ネクストミッションズ
「えー!円代ちゃんって、バンドやってたのー?!」
あのグダグダコントから数日、里美とアニーはパート終了後の円代を誘い、東武野田線川間駅前のKFCでミッションを練り直していた。
「まぁ一応…ね。」
「凄いじゃん凄いじゃん!何やってたの?何?」
「ドラム。じゃんけんで負けて。」
「きゃー凄い凄ーい!バンドって超カッコいいじゃん!CDとか出した?まさかデビューとか…」
「デビューはしなかったけど、『イカ天』には出た事あったよ。」
「うわぁ…ホントにすごいなぁ…。円代ちゃん、そこまでいってなんでバンド辞めちゃったの?」
「まぁ…、色々あったんだよ。旦那も子供もいたからね。家族が夕食待ってるのに、いつまでも自分だけ遊んでらんなかったしさ…。」
「ふーん…。そうだったのか…。もったいな…あ、ごめん。なんか余計な事聞いちゃって。」
「無神経な里美らしくないね。いや、いいんだよ。もう過去の事だしさ。ドラムももう十年くらい叩いて無いし。」
「円代ちゃんのドラム、聴いてみたかったよ。」
「ありがと。アンタ達は音楽好きじゃないの?楽器とか興味無いの?」
「私は小学校の時、リコーダーのテスト居残り練習させられたもん。」
「アニーは『エーデルワイス』も満足に吹けなかったもんね!」
「里美だって『荒城の月』の作曲者は?って問題で『荒俣宏』って書いてたじゃん!どんだけオカルトな作曲者なんだよ!渋過ぎだろ!」
「そうじゃなくてさぁ…。ロックとか聴かないの?影響される年頃じゃない?今流行ってんのあまりわかんないけど。」
「里美は、ジャン・レノをジョン・レノンと勘違いして、元ビートルズのメンバーが俳優やってんだと最近まで本気で思ってたんだよ!」
「だって顔少し似てるじゃん。」
「あははは。そこまで音楽に無頓着だと逆に気持ちいいね!」
「ちょっと!円代ちゃん!音楽に興味ないわけじゃないよ!私、パンクが好きなんだ。GREEN DAYとか。Hi-STANDARDとか。」
「おっ。カッコいいじゃん。ハイスタ。私もパンク好きだよ。THE DAMNEDとか。アニーちゃんは?」
「私、ジュディマリ好き。YUKIちゃん超かわいいし!」
「元プレゼンスのRADYのバンドだね!あれはグラミーな由緒正しいJ-ROCKだね!」
若干のジェネレーションギャップはあるものの、話題は何とか通じ合ってる様である。
「でも、円代ちゃんみたいに楽器は出来ないよ~。去年の橙祭でバンド演奏してた先輩が居たけど、カッコよかったもんな~。ウチ等には到底不可能な芸当だよ。」
「私のドラムだって同じ様なもんだよ。もう全然叩けないから、エアドラムなら自身あるけど。あははは。」
「は?えあどらむ?なにそれ?洗濯機みたい。」
「よく『エアギター』とか言うじゃん。そのドラム版。楽器は持って無くても、BGMに合わせてさも叩いてる様に見せかけるパフォーマンス。世界大会とかあるんだぜ~。」
「へ~。そうなんだ。それってエアパート全部あるの?」
「は?」
円代は目を丸くした。
「だーかーらー。エアバンドってあるの?さも演奏してるかのような楽器持ってないバンド。」
「なにそれ…。聞いた事無いよ。そんなの。まさか里美…。」
「それだよ!やろうよ!エアバンド!楽器持って無いし、買えないし、弾けもしないんだから丁度いいじゃん!」
里美の発想にアニーも円代も開いた口が塞がらなかった。
その夜、早速交換したメルアドを通じ、円代の携帯に里美からメールが送信された。
「コレヨリ エアバンド ケッセイ ゴクヒ カイギ ヲ オコナウ アス ガクショク シュウゴウ ナオ コノ メール ハ ショウキョ セヨ グッドラック」
またまたへナ教官里美からのミッションメールだったが、アニー、鎌田、円代の三人は命令を無視し、メールを消去しようとはせず、眠れない程の興奮を抱えつつ、ミッションの朝を迎えたのであった。




