ツンデレゲーム! ~ホンネ?orタテマエ?~
「あんた、休日だっていうのに一人でゲームやってて楽しい?」
「……無断で幼馴染の部屋に侵入してきて、開口一番に言う言葉がそれか?」
「邪魔するわよ」
「おせーよ。そして実際邪魔だから帰れ」
「ふんっ、どうせ暇なんだからいいでしょ」
「そういうお前も暇なんだろ。休日だってのによ?」
「うるさいわね。ちょっと寝不足なの。だから何もする気が起きなかっただけよ」
「寝不足とやる気は全く関係ねえだろ」
「…………」
「おい。なに勝手にコントローラー取り出してんだ」
「なによ、二人プレイできるんだからいいでしょ。私が協力してあげようっていうのに、文句あるの?」
「本当に協力する気あんのか? 妨害する気じゃないだろうな」
「いちいちうるさい男ねえ……。ほら、ソファの横空けなさい。座れないでしょ」
「わざわざ俺の横に座らんでもいいだろうが…………ったく」
「……ちょっと、あんまり近づかないでよ。気持ち悪い」
「おまっ、自分で隣に座っといてそれはひでえだろ! 嫌なら床に座れ!」
「……ふんっ。あんたこそ床に這いつくばったら?」
「ここは俺の部屋だ」
「あたしは客人よ」
「こんなふてぶてしい客がいるかよ。不法侵入者め」
「……そんなに邪魔なの?」
「最初っから言ってんだろーが。とっとと帰りやがれ」
「……………………」
「あ、おい? …………んだよ、本当に出て行きやがって……」
「………………で?」
「なによ」
「なんで平然と戻って来て、当たり前のように俺の隣に座ってんだ。そしてこの菓子はどこから持ってきた」
「さあ。台所の棚を探したら普通にあったわよ」
「おいっ、それは俺のじゃねえか! 普通に食ってんじゃねえよ!」
「知ってる? 埋蔵金の発見者は、報労金としてその何割かが貰えるそうよ」
「うちの台所の棚は地面の下に埋まってたってのか? 普通に盗難だろ」
「うるっさいわねえ。そんなに言うならあんたも食べればいいでしょ」
「言われなくても食うっての」
「ちょっと、あんた取り過ぎじゃない?」
「元々俺のだろうが。食わせてもらってるだけありがたいと思え」
「なによ、偉そうに。…………ところで、喉が渇くわね」
「そーだな」
「…………」
「…………」
「……なにか飲み物が欲しいわ」
「そーだな」
「………………」
「………………」
「……あんたは客人をもてなそうっていう気はないの?」
「不法侵入者がなにを言う。つーか、菓子持ってくるなら飲み物も持ってこいよ」
「人の家の冷蔵庫をあさるのは気がひけるわ」
「戸棚あさったくせによく言うなオイ? 持ってくるの忘れただけだろ、お前」
「…………」
「ったく、めんどくせえなあ。あー、清涼飲料水と化したコーラと、百パーセント醤油ジュース、どっちがいい?」
「オレンジで構わないわよ。わかってると思うけど、百パーセントじゃないやつね」
「人の話を聞けっつーの。んじゃあ雑巾の絞り汁を隠し味にしたオレンジジュースでいいな」
「いらないわよっ! って、行っちゃったし。…………ふふ、なんだかんだ言っても、私の分も持ってくるつもりなのね……」
「………………で?」
「なんだよ」
「なんであんたがオレンジジュースで、あたしのはただの水なの?」
「安心しろ、ただの水じゃない。砂糖水だ」
「あたしはカブトムシか!」
「似たようなもんじゃねえの? 頭に角生えてるし。にょきにょきっと」
「……あたしが鬼だとでも言いたいわけ?」
「ほれ見ろ、鬼みたいになってる」
「あんたがあたしを鬼にさせてんでしょ」
「そう怒るなよ。単にオレンジがあと一杯分しか残ってなかっただけだ」
「じゃあ、あたしにそれを寄越しなさい」
「あ、おい。ちっ、勝手に飲みやがって。……あー、でもさ、それ。雑巾の絞り汁入ってるぞ」
「ぶふっ!?」
「なんて嘘に決まって――――って、うっわ、きったねえなあ。噴き出すなよ」
「げほっ…………あんたが変なこと言うからでしょうが!」
「はんっ、勝手に飲んだ罰だ。ざまあみろ」
「ムカつくわ……」
「んじゃ、残りは遠慮なく頂くぜー」
「………………あ、それ。間接キス」
「ぶはっ!?」
「ちょっと、汚いわねえ……」
