『ねえ、私、ずっと好きだったんだよ』
隣にいるだけで、嬉しかったんだ。
ただそれだけで、胸がぎゅっとして、苦しくなるくらい。
あなたが笑ってくれると、世界が少しだけ優しくなった気がして。
名前を呼ばれるたびに、涙が出そうになって。
嬉しいはずなのに、どうしてだろうね。
声が震えて、返事をするのもやっとだった。
気持ちを伝えたら、全部壊れてしまう気がした。
この関係も、いつもの日常も、
あなたの笑顔までも、きっと遠くへ行ってしまう。
だから私は、ずっと――黙ってた。
それでも、幸せだった。
歩く速さが合ってるだけで、
帰り道が一緒なだけで、
それだけで、今日も頑張ってよかったって思えた。
けどね。
あのとき、ほんの少し。
あと一歩だけ、勇気を出して踏み出せていたら……
もしかしたら、見える景色は違っていたのかもしれない。
あなたの隣じゃなくて、あなたの手を、ちゃんと握れていたかもしれない。
そう思うたびに、胸の奥がちくりとする。
あの頃の私に、背中を押してあげたくてたまらなくなる。
でもね、それを「後悔」って呼ぶのは、ちょっと違う気がするの。
だって、あの時間は確かに幸せだったから。
言葉にできなかった想いも、すべてを抱きしめるように、
今の私を、そっと支えてくれてる。
あの日々はね、今でも、私の宝物なんだ。
手放すことも、忘れることもできないけど、
それでも私は、前を向いて生きていける気がする。
あなたがいた景色は、もう過去になったけど、
それでも、今の私のなかで、
ずっと綺麗なままで、ここにあるから。
きっとこれは、後悔なんかじゃない。
ちゃんと好きだった証だと思う。
そう思えるようになったのは、
あなたと出会えたからなんだよ。
――ありがとう。




