檻の内側から
朝が来るよりも早く、俺は目を覚ます。
そして起きてすぐ、俺は絶叫に近い声を出す。
目覚めとは常に暴力だ。
精神の奥底で眠っていた獣が、肉の牢獄から暴れ出す。そんな感覚だ。
意識が浮き上がる前に喉が震え、喉が震えるより先に、心臓が跳ねる。
いや、心臓ではない、何かが脈打つのだ。左右ではなく、胸の中心で――羽ばたくように。
今日もそれは変わらない。
いや、日に日に酷くなっている気さえする。
もはや、昨日の記憶さえ無いに等しい。
壁が狭い。
空間が圧迫されている。外に出たい。外はどこにあるのか。
窓は高すぎる。だが、天井は恐ろしく近い。
そして、俺の視界は低い。全てが高い。机、椅子、扉の取っ手さえ。
だがもし、低かったとしても使えないだろう。
俺には、指がない。物心つく前に全て落とされたのか。それとも元々ないのか。
俺には、記憶が一切ない。穴の空いたバケツのように。
そんなことを考えている時、誰かがやってきて何かを置いていった。
俺の目の前に出されたのは、黒ずんだ銀色の器に盛られた粒々の何かだ。
吐き気を催すほど単調な色彩。形も味も記憶にないのに、俺の身体はそれを欲する。俺は人目も気にせず、犬食いをする。
喉の奥で、異様な快感とともに滑り落ちる。
人間の食事とは、到底思えないような。そんなものを毎日食べているような気がする。
だが、俺はそれをやめられない。
この世界には、他にも何人か人間がいる。
彼らは俺を覗き込んで、嘲笑している。
「ーーーーーー」
「ーーーーー」
「ー、ーーーーー」
どこの言語を喋っているのかわからない。
それでも、俺は返事をしようとする。
だが、喉から出るのは、不快な音だ。
我ながら耳障りな、甲高い、裂けるような、意味を持たぬ鳴き声。
人語を忘れたわけではないのに、うまく喋れない。
喋るという行為が、まるで生まれてこのかた未経験であるかのように、俺の身体は沈黙する。
その夜、夢を見た。
果てしない青黒い空間に浮かぶ、渦を巻く眼球のような存在。
それは俺に「呼び声」を教えた。
言葉ではない、声帯ではない、もっと原始的な、爪と羽と闇で紡がれた詠唱。
目覚めたとき、俺の下にあったのは。
柔らかく、あたたかく、微かにひび割れた殻。俺の宝物。
それを彼らはとっていく。
俺はこの不条理な世界にまた叫ぶ。
明日も、明後日も、朝が来る限り。
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