「ごほ、ごほっ…………てめえが変なこと言うからだろうが!」
「ふんっ、あたしをからかった罰よ。ざまあみなさい」
「クソアマめ……!」
「なんとでも言いなさい。……にしてもあんた、間接キスぐらいでなに動揺してんの?」
「は? 別に動揺してねえしー」
「嘘。顔赤いわよ」
「ぐっ……。じゃ、じゃあお前もやってみろよ」
「はあぁ? な、なんでそんなことしなくちゃなんないのよ!」
「なんだよ、てめえも動揺してんじゃねえか」
「してないわよ」
「いーや、してるね。してないってんならやってみせろよ」
「……別に、間接キスぐらいなんでもないわ」
「ほ~ぅ? じゃ、さっさとやれ」
「…………の、飲めばいいんでしょ?」
「ああ。ほら、早く」
「………………えいっ」
「………………」
「…………ふう。ほ、ほら、飲んだわよ」
「お、おう。そうか……」
「……なによ、その反応」
「別になんでもねえよ。お前こそ、どうした? 顔真っ赤だぞ」
「……この部屋、暑いんじゃないの?」
「んな急に暑くなるかよ。あー、んじゃぁとりあえず、熱を冷ますためにこの水でも飲めよ」
「…………なんか怪しいんだけど。砂糖が大量に入ってるとかじゃないわよね?」
「んな勿体ないことするかよ。普通に飲めるっての」
「……まずはあんたが飲みなさい。普通に飲んだならあたしも飲むわ」
「へえぇ~? また間接キスしたいのか」
「っ! 飲めばいいんでしょ、飲めば! ――――――――ごほっ、ごほ!? な、なによこれ、すっぱいんだけど!?」
「うはっはははははは! 引っかかってやんの! 安心しろ、ただの百パーセントグレープフルーツだからよ、はははっ!」
「あ、あんたねえ……!」
「ははははってえぇッ!? ま、待て、殴るのは反則だ!」
「子供みたいなことしてんじゃないわよっ、このっ、このっ! あたしがすっぱいの飲むとむせ返るの分かってて飲ませたでしょ!」
「いて! わ、悪かったっての! 暴れるな、ジュースこぼれる!」
「はあっ、はあ……」
「ったく、暴力女め」
「うるさいわ、悪戯小僧」
「……けっ」
「……ふんっ」
「……それにしても、暇ね」
「ああ? だからゲームやって…………って、いつの間にか電源切れてるんだが!?」
「ゲームは一日一時間までよ」
「なに親みたいなこと言ってんだ! セーブしてねえのに……!」
「なに子供みたいなこと言ってんの。それより、なにか面白いことないの?」
「だから、ゲーム……」
「テレビゲーム以外で」
「なら、パソコンでゲームを……」
「そういうのから離れなさい。目を悪くするわよ」
「んだよ……。んじゃ、しりとりでもしろってのか?」
「一人でやってなさい」
「お前なあ、文句言うんだったら自分がなにか提案しろよ!」
「そうね…………。じゃあ、『嘘つきゲーム』でもしましょうか」
「なんだそりゃ?」
「今から言うことは全て、思ってることとは全部逆にするの」
「ふうん? 『退屈だ』と思ってたなら『楽しい』と言えってことか」
「そういうことね」
「……なあ、面白いのか、それ? しりとりと同レベルじゃね?」
「こないだ友達とやったときは無駄に盛り上がったわよ」
「マジかよ? まあ、どうせ暇だからいいけどよ」
「じゃ、始めるわよ」
「おう」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………なあ。黙ってたら意味なくね? こういうのって、相手に質問したり、なにかお題出したりするもんじゃねえの?」
「そ、そうね。じゃああんた、あたしに何か質問しなさい」
「んな、いきなり質問って言われてもなあ…………。あー、そういやお前さ、すっぱいもの好きだったよな?」
「はあ? そんなわけ――――い、いえ、まあ、うん。『大好き』よ? それはもう、すっぱいものさえこの世に存在してればそれでいいと思うぐらいに」
「ほぉ~、そうかそうか。だったらこのグレープフルーツジュース、全部お前にやるわ。いや、人に飲ませるのは実に惜しいんだが、そんなに好きなら仕方ないよな。いやいや、遠慮はいらねえって。ほら、ぐいっと飲み干しちまえよ」
「こ、この男は……! そういうゲームじゃないから!」
「なんだよ、ノリ悪ぃな。人がせっかく面白い遊び方考えたってのに」
