練習開始!!
まずは、J.ユボー作曲 【ソナタ】より第一楽章。
この曲は所々に出てくる低音と高音に注意しないといけない。16分音符でも複雑なリズムをする部分もあるし、簡単ではない…
とりあえず、楽譜を見てリズムをしっかり理解しよう。
楽譜を何度見ても早く演奏したいと思える曲。
リズムも理解したことだし、練習していこう。
「♩♩〜♫〜♬♬♩〜♫♩〜」
やっぱり、16分音符の音程は不安定。
ここからは一番大変な音符の分解作業。
音符を一つずつ分けて音程を合わせる。
正直、本番になれば音程が狂うかもしれない。
それでも、練習のときに音程をしっかり何度も合わせていけば、本番ではマシになることの方が多い。
まあ、自分の実力と努力次第だけど…
よし、やっていくぞ〜!!
「♩〜♩〜♩〜♩〜♩〜♩〜」
一音一音丁寧に正確に…
「♩〜♩〜♩〜♩〜♩〜♩〜」
音程だけじゃなく音色も気にして…
「♩〜♩〜♩〜♩〜♩〜♩〜」
アタックミスもなくして…
「♩〜♩〜♩〜♩〜♩〜♩〜」
音の粒もはっきりと…
「♩〜♩〜♩〜♩〜♩〜♩〜」
よし…音程は合った。
一度、元のテンポよりも落として楽譜通りに練習する。
「♩♩〜♫〜♬♬♩〜♫♩〜」
気になる小節があれば一度止めてその小節を練習する。完璧に出来ればもう一度最初から。もちろん、一音アタックミスをすればひたすら出来るまでその一音だけを吹き続ける。これも完璧に出来たらもう一度最初からやり直し。それを何度も何度も繰り返す。
正直大変だけど、確実に人前で演奏するなら過酷な練習をするのは仕方ないこと。耐えて耐えて練習する。
なんとか、このソナタは完璧に出来るようになった。
休むことなく次の曲を練習しよう。
そう思っていたときにソフィアから、
「シャーロット様〜!もう昼食のお時間ですよ!一度昼食にしましょう!!」
もうそんな時間だったの…?ちょっと時間が掛かりすぎてる…確かに、久しぶりに吹いたから余計なのかもしれないけど…今日は音程よりも音色とかアタックとかが悪いわね…
まあとりあえず、お腹が空いたから早く食べよう…
「んーー!美味しい!!やっぱり、ソフィアの作る料理は美味しいわね!」
「へへっ!ありがとうございます!!」
「本当…美味いなぁ…」
「ふふっ!そうでしょそうでしょ!!シャーロット様の好きな味はよく知ってますから!」
「まあ、割りと子ども舌だからな。」
「ちょっと!それどういう意味よ…成長してないってことかしら。」
「あ……」
なんとも言えない顔をしてるリュースト。
ほんと…
「幼馴染だからってなんでも言っていいと思うな〜!!」
「申し訳ありません。シャーロット様。」
そう言うリューストを見て私とソフィアは顔を見合わせて笑い合って、それを見たリューストもつられて笑っていた。私たちが笑い合って食事をしているときに何人か人が通っていたけど、みんな不思議そうな顔をしたり、驚いたような顔をしていた。その理由は、私が笑っているからなのか、はたまた悪女と呼ばれる私の隣に人がいるからなのか、それともどちらかそれ以外か。そんなのは分からない。ただ、分かるのはお父様たちが仕立て上げた悪女の印象は相当みんなに浸透していて信じてるってこと。少しずつでいい。なんなら印象が変わらなくても構わない。ただ、こうやって笑い合う平和な日常が続けばいいと思う。
食後にフルーツをと思ってリューストが持ってきたフルーツをみんなで食べているとき、こちらにやって来る人がいた。
「シャーロット。久しぶりだね?」
「!?クリス第一王子殿下…お久しぶりです。」
私たちの前にやって来たクリス様はソフィアとリューストに「ここいいかな?」と言って私の隣へ座った。
「シャーロット。元気にしてたか?」
「はい。クリス第一王子殿下はお元気でしたか?」
「ああ、元気だったよ。」
少しぎこちない…
何か会話を続けないとと思ってても何を話せばいいのか分からなくて言葉が何も出てこない…
そんな時にクリス様が口を開いた。
「ところでシャーロット。君はいつになったら俺を第一王子殿下という呼び方以外で呼んでくれるんだ…?」
「へ?」
どういうこと?普通じゃない…?
