表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/30

ドランク・オア・ダンス

 もはやシンディは鎌田利明ではなかった。


 本物の女性も言葉を失う程美しく、艶やかで、脆いダイヤの様な若さに満ち溢れていた。


 「うわぁ…」


 その言葉を失っている女性陣三名は、女より女らしい鎌田の姿に嫉妬を通り越し、じっと見入る事しか出来なかった。


 シンディが指を唇にあて、喉のラインから腰にかけてなぞっていく。そのセクシャリティには溜め息がこぼれる程であった。


 「シンディちゃんはね、十七の頃からココで踊っているのよ。風営法が厳しくなってあまり大っぴらには出来ないけれど、この妖艶さもあって新宿では知る人ぞ知る期待のホープなんだから~!」


 福の神が興奮気味に言った。その瞬間、BGMがVAN HALENの「PANAMA」に切り替わる。どうやらシンディは若さの割りに80'sが好みらしい。


 アメリカン・ハードロックの縦ノリに合わせ、腰をジャイヴさせるシンディ。たったそれだけで、シンディはまた表情を変え、今度はディビッド・リー・ロスの様に活発なアクションを交え、観客を煽った。それはそこにある筈の無いマイクスタンドまでがまるで鮮明に浮かび上がる様であった。


 「キャーキャー!!!鎌田…じゃなかった、シンディ超ちょ~うカッコいい~!!!アタシも興奮してきたわ~!!!ぶんぶんっ!!!」


 アニーはウーロン茶を飲んでる割には少し落ち着きを失っていた。里美は、無理も無いか…と思っていたが、テーブルをふと見てみるとアニーがグビグビ飲んでいたのはウーロン茶ではなく、隣に座っていたメロンちゃんの水割りであった。アニーはステージに釘付けのあまり、テーブル上のウーロン茶と水割りをずっと間違えて飲み続けた為、既にへべれけになっていた。

 

 「イエイイエーイィィィ!!!シンディビューチホゥーーーーー!!!もっとやれ!脱げ!けつみせろーーーっ!」


 「んもうっ、お嬢ちゃんったらタチ悪いわ…トホホよたくっ。」


 メロンちゃんはずっと水割りを横取りされ、本来アニーの飲むウーロン茶を仕方なく飲んでいた為全くの素面の上、少し呆れていた様子だった。


 しかし、その暴走にブレーキをかける筈の保護者役、円代も泥酔状態だった。


 「おーぅ!コワッパ!!!パイオツなら勝負すんぞー!!!オイ!ビール足らねぇっつってんべ!ジャンジャカ持って来いやー!!!」


 福の神のアタマをピシピシ叩きながら、円代はビールを瓶ごとラッパ飲みしていた。


 


 しかしシンディは動じない。表情一つ変えず自分の役に入りきっている。


 過去に泥酔した客がグラスを次々とステージに投げ入れ、壇上がオペラグラスの様になっても、足に切り傷を負っても、迷わず舞い続けた経験も今は自身となり、シンディを新宿で踊り続けさせていた。


 里美はサイド二人のリアル女性にウンザリしていたものの、ステージ上のフェイク女性(リアル男性とも言う)には羨望の眼差しを送り続けていた。


 二曲舞い終わり、拍手と共に袖へと下がっていくシンディ。裏から里美達に歩み寄るオフフェイスも、そこは鎌田利明ではなく、紛れも無いシンディであった。


 「来てくれてありがとうねぇ~!kiss me babyガールズサイド~!」


 もう、水筒の麦茶を飲んでいた里美以外は手に負えない状態になっていた。アニーはもう水割りと解り切って飲み続け千鳥足となり、円代もベロベロの状態でオカマちゃん達に絡みまくっていた。


 「なんかごめんね。他の二人出来上がっちゃって…。」


 「イイのよ。こんなんまだ全然マシな方よ。アタシももう受験勉強で踊れなくなるかもしれないから、早い内に三人には見て欲しかったの。これで思い切りエアバンドにシフト出来るわ。今やったステージの百倍盛り上げるわよぉ~!里美!ワクワクしてきちゃったぁ~!!!やるわ!やるわよぉぉ~!!!」


 「絶対やってやるわ!!!鎌田…いや、シンディ!あんた最高よ!当然やるわっ!!!」

 

 

 

 ナインスパイクのママが挨拶をしてきた。

 

 「水筒下げたアナタが保護者代わりとはね。ウフフ。」


 「本当にスイマセン…。あの…円代ちゃんがビール飲んでたのは別として、アニーが未成年にもかかわらず水割り飲んでた事は事故って事で、内密にしてもらえませんか…?」


 「そんな事全然気にしてないわよ。何か壊されたわけじゃないしね。私達の方こそ、十八のシンディちゃんが踊っている件は内緒で。オンナ同士の約束よ!」


 「ん?女…同士?ああ、あぁ…『同士』ね。オーケー!約束!それともう一つ聞きたい事があって…」


 「何?」


 「福の神さんってここでは何て名前なんですか?聞き忘れちゃった。」


 「あぁ、ハッピーちゃんね。本名、山田幸男。ああ見えてハッピーちゃん、普段は銀行員で妻子持ちなのよ~。」


 福の神でハッピーちゃんは幸男…「名は体を表す」という事は正にこの事だ。と里美は泥酔した二人を抱えながら思った。

 

 


 ナインスパイクを後にした帰り道、アニーと円代は使い物にならなくなっていた。


 「さとみちゅわ~ん?ココ何処~?あと何時間何分ニコニコプン~?オェ。」


 「ゴルァ!里美!ぺチャパイのくせに生意気だ!のび太のくせに生意気だ!ボケナス!」


 里美は壊れかけのRADIO二人の介抱を野田市までするハメとなり、改めて水筒を渡してくれた母に心から感謝をし、自らは生涯に渡って酒を飲まないと誓った。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