黛薫子は今日もクズ
11年前に大学の課題で書いた作品で、ノベルデイズに投稿してましたがそちらが終わることと、好きなので投稿しておきます。さくっと読めるラノベです。
黛薫子、それが彼女の名前。
美しい黒髪ロングにぱっちりとした大きな黒目の持ち主、小顔で肌は白く日の光を浴びずに育ったことが伺える。
一週間前に薫子から告白されて俺たちの恋人の関係は始まった。
同じクラスにも関わらず彼女のことをよく知らなかったが、告白されたことのなかった俺は嬉しくて二つ返で承諾した。
以前の薫子の印象は教室でいつも寝ている、休み時間になる途端にふらふらとどこかへ行く、誰も彼女と深く関わろうとする者は居らず、どこかつかめない、変わった女だった。
けれど関わっていくうちに最近知った彼女の素顔、それは実際一人でよく喋る、重度なゲーマー、料理も作れない、頭が悪く俺より馬鹿、好きな事しかやらない、やりたくない思考のクズ人間だった。
そんな彼女と二人並び、屋上で俺が作った弁当を食べれている。
屋上は俺たち以外無人で閑散としている。というのも、屋上は立ち入り禁止なのだが、天文部の俺は活動の為屋上の鍵を預かっていた。
屋上は俺以外には誰も入ることが出来ず邪魔されない、俺が学校で唯一落ち着くことの出来る大好きな場所だった。
神聖な屋上にこうして彼女を連れ込んでいるわけだけど、誰もこないからと言ってやましいことをしようという気は一ミリもない。
付き合った翌日の昼休み、「屋上に行きたい」と開口一番言った彼女は俺が屋上に行くのを見かけていたのだろう。俺に興味を持った事の目当ては屋上だったと理解した。
「昨日徹夜でゲームをしていたから眠いわ、とても眠いわ」
そう言って彼女はふわぁと大きな欠伸をする。本当に眠そうだ。翌日辛いのが分かっているのだから中断して帰ってやるとか明日やるとかすればいいのに。
「……なにその中断して寝ろよっていう目は。あそこでやめては区切りが悪かったのよ、それくらい察しなさい」
顔に出ていたのか言いたい事を見抜かれてしまった。察しなさいと言われても趣味と言える趣味のない俺にはゲーマーの気持ちは分からない。
「そういえばさ、さっきの時間体育だったけど、またサボったのか?」
「愚問ね、サボるに決まっているじゃない」
「思ったんだけど、お前が体育サボる日ってテニスとかバレーとか二人組作るやつだよな」
「……そうね、というか何で知っているの? 女子と男子は体育別のはず……女子の体操服姿が見たくてこっちを見ていたのかしら?」
「断じて違う! お前はサボっていたから知らないだろうけど、今日は合同だったんだよ」
「それじゃあ貴方と一緒に運動が出来ていたというわけね」
「意味深な言い方するなよ……というか何処行っていたんだ」
「今日はバレーだと分かった瞬間、先生、お腹痛いですって言って お腹を押さえながら保健室に行ったわ」
「すごいなその技、サボりのプロかよ」
「私病弱っぽいから信じられやすいのよ。まあ、でもスポーツの中でも陸上とか水泳は好き、テニスも一人で壁打ちなら好きだわ。チームプレーは総じてクソ、個人競技以外滅ぶべきよ」
「その発言スポーツ選手に喧嘩売ってるよな」
「貴方にも分かるはずよ、私と同じで友達いないし」
「うん。その通りなんだけど、他人から友達いないとか言われるとへこむ」
実際俺はぼっちだ。修学旅行の班決めとか余ってよく知りもしない奴らのグループに入れて貰った。
その時は口には出さないものの、何でお前居るんだよオーラがひしひしと伝わってきてさっさと家に帰りたかった。二十分でさえ一時間のように感じた。
慣れると一人と言うのは楽で、休み時間は睡眠に費やせるし、喋って体力を消耗しないので、一人の気楽さに気付いてからは進んでぼっちとなった。
そんなわけで俺も人のことは言えないが、薫子は酷いほど協調性が欠落している。
おまけに気に入らない人間には暴言も吐く。こんな人間性で、社会に出て生きていけるんだろうかと心配になる。俺たちは高校三年生だ、来年はもう卒業して進学か就職かしていなきゃならないのだ。
「あら、その顔はこいつ進路どうすんだって顔をしてるわね」
何故分かるのか。俺はそんなに言いたいことが顔に出やすいのだろうか。それともこいつは読顔術を極めた使い手かエスパーで俺の考えは全て見抜かれているんだろうか。
「ふふっ、それなら心配ないわ。私、進路調査票にはニートになる、それか専業主婦って書いたの。貴方の専業主婦になるから私を養ってよね」
「は?」
「このお弁当とても美味しいわ、いつも私の分も作ってくれてありがとう」
「あ、ありがとう……」
えっと、これってプロポーズなのだろうか。自分で作った弁当を食べて貰い、美味しいと言われて悪い気はしない。そんなことを言われては一生作り続けてあげたいという気になってしまう。こんなに可愛い子を嫁に貰えるなんて俺は幸せ者なんじゃないか。クズだけど、外見はとても可愛い。ああ、でも確実に尻に敷かれそうだ。と、薫子との結婚生活に思い巡らせていると、彼女は微笑んで言った。
「あ、お給料だけ口座に振り込んでくれたらいいわ。籍だけ入れて別居生活がしたいの、誰かと一緒に暮らすだなんて考えられない」
「ああ……あっそう」
一気に夢が砕け散る。こいつを養ってやろうかと思った途端その反応……ぼっちでも平気な強メンタルを持つ俺でさえ傷ついた。お前を養える男なんて生涯俺だけだということを分かっていない。分からせてやりたい。クズだけどそこが可愛いなと思ってしまう。そんな奴だ、黛薫子という女は。




