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チェンジ・ザ・ワールド

 西部橙高校の中間テスト期間が終了した日の午後の授業は無い。

 里美は体育館正面の階段に座り、購買で買った湿気ったコロッケをハムハムと食べながら、アニーを待ち合わせていた。


 「何してんのよこんな所で」


 久々に聞く気色悪い声。思わず振り返ったら、鎌田が内股気味で立っていた。


 「あ、トゥリース!鎌田パイセーン!アニー待ってるの。テストも終わった事だし、これからプリリーガールズは柏というスラムに刺激を求めに行くってプランなワケ。」

 

 「とんでもなくポテトなプランね。柏がプチ渋谷なら大宮はプチ池袋?何でも近場で済まそうとすると、百均で事足りるアウトレットガールズになるわよ~。」


 「そんな発言、柏レイソルサポーターが聞いたら炎上間違い無しよ。イモでケッコーナリ~。イモナリ~。キテレトゥ~。」


 ド下手過ぎるコロ助の声真似をしながら、里美はコロッケをたいらげた。

 

 クラスの男子にも噂が広まるくらい男嫌いだったはずの里美は、何故か鎌田には友好的だった。

 そこはアニーが同類項としての括りを結んだ仲だからなのか、単純に鎌田がカマだからか、どちらにしても里美にとっては今はどうでもいい事だった。


 里美は鎌田に対して大海の予感をバカ話で誤魔化していたのかもしれない。

 間違いなく里美は何かの始まりを感じていた。


 「あ、アニー来た。」


 「あ、同類項ワンペア。お待たせ~。」

 

 アニーは来るなり、カマとはいえ先輩を思いっきり指差すという体育会系の部活なら三時間程正座させられそうな無礼行為を平気な顔してクリアした。


 「鎌田先輩もくる?ポテトタウン柏。」

 

 「私は学食で受験勉強なの。アンタ達もそのうち私みたいにイヤでも銃をペンに持ち替えた戦争に巻き込まれるんだから、今の内に遊んでおきなさい。イモは防弾チョッキ着ないとすぐに妊娠するわよ~。文字通りタマには気を付ける事ね。やだんも~興奮してきちゃったから~。」


 里美もアニーもだめだこりゃといった感じで軽く手を振り、鎌田と別れた。


 

 蒸したバスの車内でアニーが遅れた事を謝ってきた。


 「ごめん!テスト中ガン寝しちゃってそのままホームルームなだれ込んでたらしくてさ、自転車でコケる夢見たら…」


 「ふが!ってなるよね。そんな男子うちのクラスにもいる。」


 「寝惚けてわーっ!つって手を上げたら、たまたま文化祭実行委員決めてる最中だったらしくて。」


 「え?まさかアンタ…」


 「そのまさか。うちのクラスも適当よね。…んで遅れちゃった。」


 「まるでドリフの酔っ払いコントね。」


 「志村はイヤ。茶がいい。」


 「なんで?」


 「ハゲてるから。」


 「茶だってハゲヅラかぶるじゃん。」


 「地毛の問題よ。あーあ、ハゲはイヤ。」


 

 話がローリングしまくって、文化祭実行委員の話も宇宙の彼方へ消えていってしまった。

 里美とアニーはお互い勢いで喋るので、こんな事はよくあるどころでは無い。

 

 しかし、このバスの中で里美はそのビッグバンの切れ端を掴む事に成功していた。


 「大海ってのはこの事か。神様…」



 バスが駅に着くまで、アニーはドリフの話を引っ張っていた。



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