「あんたの遊び方はひねくれ過ぎなのよ……!」
「ちっ、それじゃあお前がお手本見せてみろっての。ほら、なにか質問」
「偉っそうに……。…………そうね…………。じゃ、じゃあ……さっきのあたしとの、か、間接キス。……どうだった?」
「はあぁ!? なんだその質問!?」
「な、なによ。別にむずかしいことじゃないでしょ、逆の感想を答えればいいだけよ」
「くっ……。お前の遊び方のほうがひねくれてんじゃねえのかっ……?」
「そんなことないわよ。ほら、早く感想を言いなさい」
「感想ったってなあ…………。ああ、そう、『別になんとも思わなかった』ぞ」
「ということは、なにか思ったってことね。で、なにを思ったの?」
「ぐ……突っ込んで聞くのはアリなのか!?」
「アリよ」
「即答かよ。ほとんどお前がルールになってるじゃねえか」
「いいから答えなさい。どう思ったのよ?」
「どうと言われても、本当に答えようがねえんだけどよ……。言葉にできないっつーかなんつーか? ……あー、でもそうだな。強いて言うなら…………」
「言うなら?」
「『お前の味がした』」
「――――っ、ごほっ、ごほっ!!」
「はっ、おいおい? グレープフルーツを飲んだわけじゃあるまいし、なにむせてんだよ? ん?」
「ごほっ……。あ、あんたねえ……いきなり変なこと言わないでよ!」
「ん~? どこが変なことなんだ? 俺はちゃぁんとルールに従って、逆のことを言ったまでだぜ? お前の味なんかしなかった。そういうことだ」
「そ、それにしたって今のはないわ! どこのドラマの台詞よ!」
「ああ。キスした後にでも言いそうな台詞だな?」
「なんっ…………! い、イケメン俳優が言うならともかく、あんたが言ってもギャグにしかならないし!」
「そのギャグに噴き出したのは誰だ」
「うっ……! あんたってホント、人をからかうのが生きがいのような男ね……!」
「ふふん、まあな」
「開き直るな!」
「んなことより、次は俺がお前に質問する番だな」
「…………ね、ねえ。もうやめにしない?」
「断る。折角楽しくなってきたんだ、もう少しやらせろ。さて、なにを質問するか……」
「………………」
「こら、逃げようとするんじゃねえ。……よし、質問が決まったぞ。覚悟はいいか?」
「……ふん。なんでも聞くがいいわ。すんなりと答えてあげる」
「ほ~、たいした自信だ。んじゃ遠慮なく聞くけどよ」
「なに?」
「お前、好きな男とかいんの?」
「――はあ!? なにその質問!? ガールズトークか!」
「くくっ、いいから答えろよ?」
「……なんであんたに答えなくちゃなんないのよ」
「いや~、普段からツンケンしてるお前にも春が訪れてるのかな~、なんてことが幼馴染としては気になるわけだ」
「ふんっ、余計なお世話。いたとしても『あんたじゃない』ことは確かよ」
「はんっ、そりゃそうだ。俺なわけが…………………………え?」
「なによ?」
「……いや、お前……。今、何のゲームやってんのかわかってて言ってんのか……?」
「はい? ……………………ああ!? ちょ、ちょっと待って! ち、違うわっ、今のはそうじゃなくて……!」
「……へえぇぇぇ~、そうかそうか、そうだったのか~。お前が俺をねえ~?」
「ち、違うわよ!」
「ほほう? つまり、その通りだと」
「い、いえ、これは逆のこと言ってるわけじゃなくて……!」
「いやぁ、気が付かなくて悪かったな~。今まで寂しかっただろう?」
「寂しくないわよ!」
「そうかそうか、そんなに寂しかったのかー」
「ううあああぁぁ~、もう!! あ、あんたこそどうなのよ!? 実はあたしのことが好きだとか言うんじゃないでしょうね!?」
「はあぁ? そんなわけ……い、いや? だ……大好きだぞ、お前のことが……」
「ええええぇぇぇっ?」
「いや待て、なんだその反応は!?」
「だ、だって今の……え、な、なに? どっちの意味の発言なの!?」
「どっちって、だから今はお前のターンだろ!? だから俺はだな……!」
「知らないわよそんなの! あたしは、だって、そんな……! なに、だって、あんたがそもそも……!」
「いや待て落ち着け! 落ち着こう! なんかわけわからなくなってきたぞ!?」
