ついに本番
出発時間ギリギリまで練習をし、満足出来るほどの演奏にはなった。練習した通りの演奏が出来れば完璧だろうなぁ…
馬車に乗り、向かうはアーシェント家のお屋敷。
ラスタ国王陛下はシュタルツィア王国の国民からも評価は高く、どれほど貧しくても必ず手を差し出し支援をしているらしい。それと同時に、部下からの信頼もあり、まるで国の上に立つ人格者そのもの。そういうところはクリス様とは似ていない…
まあ、ラスタ国王陛下に似ているのは、第二王子殿下であるルーシェ様だろう。ルーシェ様の性格はラスタ国王陛下によく似ている。誰に対しても優しく、とても気遣い出来る紳士のような方らしい。もちろん、ルーシェもゲームには出ていた。ただこのキャラはなんというか…闇が深いキャラだった…この世界でも多分そうなんだろう…でも運命を変えればそれも変わってくるのか?いや、過去は変えられないから無理だね…
でも、私が攻略しないといけないのはクリス第一王子。
なんとしてでも、今日成功させてみせる。
◇
お屋敷についたとこで馬車を降り、クリス第一王子との約束があると門番に伝えた。その確認が終え、屋敷の中を案内してもらい、クリス第一王子の待つ部屋へ向かった。
でも、そこにはなぜか、クリスだけでなく、アーシェント家が皆勢揃いしている……
(……はあ?何、どういうこと?聞いてないんですけど。何?全員いるって何?もしかして、アーシェント家全員の目の前で演奏しないといけないの…?無理無理無理無理無理!!!)
目の前の状況に戸惑いが隠さない私。
そんな私に近づいてきたクリス第一王子。
クリス様は私に
「シャーロット、君の演奏を楽しみにしていたんだ。父上や母上、弟たちに君のことを話すと是非聞きたいと言っていて、連れてきてしまったが、ダメだったか…?」
そう言うクリス様の顔は申し訳なさそうな顔をしていて私はこの人はこんな顔も出来るんだと思った。
確かに、勢揃いしているのは驚いたけど、断るわけにもいかない。それにここで認めてもらえれば、運命を変える道に一歩近づく。緊張するけどやるしかない。
私の未来のために…
「いえ、大丈夫です。良い演奏をお届けいたします。」
そう言うと少し微笑んだクリス第一王子。
そんなことよりも、私は心臓が飛び出そう…
鼓動が早くなっていることがよく分かる。
この場の圧迫感。
この場を楽しめたら、良い演奏が出来るはず。
だけど、緊張が止まらない…
焦りも出て、頭の中はパニック状態。
…上手くやらないと…でも、どうしたら…練習通り…練習通り…無理かも…
そんなふうに考えている内に演奏開始時刻になってしまった。
まだ整理ができていない私。一体どうすれば…
そう考えていると、ソフィアとリューストから声をかけられた。
「シャーロット様、私はシャーロット様の伸びやかな音が大好きです!シャーロット様らしく、演奏してください!私たちがついていますから!!」
「そうですよ、シャーロット様。私たちがついております。シャーロット様、あなたの演奏は人を幸せにし、人を変える力を持っていると私は信じております。シャーロット様にしかできない演奏をしてください。それと、ここはセリフィアガーデンだと思ってみてください。ここにいるのは私たち三人だけ。そう思えば気持ちが楽になると思います。失敗を恐れないでください。」
二人がこう言ってくれてるんだ。
私は自分の実力を信じるしかない。
そして、この二人が言った通り、私らしく、私にしか出来ない演奏をしよう。
そしてついに演奏が始まる。
一曲目の紹介をした。
「一曲目はA.アルチュニアン作曲【Trumpet Concerto (トランペット協奏曲)】です。」
