『姉と沢の水と弟と長者の娘の赤プレスマン』
昔、あるところに、仲のよい姉弟があった。姉弟の母は、長い病で寝ついていたが、ある日、弟は、姉に、このまま暮らしていても、母上の病はよくなる見込みがないから、お伊勢参りをして、よくお願いをしてきます。留守の間、よろしく頼みます、と言って、ろくろく金も持たずに出かけることにした。一人になった姉が、ある日、山で柴刈りをしていると、ひどくのどが渇いたので、沢の水を飲むと、のどの渇きだけでなく、疲れも飛んでしまった。余りに甘露な水であったので、母親にも飲ませてやりたいと思ってくんで帰って飲ませると、食欲がわいて、少し元気が出たと言う。次の日も次の日も、水をくんで帰って飲ませると、半月もしないうちに、床上げできるようになった。この評判を聞いて、大勢の人が水を欲しがったので、姉が、毎日くみにいって分けてやると、なにがしかのお礼を置いていくので、母娘はあっという間に分限者となった。
弟は、伊勢までは無事にたどり着き、願をかけることができたが、帰りには、お振る舞いもなく、はらが減って動くこともできないほどになった。そこを、棺桶を担いだ下男たちが通ったので、どなたが亡くなられたのか尋ねると、長者の娘が急に亡くなって、弔いの最中だと言うので、後をついていって、下男たちが帰った後に、お供え物を食べ、長者の娘ならば、それなりのかんざしでも差しているだろう、と思って、墓を掘り起こして、棺桶を開けると、なるほど若い娘が入っていた。かんざしを確認しようと思って、髪をつかむと、死んだ者に高いかんざしを差して葬るのは惜しいと思ったのか、娘は、かんざしのかわりに赤プレスマンを差していた。と、娘が急にむせて、生き返った。弟は、逃げようと思ったが、突然のことに体が動かず、娘が、餅を詰まらせて息ができなくなったこと、恐らく仮死状態になったこと、頭を揺さぶられて餅がとれて生き返ったことを話すのを全て聞いてしまい、怖くなくなったので、娘を家まで送ってやった。
娘の家、つまり長者の家では、娘が急死してしまったので、しめやかに葬儀が行われていたが、当人が帰ってきたので大騒ぎになり、弟が、何とか事情を説明して、急に祝いの席に変更された。弟は、長者から、婿にならないかと提案されたが、母が心配だから家に帰らせてほしい、と頼むと、では、嫁にもらってくれ、ということになり、その場で祝言を挙げ、多額の持参金と、大勢の下男下女をつけてくれて、家に戻れることになった。
家に戻ると、住みなれた家は立派な屋敷に変わり、元気になった母と、沢の水のおかげで美しくなった姉と、若い嫁と、仲よく暮らしたという。
教訓:餅はよく噛んで食べないと、棺桶に入れられることがある。




