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翌日、私は聖水宮と呼ばれる尊き方の居城に呼ばれていた。

聖帝国に広がる龍脈の中心地点。

竜人の中の一握りの上位竜人のさらに厳選された者が仕えることを許された聖帝国の真の心臓。

私よりはるかに格の高い竜人に案内されて、たくさんの書物が貯蔵されている部屋に通される。

そこには尊き方の一部である前国王、クライセイジ様が待ち構えていた。


「一角のアルテミシア。参上しました。」

「よく来てくれましたね。」


陛下よりもやや高い、腰ほどまでに伸ばされた真っ赤な髪とオレンジのインナーカラーが特徴的な美しい人。

尊き方の分霊であり眷族という特殊な人で、国王を引退した今でも皇帝陛下の補佐や代理を行うことがあると聞く。

別人なのに同一人物という不思議な感覚にはまだ違和感があるが、卵で言う黄身と白身という関係らしい。


「いつもハーバルトからよく聞いています。いい弟子を取れたと喜んでいましたから。」


めちゃくちゃ偉い人の前で2人きりにされて口の中が緊張でカラッカラになった。

皇帝陛下も十分偉い人だが、皇帝陛下は人当たりのいい顔が得意で外交を顔でやっている人だ。

尊き方の伴侶に選ばれるだけあってイケメン。ただ、目の前のクライセイジ様は別だ。

古龍でもあるクライセイジ様は生物としての格が違う。

巨大な御神木や仏像、霊峰や圧巻する絵画を目の前にしたような静寂で清らかな威圧感を感じる。

すごいよ皇帝陛下。こんな存在感のある人の夫をしてるなんて。やっぱ皇帝陛下って変態なんだなぁ。


私が見た出来事をそのまま話すと悲しそうな顔をしてから優しい顔で微笑まれる。

微笑まれているだけだが、どこか恐ろしく感じて目も逸らすことができずに背中が発汗してなんだか寒くなってきた。


「そうでしたか。ヒオウギにはちゃんと報告するようにと言っているんですが、そんな事が。」

「初めてではない様子でした。」

「ヒオウギは伴侶探しにとこちらに来ているのですが、中々見つからない様子。……アルテミシアはどうですか?彼との婚約。」

「私ですか?」


婚約?そんな、いきなり過ぎる。

しかも私は下位竜人で相手は古龍のお孫様だよ?そんな、こんな事ありなわけ?

大体こういうのって断れないよね?

恋人も好きな人も今は居ないから受けた方がいい?いやぁでも、なんか美味しすぎる話には裏があるって聞いたことある。

……と言っても裏があったとして勝てっこないんだけどさぁ!

いや、でも正直ヒオウギ様は私のタイプなんだよね。イケメンだったし。うーん、でも婚約って事は結婚するんだよね?こんな簡単に決まるのはなんかとっても転生小説みたい!ちょっと面白いかも。


「考えておいてくれる?」

「あの!ヒオウギ様がよければお受けしたいです。」

「それはよかった。2代続けてこちらが結婚相手を指定させてもらっていて、本当にありがたいことです。確かザールでは大水車の建て替え計画がありましたよね?魔石の申請を見た気がします。」

「はい。魔石に関する申請書を提出しています。」


そんなことにも目を向けているんだ。すごいなぁ。


大水車はザール領の生命線の一つで、水を高い位置にある貯水タンクに貯める役割がある。

動力源に魔力を使用していて、割と大きめ魔石をなのだがそろそろ交換しなければいけなかった。

それに伴い、細々とした修理で補っていた故障箇所を全て見直すことになり、新しく作り替えたほうが良いという判断で建て替え中だ。

ただ、大水車を動かすレベルの魔石は公爵家でも気軽に買える代物ではない。

国に申請して許可がおりなければ購入することすら不可能だ。

が、そういった申請は多く普通なら最短で1ヶ月ほどかかる。

ザール領は領主夫人が竜人であり、定期報告など必要書類等や情報が揃っているた

め半月程の早さで審査が終わる予定だ。

もしかして、婚約の見返りに申請を優先させて終わらせてくれるとか?