「♩〜♬♪♩〜♪♩〜♫♫♩」
演奏が始めると静まる現場。
とてつもなく走る緊張。
でも、どこか楽しめてる自分がいる。
音の伸びも、音程も、音色も満足な演奏。
「♩〜♫ ♩〜♬♬〜♩♩〜」
「♬♩〜♩〜♬♩〜♫♩♩〜」
「♩♩〜♩〜♬♬♩〜♫♫♩〜」
一曲目が終わると鳴り響く拍手。
上手く出来た。なんなら練習よりも良かった気がする。でもあと二曲残ってる。気を抜かずやろう…
「ありがとうございます。続いての曲は、ニニ・ロッソ作曲【Il silenzio (夜空のトランペット)】です。」
「♩♩〜♫〜♬♬♩〜♫♩〜」
この静けさによく似合うこの曲。
流れるように流れるように。そう考えながら演奏をする。焦らずゆっくり、テンポも焦らず、走らないように。
「♩♩〜♫〜♬♬♩〜♫♩〜」
この曲の音程は練習の頃からよく合っていた。
そのおかげで、音程は完璧。伸び伸びと演奏もできてる。席の方を見ると私の方を見つめるクリス第一王子。私と目が合い微笑んでくる。その表情を見て心が熱くなった。
「♩〜♩〜♫♩〜♩♩〜♩〜♬♫♩〜♩〜」
二曲目無事終了。
安心するのはまだ早い…最後の曲が一番の問題なのだから。
ラスト三曲目。練習で沢山ミスはした。
でも、今の私ならできる。
このまま私らしい演奏を…
「最後の曲はJ.B.アーバン作曲【Fantaisie Brillante (華麗なる幻想曲)】です。」
「♬♩〜♩〜♬♩〜♫♩♩〜」
始まった…この緊張感、たまらない…
あれ?私、もしかしてこの状況楽しめてるの…?
この緊張感が楽しいと思ってる…
音の伸びも最高…音程も、音色も過去一。
不安だった16分音符の連符も問題なし。
最高…楽しい…やっぱり、音楽って最高だ…
「♩〜♫ ♩〜♬♬〜♩♩〜」
「♩〜♬♪♩〜♪♩〜♫♫♩」
ラスト、きっちり決める。音程も音色も全てここに込めて!!
「♩〜♫♩〜♫♩〜♩〜」
……終わった…
ミスなく終えた…
まだ鼓動が早い…だけど、この緊張に打ち勝てた。
プレッシャーや緊張に弱い私が…出来た…
席の方では、立ち上がって拍手をする国王陛下や王妃、クリス第一王子、そしてルーシェ第二王子。そのほかにも、アーシェント家に支える使用人たちが皆、私に拍手を送っている。
この瞬間、すごく幸せ…
ソフィアとリューストの方を見ると、
号泣するソフィアとどこか微笑んで拍手するリューストの姿。すごく嬉しい…こんなにも拍手がもらえるなんて…頑張って良かった…
その場がお開きになった後、ラスタ国王陛下とその奥様セリーヌ王妃がやって来た。
「素晴らしい演奏だった。また今度聞かせてくれ。そしていつか、国民にも聞かせてあげてくれ。」
国民を思う国王陛下の優しさ。
これが国民にも支持される証拠だ。
「はい、ありがとうございます。機会をいただけるのであれば、いつでも演奏いたします。」
そう答えるとすぐに用意しようと言う国王陛下とそれにそんなすぐには無理よとツッコむセリーヌ王妃。
そんなセリーヌ様は私の手を握り、
「素敵な演奏をありがとう…とても元気をもらえたわ…」
そう言って優しく微笑む王妃。
王妃は女神のような方と言われているが、まさにその通りで、女神という言葉が似合う方。
「ありがとうございます。」
私にもまた聞かせてねと言われ、もちろんですと答えた私。これは、また曲を探さねば…
国王陛下と王妃様が離れた後、私の元へやって来たのはクリス第一王子とルーシェ第二王子だった。
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