輝くリフレイン
人間の幸も不幸も全部吸い取って、最終的に俺はそいつの「全て」を奪って生きてる。選ぶ人間は大体ランダムだから俺があんたの存在を貰うんだって言えば「殺さないでくれ」って生にすがる。まぁ後々存在自体を消しちゃうから生きてた証すら残らないんだけど、こいつらにしてみれば殺人と一緒か。それもどうでもいい。その人間自体に興味はない。
再び新しい人間を探してぶらぶら街を歩く。そいつのじゃ無いけど定期落としましたよ、と言って話しかけたり、混雑してる飲食店で相席になってみたり。方法はまちまちだけど取り敢えずは俺に興味を向かせる。稀に人間のほうから俺に近づいて声をかけてきたりもするけど、俺は色欲の類を持っちゃいないからそれは希少だ。
「君は僕をスッパリ綺麗に消してくれるの? 丁度いい、早くやってくれ」
俺に近づく人間も珍しいが、珍しいことだって人間に限らず、それに一つじゃない。
気まぐれにジャズバーに入ったこともそう、そこで物憂げにピアノを演奏していた人間がなんとなく気になったこともそう、酒をおごるよなんて誘うこともそう、俺にとっては珍しく全て初めてだった。だけど自分のことはほとんど話さない無口な人間で、なんでこんなやつが気になったんだろうと俺自身に飽きれたところでそいつに全てを話せば、早く殺してくれと言う。
「僕は自分の演奏作品も何もかも要らないし残したくない、君が僕の生きた証全て一緒にして消してくれるっていうなら、これ以上楽で嬉しいことはないよ」
殺さないでくれと耳にタコが出来るくらいには聞いたけど今すぐ殺してくれとは初めて聞いた。呆気にとられたがもうどうでも良くなってきたので、俺はこの人間の存在を消す儀式を行う。俺がそいつの頭を掴んで首にかぶりつく。吹き出る血と肉と幾ばくかの光を思いきり吸い込めば儀式は終わる。大きく口を開けてそいつの喉仏めがけて顔を近づけた瞬間、「ありがとう神様」なんて言いやがった。
人間の肉はやわくて脆いし血は熱いわけでも冷たいわけでもなくぬるい。存在を吸収する時の人間に残った光はそいつの記憶や魂がごちゃまぜになったものだけど、こいつの光は吸収する時にポーンポーンと軽快なリズムで音が鳴った気がした。ジャズバーで弾いていたピアノ曲、多分この人間の作品なんだろう。耳に残って離れない。
ありがとう神様。そんな大層なもんじゃない。俺はだって、お前ら脆弱な人間を喰らう悪魔なんだ。御礼を言われるようなこと、してないんだ。
興味なんてないんだ、人間の存在自体に。でもピアノの音とそいつの最期の言葉が耳に残ったままで、俺はもう、そいつから逃れられなくなってしまった。