クライセイジ様はファイルをペラペラめくって紙束を取り出した。

期待通り、さっと目を通して書類にサインをしているようだ。

その姿を眺めているうちに、いつの間にか私を案内した上位竜人とは別の上位竜人が現れて書類を受け取る。

 

「あの、今のは?」

「魔石に関する審査の書類です。貴方の御母様が定期的に領内のことを報告してくれていますから審査は大丈夫でした。今回の提案を受け入れてくれたお礼という形で角をザールに送ります。」

「角っ!それって……」

「ちょうどいい大きさのがありますからね。砕いたものですが、大水車ですからあまり大きすぎるとよくないですし。」


砕く、角と聞いて真っ先に思い浮かぶのが尊き方の角だ。

尊き方の角は鉱石に近い材質で、魔石として最高品質を叩き出している。

竜人の角は魔石として運用できるが、その中でも鉱石のような魔力が結晶化して作られる角は竜人の中でも極々少数。

その中でも古龍である尊き方の角は1センチ格の欠片でさえ魔力回復ポーション10本分に相当する。

しかも魔力貯蔵媒体としても優秀で、空になっても自分の魔力を貯めることができるため魔術師は喉から手どころか体が飛び出るほど欲しがっているという噂もある。

古龍の角はそれだけではなく、契約を行える。

契約者以外が扱えないセキュリティーを組み込む事ができる為、ものすごく便利でその分高価だ。

それにとても綺麗な赤色をしている。

なぜ知っているのかというと、皇帝陛下がつけている耳の装飾に使われているから。

……伴侶の体の一部を装飾としてつけてるってちょっとどうなんだろう?

まぁ、それは置いておいてこれはとんでもないことだ。


「そんな、いいんですか?」

「いいですよ。あ、あまり大きな声で広めないでおいてください。ハーバルトが駄々を捏ねてうるさくなるので。1年に1回生え変わるものを後生大事に、集めるだけ集めて使わないのはもったいないですし。」

「なんか、聞いたことあります。」


尊き方の角が生え変わる頃はべったりくっついて抜けたと同時に受け止めて宝物庫にしまっている。だとか、一時期爪すら陛下が切って集めていて、切った爪の魔力保有能力が不安定なため陛下の自室で爆発してしまっただとか。

竜人外に漏らしたらいけない話をたくさん他の竜人から教えてもらっている。

天は陛下に二物を与えた変わりに、とんでもない愛を与えたのだと思う。


「竜人の中で出回ってるハーバルトの話のほとんどが事実ですからね。顔が良くなかったら今頃こんなことになってませんでした。貴方の中でヒオウギがないなと思ったら気兼ねなく教えてくださいね。」


そんな事を教えられて、クライセイジ様の頭をみてしまう。

竜人のほとんどに角が生えているが、クライセイジ様は人間みたいに角もなければ翼も尾もない。

上位種は自在に出し入れできる謎仕様を持っているらしいが、クライセイジ様に関して一度も見たことがないことに今気がついた。


「どうしました?」

「あの、今の話で気になったんですけど、陛下やクライセイジ様は角や翼や尾がないですよね?」

「あぁ、ハーバルトは元人間のためですよ。俺は全部ありますけど仕事柄出してないです。ハーバルトがウザ、うるさいので。」


ウザいって言いかけたね。この人。

クライセイジ様は尊き方の一部の筈で、尊き方と陛下は夫婦で仲がいいらしいけど、クライセイジ様と陛下の仲は良くないのかな?

まぁ、愛し合ってる同士でも嫌な部分はあるだろうし、それがたまたまクライセイジ様が感じてるだけとか?


「……あまり長話をすると嗅ぎつけられそうなので戻ってください。くれぐれも角のことは小さな声でしゃべるように。」

「喋るのは許してくださるんですね。」

「秘密にすると拗ねちゃいますから。」


しー。と唇に人さし指を当てて、キョロキョロと周りを見ているクライセイジ様に急かされて聖水宮から出るとばったり噂の人物、陛下に出会った。


「陛下!」

「アルテミシアか。聞いたぞ?ヒオウギと婚約したって。」

「早いですね。でもまだ決定していませんよ?ヒオウギ様からの了承がまだなんで。」

「そうなのか?てっきり決まったものかと。」

「……陛下はなぜここに?この時間帯はいつも書類仕事をなさっていましたよね?」


ちょうどいいタイミング過ぎてちょっと怖い。

まさかさっきの会話を察してクライセイジ様に詰め寄りに来たとか?


