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テイスト・オブ・コロッケ

 里美は部活動に入る気なんか最初から無かったので、教室を出てから勧誘を撒くのに毎日一苦労していた。

 

 部活動という集落は里美にとって全部合コンの類にしか思えず、例え文科系でも全てチャラいイメージ、いわゆる偏見が付いて回っていた。

 

 男も嫌いなら、その嫌いな男に媚を売る女、すなわちビッチももちろん併せて嫌いだった。

 

 里美は基本的に自分の幸せには盲目で、人の不幸に躍起を示すという曲がった心を常に持っている、

 「何処にでもいる面倒臭い不幸女」という恵比寿で飲んだ暮れているOLみたいな女性像を高校生ながら地で行っていたのである。

 

 しかし里美は、


 「これじゃまるで『りぼん』に出てくる悲劇のヒロインじゃねぇか。ダサ。」


 アニーに突っ込まれる前に自分で気付く辺りはさすがに十六才のクソガキ、といったところであろうか。

 そんな事を思いながら校門を過ぎようとした所、ポンと優しく誰かに肩を叩かれた。

 

 「また部活の勧誘かよ…」


 そう思いつつも反射的に振り向いてしまった瞬間、里美はうかつにもドキッとしてしまった。

 

 「よぉ。卒業式ぶりじゃん。」


 二ヶ月ぶりに見た勇太の顔は、違う制服を着ていた姿を初めて見た為か、少し垢抜けた印象だった。

 里美は数秒のタイムラグに襲われたが、動揺をあえて隠さず、その勢いに任せて叫びたてた。


 「はァ?!アンタココで何してんの?新しい彼女でも出来たの?!」

 

 「その…まさかだったりして!なーんて。冗談だよ冗談。」

 

 「どうでもいいわ。ノコノコ声掛けれる神経もギネス級にラフね。余りにもつまんない冗談言いにわざわざ此処まで来たの?」

 

 「ちげーよ。このチャリで通り掛かっただけだって。帰り道なんだ。また会っても今度は声掛けねーから。ごめん。んじゃ。」


 思った以上に冷たく当たられた勇太は予想してたとは言え、凹んだ気分で自転車を漕ぎ出した。

 その背中を見ながら里美は


 「バーカ!負けを認めに来るくらいだったら幸せ自慢撒き散らせっつーの!」


 泪目になりながら独り言を呟いた横で、


 「まるで『りぼん』みたいね。ダサ。」

 

 とアニーがコロッケを頬張りながら呟き返した。

 

 「『りぼん』のサブヒロインがコロッケ頬張るなよ。ダサ。」

 

 「まぁ、食いなよ。はい。」


 アニーがカバンからコロッケを差し出した。


 里美は絶対に今夜、眠れないメールをアニーに送りまくってやろうと心に誓い、コロッケを泣きながら頬張った。


 季節は高校入学後、初の梅雨を迎えようとしていた。



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