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スリータイムス・ウォー

 「はぁぁぁぁぁ?!?!?!?!?なっ!なんでですかぁぁぁぁぁぁぁ!??!?!?」


 「コラ田淵、職員室で大声出すな!だーから。本校の生徒以外の者は参加出来んのだ!第一、楽器演奏しないなら誰でも代わりは居るし、野外ステージじゃなくて、教室でも出来るだろ!とにかく却下だ。」


 学年主任の鷹瀬はキッパリと言い放った。


 エアバンド、「kiss me baby」のエアドラム、円代が西部橙生ではない為、野外ステージの出演が認められず、選考書類は受理されなかった。

 それに加え、電機機器を一切使用しないエアバンドのアクトに野外ステージ枠は裂けないとの回答だった。

 

 肩書きだけは文化祭実行委員でもあるアニーは必死に食い下がった。


 「絶対納得行きません!じゃぁ去年のネプチューンだって教室でもよかったはずじゃないですか!」


 「何を芸能人出して屁理屈言ってんだ!ほら、もう授業へ向かいなさい!いい加減にしろ!田淵!」


 「ふぎぃぃぃぃ!おべばいしばすぅぅぅぅ!!!ふぎゃ!」


 やや投げっ放しスリーパーホールド気味に廊下に放り出されたアニー。ぽてんと座り込みながら、三時限目のチャイムが鳴った。

 

 里美や鎌田、何より円代に合わせる顔がない。授業を抜け出し、重い足取りを引きずりながら教室へと戻った。


 三時限目は日本史。ただでさえ退屈な年配教師の語り口が、今のアニーにはお経の様に聞こえた。


 お経、念仏、南無阿弥陀仏、木魚の無機質な四つ打ちビート、線香の香り、涙の味。


 田淵奈菜の母、良江が思い浮かんだ。弱った時にはいつも良江を思い出してしまう。


 「はっ。いけない。忘れかけてた。感傷に浸るタイミングも時間も私には無いんだ。何より、私自身がそんな事を許す訳が無いだろ…畜生!」


 母、良江は微笑みながら奈菜のまぶたの裏から姿を消した。


 年配教師が黒板に向かい黙々と板書をしている時、アニーは隣の席のクラスメイトに「ごめん」と謝りながら息を殺し、教室を這い出して行った。クラスメイトは何も言わず、親指を立てている。


 教室を出た途端、うろついている教師に見つかってもおかしくないスピードで廊下を激走し、円代が居る学食へ向かった。


 「まるよちゃぁぁぁぁぁぁぁんんんんんんんっっっっっ!!!!!!!!」


 学食へ入るなり、アニーは全身の力を振り絞った声で円代の名を絶叫した。円代だけでなく学食にいるパート婦全員が振り向いた。


 


 作業の手を一旦休めた円代に、事情を話すアニーの目には涙が溜まっていた。


 「なんだそんな事かー。もう、誰か死んだんじゃないかとハラハラしたよ。んもう~。アンタも里美も簡単な事でワンワン泣き過ぎだよ!別にその先生の言う通り、エアバンドなんだから私居なくても三人でやれば済む事じゃない。だからもう、ホラ、泣かないで。授業戻りなさい。」


 「…絶対イヤ。」


 アニーは泣き止んだが、厳しい表情で円代を睨み付けた。


 「三人で妥協して教室にこもってエアバンドやるくらいなら、私はヤンキーとビッチ相手に焼きソバ焼くよ。バンド名になった『kiss me baby』って曲を知ってるのも演ったことがあるのも円代ちゃんしか居ないんだよ?その聴いた事もない曲の名前に里美があんなに自分を思い入れてるんだよ?鎌田が自分の受験勉強そっちのけで伝説に肩入れしてるんだよ?それをなんだよ、『簡単な事』だの『三人でやれば済む事』だのって。ふざけんなよ!面白半分のつもりなら、最初から高校生のささやかな夢もて遊んでんじゃねーっつーの!!!このバカ!オバケオッパイ!早くカラアゲ揚げてきやがれ!!!」



 アニーは叫び倒し、涙や鼻水で顔中グシャグシャになっていた。


 嗚咽を漏らし続けるアニーに円代は口を開いた。


 「…ごめん。本当にごめん。私、なめてたんだね。ごめん。何なんだよ…最低じゃんあたし…ごめん…。」


 「いや…。まるよちゃん…私こそ底なしに最低だ…。私が先生に軽くあしらわれたくらいで…チンケな責任盾にしてかっこつけて…まるよちゃんにやつあたりして…これからエアバンドやるのに…やるのに…絶対やりたいのに……もうだめなのかよ……ううぅぅ………もぅ……」


 もうアニーは喋れる状態ではなかったが、声を振り絞って


 「私、先生に土下座してくる…。」


 「はっ?アンタ何言ってんの?授業ブッチして職員室飛び込んだら、それこそ野外ステージ出場停止になっちゃうって…!あっ……!!!」


 

 円代が喋り終わらない内にアニーは席を立ち、学食を猛ダッシュで後にした。



 …その時、里美は授業中に爆睡しながら、山の様なコロッケを食べる夢を見ていた。



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