「アルテミシア、俺ぐらいになると1日の仕事量を自分の裁量で決められる。権力とはそういうものだ。」

「そうなんですね。」

「それに、なぜか1件順番を飛ばして処理された物があるから、クライセイジの顔を見るついでに聞くだけだ。」

「大水車のですよね?ザール領(うち)のところの。」

「そうだな。言わなくていいぞ?会う口実が無くなる。」

「あ、そうですか。」


上機嫌の陛下はそのまま聖水宮に入っていったので、二人がどんな態度でどんな話をするのかきになったが、さすがに直属とはいえ私は下位竜人だから諦めた。

今日は休暇をもらっているため、新生活に足りない物を探しに城下町に降りることにした。

巨人族はあまり宝飾品をつけることはしないため、王都に並ぶ宝飾品の数々のバリエーションに感激してしまった。

ゴツい装飾品しかなかったザール領に比べて繊細な加工が施された装飾品が多く並んでいた。

ドワーフやエルフ、獣竜人と呼ばれる人類に分類される竜など人類が少ないながら混じっている光景に驚いてしまう。

聖帝国の中でも中心となる帝都とその周辺地域は竜人と人間がほとんどだ。

ドワーフや亜人たち人類とエルフは過去平定した地域や属国として傘下に加えた者たちが出稼ぎや弟子入りなどでこちらに渡ってきた者たちなのだと言う。

他種族国家というより竜人の支配する国に他種族がちらほら住んでいる状態で、各種族ごとに食べられない物、利用できないサービスがある。

食のベースが日本なため、とにかく食のレパートリーが多いのはいいがその分一定の種族は提供不可能なものや制限が設けられている物がおおく、王都で飲食店を出すのはかなり難しい。

竜人は人間より食べられるものが多いため制限はないが、友人と食べに行く際は慎重に店を選ばなければならない。

王都はとにかく厳しく審査せれていて、アレルギー表記は必須。

風景は西洋ファンタジー風なのに食だけ日本じみてるのは世界の謎として探求することを竜人達は禁じられている。

が、尊い方かその周辺に日本人がいたのだと思う。

だって尊い方や上位層の名前が日本風なんだもん。


だからか王都は飲食店よりも雑貨屋や衣類用品店の競争が激化してる。

ラーメン激戦区並みに新しくできる店と畳む店が鎬を削っている。

週替りで店が変わる貸店舗の店やワゴン販売の店がとにかく多い。

一目惚れしたら購入しないと翌日や来週には店ごとなくなってしまうほど早変わりする。

幸い最近お気に入りの雑貨屋は軌道に乗って安定しているため、突然移転したり閉店だなんてことは早々にないから助かっていた。

今までは月に一度しか来ることができなかったけど、こっちに引っ越してきたから気軽に来ることができる。


「アルテミシア?」

「ヒオウギ様!」


お気に入りの雑貨屋で名前を呼ばれたかと思ったらヒオウギ様たった。

顔がいい。

赤珊瑚のような角が素敵なヒオウギ様は嬉しそうに私に手を振ってくるのでうっかり惚れてしまいそうになった。


「様付けなんていいのに。」

「いえ、そう呼ばせてください。ヒオウギ様は偉大な竜王陛下のお孫様ですもん。」

「劣性の子だけどね。」

「そんなの関係ないです。」

「ふーん。」


この人ともしかしたら結婚するかもしれないと思うと、どうしてもニヤけてしまう。

なぜか一緒に店を回ることになり、欲しかったものを確保できたので、ヒオウギ様を振り向くと籠を奪われてそのままレジで会計してしまった。


「何してるんですか。」

「昨日のお礼ってことで。」

「そんな事なさらなくても。当然のことをしたまでですので。」

「そ?じゃあ引っ越し祝いってことで。」

「ぅん、ありがとうございます。」

「で、次はどこ行くの?ランチの予定はある?」

「え?」


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