「あたしももうわけわかんないわよ! な、なんでお互いに告白しあってるのよ!?」
「い、いや告白じゃねえし!」
「ってことは告白なの!?」
「ちがっ、ちょ、…………待てって! 一旦ゲーム中止だ!!」
「中止!? え、中止って、ええと、何の話だっけ!?」
「混乱しすぎだ! ああもう、ストップ、ストォォォォップ!! 一度深呼吸しろ! わかったな!?」
「し、深呼吸ねっ? …………すうぅ――――すうぅ――――すうぅ――――」
「って、おい! 吸い続けてどうする!? ベタなボケかましてんじゃねえよ!」
「――ぷはっ!? はあっ、はあ、苦しかった……」
「アホか、お前は! ったく…………はあ、なんかめちゃくちゃ疲れたんだが…………」
「ええ、あたしもよ。なんか、すごく気が抜けた感じ…………眠たくなってきたわ……」
「…………ふうぅ~……」
「…………はあぁ~……」
「…………おい、あんまりくっつくなよ。暑苦しい」
「なによ。あたしは疲れてるの。別にいいじゃないのよ、寄りかかるぐらい」
「よくねえよ。つーか、さっきは気持ち悪いから近寄るなとか言ってなかったか? なのに、お前から近づいてくるとはどういう了見だコラ」
「…………あれは、嘘よ。別に気持ち悪くなんかないし。疲れてるときぐらい、あんたに甘えさせなさい」
「は? ……お前、まだ『嘘つきゲーム』続けてんのかよ?」
「さあ。どっちでしょうね」
「……なんだ、そりゃ」
「言葉なんて、わかんないわよ。どれが嘘か本当かなんて、あたし自身にもわかんないもん。口から出た言葉なんて当てにならない」
「急に小難しいこと言いやがって。言葉が当てにならないってんなら、どうやって人とコミュニケーション取るんだよ?」
「さあね。態度とか行動を当てにすればいいんじゃないの……」
「……はんっ。てことは、今お前に甘えられてるこの状況は、“そういう”解釈でいいんだな?」
「…………」
「…………」
「………………」
「……お、おい。なんとか言え」
「………………」
「……おい? なにか反応しねえと、本当に…………ん?」
「…………すぅ――――すぅ――――」
「………………こ、こいつ、寝てやがる……! はあぁ~…………ったく。疲れたら寝るって、ガキかよ」
「すぅ――――」
「寝不足とか言ってたしな……。しっかし、信用されてるって解釈でいいのかねえ、これは? それとも…………」
「すぅ――……」
「……まあ、別に、甘えられるのは悪い気はしねえけどよ」
「すぅ…………」
「いや。行動で示すんだったか? だったら、俺の気持ちは…………」
「………………ん――」
「……………………」
「…………すぅ……」
「……ふん。ま、これからもよろしくってことで」
「……すぅ――――」
すげえ、この二人……。喧嘩しながらイチャついてやがる……
ってな感じの、会話文オンリー小説第六弾。
風ノ音様よりリクエストいただきました、『「ツンデレ男」と「ツンデレ女」のカップル』です。……リクエスト受けたのは半年も前のことです。遅れて申しわけございません。
さて、気を取り直して。
お互いにツンツンしつつも離れることはない。素直になれないけど、心は通じ合っている。そんな微妙な距離感みたいなのが出ていればいいなー、と思うんですけども。いかがでしょう?
でもこれ、そもそもツンデレになっているでしょうか。単に口が悪いだけのような気が……。うむむ、書いてるうちに段々とツンデレの定義がわからなくなってきました。
あと、これは書き終えてから気付いたんですけど、リクエストは『カップル』ということでしたね。……うん、やっちゃいました。明らかにカップル未満な二人です。
で、でもカップルという言葉は「恋人同士」という意味だけじゃなく、単なる「一組」という意味もあるから………………はい、言い訳はこのぐらいにしておきます。ツンデレに関してもそうですが、書きあげちゃったものは仕方ないので、どうか許してください。
感想などお待ちしております。リクエストも受け付けますが、書くのは遅くなるかもしれません。それでもいいという方は是非どうぞ。
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