせる、村の男達とは違う振る舞いは一時若い女の話題にも上ったものだ。


なにかと笑顔で、私の名前を呼んでくれるので頼りにされていると思うと心と身体が非常に軽くなる。

もっと頼ってくださってもいいんですよ。


フンス、フンス!!


何時また呼んでくれるのかとドキドキするものだ。

この時から、私は自然と彼に付いて回っていた。



 ―― ―― ――



ある日のことだ。



ついに…ついに届いてしまったか…ふふふふ……



「はは、ははっ、ははははははッツ!!」


笑いが止まらなかった。

私の幼馴染のマリーにお願いし、絵描きのプラムに彼の姿を写してもらい、人形師(ドールマスター)に依頼してタロウ人形を作ってもらっていた。

それが、ついに、ついにこの日に届いてしまったのだ。

私はいつ届くのか、彼にばれてしまうのではと焦りもあったが杞憂であった。

デフォルメされたそれは、確かにどこか彼の面影を残してある。

似合わないと思っていたくるりとした目はなかなか愛嬌があっていい物に仕上がってしまった。

抱き心地なんかも流石としか言いようがない。


この人形師(ドールマスター)はなんて良い仕事をしたものか!!

人形師に恥じない仕事だ!!


彼女に売ってもいいかと聞かれたが、「それを売るなんてとんでもない」とだけ答えた。

結構需要があるらしい。残念な顔をされたものだ。

これは私だけが持っていればいいものだ。

ほかの人に渡ってなるものか。

後に密かに高値で売られることになるのだが…

幼馴染のマリーとはしっかりと『お話し』をしたものだ。


「ああ…本当にどうしたらいいんでしょうか……

私―――――」


ああ、明日もタロウさんに挨拶してもらえるでしょうか。


ますます頭が彼の事でいっぱいになる。



ギャップに弱い系ヒロイン。

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