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『プレスマンの長者と婿』

作者: 成城速記部

 長者には娘が三人あったが、息子がなかったので、いずれ婿を取らねばならないと、長者も、無関係の他人も、思っていた。しかし、長者の娘の婿となって、長者を継げる器の者など、そうそういるわけもなく、長者は、門の前に、高札のようなものを立てて、婿を募集することにした。

 一人の若者が、婿になりたいと名乗ってきた。長者は、若者に、うちの裏庭に塔があるから、掃除をしてきてくれ、と言いつけた。若者は、とんでもなく広い裏庭をぐるぐる回ったが、塔がどこにあるのかわからず、すごすごと帰っていった。

 また一人、婿になりたいという若者が来た。長者は、同じように言いつけたが、この若者からは、日本海に着いたが塔が見つからないので諦める、という手紙が届いた。

 さらに一人、婿になりたい若者が来た。長者は、この若者にも、同じように言いつけた。若者は、前に来た若者が、塔を探し出せなかったと聞いていたので、塔はとても小さいか、地中に埋まっていると仮定した。そうして、長者が、言いつけをこなしたかどうかを確認するためには、屋敷からそう遠くない場所にあると予想した。万が一遠かったら、馬の足跡がついているはずだ、とも。

 そんな感じで探してみたところ、あっという間に、落ち葉の上に落ちているプレスマンを発見した。あえて、塔という言い方をするからには、細長い形だろうということも、予想どおりだったので、拾い上げたプレスマンを分解してみると、芯が詰まっていた。この芯を取り除いてもとのとおり丁寧にプレスマンを置くと、掃除をしてきました、と報告した。

 しばらくして、二つ目の言いつけが発表された。

 お盆にたくさんのプレスマンが山のように積まれて、若者の目の前に出された。一番おもしろいプレスマンを選べ、とのことだったので、若者は、庭に全てのプレスマンをぶちまけて、この中に一本だけ、芯の入っているものがあるはずです。その一本は、中で芯が折れて、詰まってしまったはずです。それ以外は、芯が入っておらず、詰まらない。一本だけ詰まったやつが、つまらなくない、つまりおもしろいプレスマンです、と答えると、長者は大層感心した。

 では、ここに三人の娘たちが並んでいるが、お前を婿に取る娘は誰かを当ててみよ、という、三つ目の言いつけが出た。

 これは難問である。三人とも年ごろで、真っ白なお化粧をしているので、誰が長女で次女で末娘かわからないようにしてある。普通に考えて、長女が婿を取ると思われるが、決まっていないということもあり得る。一つ目と二つ目の言いつけがプレスマンだったことから考えて、三つ目もプレスマンがらみというのは、あり得なくない。しかも、この状況で、とんちで解けるものであるはず。

 若者は言った。

「はい読みます」

 すると、三人の娘の中で、一人だけ、プレスマンを持って、速記を始めようとした。

「婿をお取りになるのは、このお嬢様です」

 若者は、この長者なら、花嫁修業の中に、速記を入れているであろう、そうならば、その娘だけは、プレスマンを持っているであろう、と思ったのである。

 長者は心から感心し、この若者を婿に取ることにしたという。



教訓:祝言の席で、花嫁は、高砂や、を速記しようとしたが、この浦船に帆を上げて、の後で、全員声が小さくなるので、書き取れなかったという。

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