オータム・ハズ・カム
「なんじゃこりゃ。」
橙祭実行委員会議で渡された、野外ステージのタイムテーブルを見てアニーは愕然とした。
「橙ライブタイム野外ステージタイムテーブル予定」
12:30~12:50 「チアリーディング部」パフォーマンス
12:50~13:10 「三年A組中野辰巳」日本舞踊
13:10~13:30 「合唱部」アニソン四重唱
13:30~14:00 「チスター・ミルドレン」バンド演奏
14:00~14:30 「ラルク・アン・ダルシム」バンド演奏
14:30~15:00 「kiss me baby」エアバンド演奏
15:00~15:20 「毛ミストリー」カラオケ
15:20~15:40 「春笑亭弁太郎」落語
15:40~16:00 「少々問題」漫才
「ダルシムの次って…オイオイ。」
ラルクのフロントマンがダルシムだったら、ザンギエフと戦うのはhydeになるのだろうか?しかもこのバンド、ブルーハーツのコピーバンドらしい。インドインド~♪ってか?…うーむ。若さって、とてもバカ。
選考基準もクソも無い、拍子抜けしてしまうにも程があるラインナップだが、四の五の言わず、kiss me babyはこの舞台で戦わなければならない。
合同練習最終日を一週間後に控えたkiss me babyの四人は放課後、学食に集まり緊急会議を行った。
「これってまさか田中三保の真裏じゃね?」
タイムテーブル表を見ながら里美がゾッとする盲点を付いた。
「あ…、田中三保トークライブ、十四時からだからモロだ…。」
「それじゃあ、全校生徒プラス一般入場者の約八十パーセントがこの時間は体育館ホールに集うってワケね。」
「鎌田、残りの二十パーの人達は何?」
「じゃんけんで負けた露店の店番が十パー。便所でセックス中の男女が二パー。田中三保を知らないジジババの保護者が三パー。そして残り五パーが、私みたいなオカマ・ゲイに違いないわ。」
「瞬間的オカマ人口が保護者上回るのかよ!恐ろしい三保効果ね…。」
「んじゃ、うち等は店番と、ジジババと、ニャンニャン中と、オカマ相手にライブするって事ね。」
「………………………………………。」
全員この事実に笑う事が出来なかったが、円代が沈黙を破る。
「…そんなんでいいわけないでしょ!」
「んじゃーどうするよ~?相手はティーンのトップモデルだよ~?」
「トップモデルだかプラモデルだかしらねーけど、モデルだったら何でも仕方ねーのかよ!モデルに『ウンコ食ってよ』って言われたら『モデルが言うならいただきます。』ってなるのかよ!」
正常な大人が言うとは思えない、バカガキみたいな事を円代は真顔で言った。
「んじゃどーすんのよ円代ちゃん…。演奏時間はずらせないよ?」
「要するに、だ。田中三保がその時間に出なければいい。」
「どーしたって出ちゃうでしょ。その時間トークライブなんだから。」
「田中三保を体育倉庫に監禁するとか…」
「円代ちゃん、うちら全員お縄だよ。んな事したら。」
「田中三保を今からメンバーに引き抜くとか…」
「円代ちゃん、そしたらドラム交代ね。」
「田中三保を差し置いてうちらがトークライブするとか…」
「円代ちゃん、前説にもならないよ。」
「田中三保を田中邦衛にすり換えるとか…」
「円代ちゃん、たぶんギャラのアタマ飛び出るよ。」
「田中三保を…三保を…」
「円代ちゃん?あれ?」
円代は悔しさの余り、テンパっていた。
「あーダメだダメだ!何も思い浮かばない!うちらプラモデル以下かよ…ちくしょう…。」
「円代ちゃん、まだ八十パーセントの人が全員そっちに流れるとは決まってないよ!昨年のネプチューンみたいに入場規制が掛かれば、中に入れない人だって出てくるよ!正々堂々戦うしかないよ!負け戦って決め付けてちゃ…」
里美がヒートアップし、円代はレディース時代をふと思い出した。
「…里美、そういえば私、負けないケンカを選んだ事なんて今まで無かったわ。そうだよね。何かをするのは田中三保が居るからじゃないよね…。」
「なんとかしようよ。ビラ配りでも何でもする。お客さん見に来て欲しいし。」
「私のオカマ仲間にも声かけてみるわ。」
「学食パートのみんなや、昔のツレ達にも協力あおってみるよ。」
「私は文化祭実行委員のコネを使ってやるわ。」
田中三保という未知なる外敵(どちらかというとダルシムの方が未知だが…)は、kiss me baby初ステージにとって大きな台風の目に他ならない。四人は燃えていた。
「曲順はこれで最終固定ね。ここの演出は鎌田、ここは円代ちゃん、アニーはここ。んで……」
下校のバスはもうとっくに出てしまっていたが、誰も居ない学食で四人は楽器も持たず、音楽も一切流れていない空間で、確かな音楽を作り出していた。