「もちろん、場所によってはそう呼ぶべきかもだけど、こうやって会えたときぐらいは、その…」
「…??」
「クリスと呼んでくれないか…?」
「…でも、それは失礼なのでは…」
心の中ではクリス様と言っていても、私とクリス様は住む世界が違う。いくら公爵家の娘とはいえ、王族の家に産まれた彼とは全然違う。そうやって考えていると、
「嫌か…名前で呼ぶのは…」
そう言って少し不安そうな顔をするクリス様。
「いえ…嫌なのではなく、失礼なのではと…」
「俺がいいと言ってるんだ。俺がそう呼んでほしいと…一度でもいい…呼んでみてくれないか…?」
クリス様の目に見つめられるとどうしても断れないというか、やっぱり引き込まれる。私は意を決して、
「クリス様……」
そう呼ぶと、少し照れて優しく微笑むクリス様。
(またこの表情…)
お茶会でこの表情を初めてみたときもそうだった。
胸が高鳴って、頭の中から離れない表情。
今回も同じ。この表情を見たら胸が高鳴って、私は目を逸らしてしまった。だけど、クリス様は私に、
「逸らすな…」
そう言ってクリス様は視線を逸らした私の頬に手を添えてゆっくりと自分の方を向かせた。さっきの表情とは違って普段からよく知っている氷のような表情。でも、私には分かる。クリス様の表情は真剣な表情だって…何に関しても一生懸命なクリス様だからこその表情だって分かる。だけど、恥ずかしくて目を逸らしたいのに、それが出来ないほど吸い込まれていく。
ソフィアやリューストに助けを求める視線は送れないからなんとかしないと……
「…クリス様…あの…ここは外なので…ちょっと…それに、これから明日のための練習を再開しなければ…」
「あ…すまない…つい…その…」
やっと離れた…さっきまでクリス様が触れていた頬が熱い…そして、照れた表情で何か言いたそうで言わないクリス様。
「どうかしましたか…?」
聞いても「何でもないんだ。」と言って隠すクリス様。正直、心の中で思ってることとかも秘密の中に入るから魔法を使えば簡単に分かるけど、さすがに相手が相手だからできなかった。
「それでは、クリス様。私は練習に戻らせていただきます。」
すると驚いたように、
「今、またクリス様と呼んでくれたのか…?」
正直、最初は呼ぶつもりはなかった。だって呼んでしまうと後々大事なときにもそう呼んでしまいそうだから。でも、クリス様に呼んでくれと言われれば断るのはよくないとも思った。どちらの方がいいか悩んだけど、これからのことも考えると呼ぶべきだと思って呼んだけど、まさか驚かれるとは…
「クリス様が仰ったのですよ…そう呼んでくれと…」
そう言えばクリス様は、
「シャーロット。本当に君はどこまで俺を夢中にさせるんだ…」
「……えっと…⁄ ⁄」
どうしようもないぐらい鼓動が早くなる。
夢中……クリス様が……私に夢中…
動揺が隠さない私。これから練習っていうのに…
するとクリス様は私に練習を見ていてもいいか聞いてきた。時間は大丈夫なのか聞けば、今日は何もないから大丈夫と言っていた。
クリス様がいるから変な感じ…
さっきから変に意識してるし…鼓動も早いまま。
このままじゃ私、この先持たない気がする…
しっかりしないと…
私は練習を再開した。
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だけど、私は知らなかった。
クリス様と私が会話しているところを一部始終見ている人がいることに…




