プロローグ
書き直し中です。
またこの小説を見てもらえるとうれしいです。
その日は迷宮に潜っていた。
迷宮は各国に存在していて、現在タロウは王都グリザリアの第4迷宮を中心に潜ってる。
パーティーで迷宮や遺跡を潜るのが定石なのだが、如何せんトラブルが絶えない。
希少物を手に入れたとき、一点物や特に武具なんかでもめることが多い。
この二振りで一組の少し黒がかった銀色のダガーの時はホントにもめにもめた。
今まで仲間だと思ってたやつらが、だ。
あんな思いはもう十分だった。
それ以来、タロウはどうもパーティーには向いていないことが分かり、今は一人で活動している。
だから気楽にソロで遺跡や迷宮に潜っていて、その日を暮している。
冒険者とは危険な仕事だ。
しかし、その分金もいい。
魔獣は確かに危険だ。
だが、骨や皮といった素材は売れるし、討伐部位をギルドに提出すればやはり金ももらえる。
何よりも、食えて美味い肉は良い値段で売れる。
その日暮らしと言ってはいるが、そこまで金に困ることはない。
まあ、大怪我さえしなければという話だが。
話は戻るが、タロウは冒険者6級の内の第3級証を持っている。
ギルドと呼ばれる、冒険者御用達の場所で発行されるこれは身分証明書。
適正というものが人間にはあるのだ。
これがなければまず話にならない。
第3級でようやく中堅冒険者と呼ばれ、冒険者のほとんどがこの第3級止まり。
第3級と第2級とでは大きな差があり、2級以降の連中は名持ちで呼ばれていることが多い。
例に挙げるほど有名なのが第1級のダークエルフの『紅蓮』、同じく第1級の『震源』。
まあ、それほどの名持ちとはそうそう出会うことはないし、ちょっかいさえ出さなければ問題は起きないだろう。
「さて、今日も元気に第4迷宮に潜りましょうかね」
なぜ生み出されたのか今も分からない迷宮。
その中を徘徊する危険な魔獣達。
魔獣と罠の先にはお宝が。
だから今日もタロウは突き進むのだった。
―― ―― ――
「―――よっしゃあッツ!!」
すこぶるタロウ調子が良かった。
剣のキレ、足運び、罠の見分け、タロウのへっぽこ魔術なんかが特に冴えわたっていた。
どれをとっても過去最高だと言える程に。
この日に限って、さながらタロウはどこぞの英雄気取りだった。
22階を越えたところでいつもは帰り支度をするのだが、タロウは調子に乗っていた。
何時もは来ない25階の安全地帯にて一息ついていた。
「今日は調子が良すぎて明日が怖いな。
気まぐれの女神さんからの贈り物ってか」
途中のトラブルは、甲殻蟻の羽持ちが3体現れたぐらい。
冒険者2級クラスが相手にする下位レベルの魔獣である。
2級クラスには下位でも3級にとっては脅威の対象でしかない。
甲殻蟻の小隊に出くわすも、幸運にも場所が良かった。
本当に俺はついていた。
その為、良い場所で鍛えぬいた魔鋼糸で蟻をハメることができ素材的にも美味しかった。
後は自分一人で回復と休憩を挟んでなんとか対処できていた。
――今日の稼ぎは一体どれくらいだろうか
ふと持っていた鞄に目を向ける。
冒険者の多くが持っている魔法鞄、通称『ボックス』。
冒険者の必需品で持ってなきゃモグリだとも言われるほどの物。
中は空間拡張の魔法がかけられていて、魔物の討伐の証や、魔物の牙や皮や甲殻などの素材、食料などを入れることができる。
もちろんこれだけの効果があるのだ、高価に決まっていた。
駆け出しはその金額に手を出せず、ボックスを所持していることでようやく駆け出し卒業だ。
どういうわけか基本的に重さが変わらないので、重さ軽減の魔法もかかっているのではと噂されている。
実態はよく分からないが、誰も気にしない。
確か名高い勇者だったかが作って提供したと聞いたことがあるが真相はやはり分からない。
便利ならなんでもいいという考えが当たり前で、売っているのはシオン商会ということぐらいだろうか。
今はそのボックスに今日稼いだ素材がたんまりと詰まっていて、タロウはニヤニヤが止まらなかった。
「…ふふっ」
――今日の話を肴にたまには高い酒でも飲むか。
それくらいの贅沢は大丈夫だろう。
タロウはすぐに酒飲み仲間のギース達の顔が浮かんだ。
―― ―― ――
「さてと、そろそろ帰るか」
1時ほど休み、タロウは帰り支度を始める。
道中も何事もなく進んでいて、19階の半ばまで来て不思議なものを見つけた。
「なんだあれ?」
ぴかぴかと薄暗い迷宮の中ではっきりと捉えることができるほど光っている。
壁の中に埋められているのか、埋まっているのか。
来たときは気づかなかったが、今まさにタロウを導くように輝いていた。
タロウは罠かと警戒を強める。
「ん……?」
――あれって、ひょっとして極光石か?
迷宮には稀に、壁や床に宝石や鉱石の類が埋まっていることがある。
鉱山で採れるものよりも、純度が高いものが採れることもあり、その最高価格は家が何件も買える程だと聞いている。
しかし、極光石は珍しくはない。
むしろ王都の柱灯りによく使われるし、家の明かりなど広く使われている。
それでも売れば小遣い程度の値段がする魔鉱石。
そもそもタロウは一人だし、今見つかったのはおそらく魔獣との戦闘に必死で気づかなかったといったところか。
「まじかよ!
ここに来てさらにボーナスタイムとか、幸運の神様ありがとよ!!」
――この石ころ売って、ギース達に一杯おごってやるのもいいな
タロウは軽い気持ちでボックスから採掘用つるはしを取り出し、今まさに取ろうとした時だった。
足元に魔法陣が浮かぶ。
迷宮に罠があるのは珍しくもなんともない。
むしろ罠の先にはお宝が待っているといってもいい。
魔法陣が使われる罠は、もっと深い階層で使われているとタロウは聞いたことがある。
完全にタロウのミスだった。
今日は調子が良かったからと、警戒を強めたまでは良かった。
だが、罠の確認を怠った。
魔法陣は起動してしまうとどうにもならない。
起動式を破壊してしまうと、収束した魔力の暴走が起こり、被害が拡大してしまう。
その起動式の破壊にも使われる魔力より多くの魔力消費しなければならない。
迷宮で帰りの魔力を温存していたとはいえ、この魔法陣に使われる魔力はそれ以上。
もはやタロウはどうすることもできない。
「――――ッツ!!」
タロウの言葉出るより先に、魔力が満ちた。
一か所に魔力が収束し魔法陣が起動する。
魔法陣5つによる同時起動。
それ自体がすでにヤバいのに、収束した先にそれらより一回り大きい魔法陣が顔を出す。
ここで想定されるのが、最低でも中都崩壊規模はあるだろう特大魔法。
――人一人殺やるのにどんだけオーバーキルする気だ!
迷宮ごと吹き飛ばすってのか!!
やばい、やばい、やばいッツ!!!
頭の中に、どうしてこうなったという言葉が浮かんでは消えていく。
そう思った時には脳味噌がぐわんぐわんと揺れる。
高純度魔力酔いだ。
視界が揺れ意識が遠のいていった。
その日、第3級冒険者、タロウは迷宮から姿を消した。