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エアスピン

 


 アナタは、あの豊島園にある絶叫マシン「トップスピン」に乗った事があるか?

 

 

 俺は、ある!

 


 横に数列並んだ「カロリーメイト」の様な乗り物に鎮座させられ、高所にさらし者のごとく掲げられたあげく、縦に斜めに前から後ろへ、とにかくひたすら回りまくり、人間の三半規管を粉々にする鬼悪魔打首獄門のキラーライドである。

 

 そのままでも十分拷問の様なマシンだが、自分の右サイドに水木一郎を一人、さらに左サイドは松岡修造を一人括り付けようものなら大変だ。

 

 右サイドは「ゼェェェェェェーットォォォォォ!!!!!!ゼェェェェェェーッッッッッッ!!!!!!!」

 

 左サイドは「スマァァァァァァァァッッッッシュゥゥゥゥゥ!!!!!!スマァァァァァァッッッッ!!!!!!!」

 

 絶叫が一億倍にスケールアップし、トラウマ間違い無しである。水木も修造も決して暇じゃないのでお勧めはしないが。

 

 シンディの華麗なステージから一夜明けたアニーの状態はもっと酷かった。

 

 自分以外の乗客右半分に水木を敷き詰め、残りの左半分は全て修造という状況下の中でトップスピン百連発をクリアした様な朝。視界に飛び込んでくる世界は全て「ウルトラQ」のオープニング状態。頭蓋骨の中では狂った坊主が釣鐘を乱打しているに違いない激裂な頭痛に見舞われた。

 

 アニーが人生初の二日酔いで地獄の沙汰を行き来している間、里美は昨夜のステージを参考に、ライブの構想を既に練っていた。

 

 

 なにぶん、エアバンドの前例や見本が殆ど無かった上、里美達には具体的な表現方法が明確にあるワケでは無かった。本物のロックコンサートとエアバンドライブの相違点、ダンスとの区別、カラオケとの差別、自由度の利点、臨場感の不利点等をピックアップし、普段の授業では決して見せない意欲で研究を重ねていった。


 里美とアニーには知識が無かった。ギターに触れた事も無かった。シンディや円代の様な経験も無かった。


 無い無い尽くしの中、彼女達には桁外れの発想力と行動力だけがあった。それを若さと言う者もいれば愚かと罵る者もいる。しかしそれは、一時期だけに突出する限られた能力であり、自分達にとって唯一許された魔法であると信じてきた。


 「やるしかないんだ。神様…。」


 里美は思い込みを真実に近付けていく作業を黙々と進めていた。


 

 

 まず、「演奏曲」を考える。これは見ている人が知っている曲、聞いた事がある曲程盛り上がる。とは言っても、全校生徒が知り、聞いた事があり過ぎて、大合唱さえ出来てしまう校歌などをチョイスしたところで盛り上がるワケが無い。だからこそ境界線が難しい。まぁ、文化祭で校歌やる奴はいねーか。

 

 里美は皆の知っている曲はもちろん、ライブとは人間が初めてロックを感じた瞬間の「なんだこりゃ!」っていう言い知れない衝動こそ欠かせないものだと信じていた。これ、正論である。


 そもそも、バンドマンがバンドを始めたキッカケを語る常套句で「電流が走った」とよく言うが、だったら昔のFMWなんかキッカケだらけだったんじゃないかと思うがどうだ。どうもしないか。


 里美は密かに燃えていた。 


 オーディエンスを全員ビビビと松田聖子の様にしたいぜ!心の岸辺に咲かせるぜ!血の色スイートピー!ウへヘヘヘヘ!…ってそれじゃデーモン閣下だよ。

 

 

 

 次に、「演出」を考える。前記にもあるように、エアバンドは「ダンス」や「カラオケ」ではない。誇張された演出が無いと仮想現実にもならない。オーディエンスは夢の瞬間を待ちわびているのだ。

 

 そこに楽器が無くとも、在る様に。そこに音が鳴っていなくとも、聞こえる様に。その声を出さずとも、届く様に。しかし、全て実際には無いのだからこそ、選択肢も無限大だ。

 

 「だいたいなんだ?ゆがみってのは?音がゆがんでしまうのなんてプロ失格じゃないのか?!このゆがみとやらにウンチクたれてるエリック・クラプトンってオジサンもエアバンドやればいいのに!」


 里美が参考資料として買ってきた雑誌「プレイヤー」の特集ページで、「目指せクラプトン!歪みエフェクター入門」のショット写真に写るクラプトンから吹き出しが出ている。ギターの神様も散々な扱いを受けながら金を稼いでると思うと実に涙ぐましい。ちなみに「歪み」とは「ひずみ」と読む。


 

 

 最後に里美は「準備」を考える。自信というものは準備から生まれ、全てのタイトロープに繋がる。


 良い事を想定し準備する事を「挑戦」と呼び、悪い事を想定し準備する事を「対策」と呼ぶ。成功を共有する為に挑戦をし、その足元を掬われない様に対策を立てるのだ。

 

 要するに、テストでいい点取るには、よく復習してよく寝ようって事である。本番で頭に入ってないままグースカ眠りこけてしまったら、学力以前の問題になってしまって笑い話にもならない。名前書き忘れて0点取って同窓会のネタに引っ張られるのもキツい。


 

 そしてこれら全てを行動に移すのだ。Do itの背中ではどんな思考も無価値になってしまう。行動する事により、全ての栄光と、全ての挫折が、自らの手で導かれるのだ…


 

 






 

 「れ…る…の…だ…マル。と。よっしゃ!やっと『エアバンドのしおり』が出来た!」



 kiss me babyという船が、浮かぶか沈むか試される橙際のステージまで、あと二ヶ月余りとなった。



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