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第8話 旅の準備

 亜希とは少しだけ話をした。

「これから、少し旅をするから、その道中で見つけたら教えたいけれど……」

「手紙を送ってくれない?」

 手紙を送る? 亜希は旅をしているようだから、届けられるのだろうか。

「優秀な届け屋なら、旅をしている人にも手紙を届けてもらえるのよ」

 亜希はそう言った。

 簡単には信じられない話だが、本の中の世界も広いのだし、現実の世界も広いのだろう。

「それなら、亜希に手紙を送るわ」

「ありがとう。杏奈!」

 亜希は嬉しそうに笑う。

「そういえば、魔族の杏奈に似ているって言っていたけれど、どこら辺が似ているの?」

「うーん。左目の下の黒子とか、髪が黒いところとか?」

 あまり似ているとは言い難い部分だった。

「目が少しツリ目なところも似ているかも」

「なるほどね。自分と少し似ている顔を探せば良いのね」

「そう! お願いね! ああ、そうだ。これ、私の持っている髪留め」

「ん?」

 赤い花とリボンがあしらわれた髪留めを受け取った。

「手紙を届けたい人の持ち物があった方が、手紙を届けやすいんだって」

「わかったわ。手がかりがあれば、教えるわね」

「ありがとう!」

 話し終えた亜希は、また人探しに行ってしまった。


「姉さん!」

 亜希と別れてから、数分だろうか聞き慣れた声を耳にして、私は声がした方を向いた。

 アキラと皐月だ。

「また、はぐれたな」

 アキラは少し声を出して笑いながら、言った。

「何回、はぐれれば気が済むんだよ」

 皐月は怒っているのだろうか、眉を吊り上げていた。

「まだ二回目ですー」

「二回も、だよ」

「杏奈。先にテントを買っておいたよ」

「ありがとう。そういえば、お金をアキラに任せきりだけど、大丈夫なの?」

「んー。大丈夫だよ。杏奈たちは家が……なくなっただろ。それに何も持たずに来てしまったしさ」

 確かに、私も皐月も何も持っていない。アキラがいなかったらと思うと、大変困ったことになっていただろう。

「後で返せるようにはするわ」

「いいよ。気にしなくても」

 アキラはさらっと言い退けて、次の店に行こうと言ってきた。

「次は武器屋だね。杏奈たちに戦えとは言わないけれど、護身用としていくつか持っていてもらいたいからね」

 そう言われて、私たちは武器屋で武器を買った。

 私は軽い短剣と弓矢、皐月も短剣と弓矢。皐月だけ、もう一つ多めに買ってもらった。杖だ。手より少し大きめで、細身の枝のような杖だった。

「魔族なんだろ?」

「そうだけど……」

 皐月は下を向いた。

「ん?」

 アキラはそれを不思議そうに見ていた。

 私は皐月が魔法を使っている所を見たことがなかった。私は勝手に皐月は魔法を使えない魔族だと思っている。

「魔法の勉強はほとんどしたことがないから」

 皐月はそう言った。

「ふーん。じゃあ、次は本屋にでも行く?」

 アキラは、皐月が魔法を使えないことについて言及することはなく、その提案をした。

「なんで?」

 私がそう聞くと、アキラは魔法の使い方の本を買えばいいと言った。

「少しでも旅をするなら、勉強した方がいいし、これから村を出て暮らすならなおさら必要だと思うよ」

 アキラは皐月の肩をぽんと叩いた。

「俺はヒュー族だから、使いたくても魔法は使え……ないことはないけれど、まあ基本は使えないからさ」

 気になる言葉があった気がするが、アキラは皐月を励ましてくれた。

「ふん。お前に言われなくても、そうするよ」

 そう言いはするが、さすがに皐月も本や武器を買ってくれるアキラには感謝しているだろう。

 その後、本屋で『初級!子どもでもわかる魔法の使い方』という本をアキラが買ってきて、バカにするなと皐月は怒っていた。でも、ありがたそうに受け取っていた。

 ある程度、旅に向けての道具を買い終えた私たちは、領主様に宿屋代を出してもらうことから、指定された宿屋に来ていた。

「なんで、俺とこいつが同じ部屋なんだよ」

 アキラと皐月が同じ部屋で、私は別室だった。

「私はいつも皐月とチィランおじさんと寝ていたから、落ち着かないかも」

「俺は気にしないけど」

 アキラは本当に気にしていなさそうに、頭の後ろで手を組んで、私と皐月を見ていた。

「宿屋での食事代も出ているみたいだし、食事をとって、早めに寝よう」

 アキラにそう言われて、私たちは宿屋に備え付けられている食堂で食事をとることにした。

 宿屋の食事は私たちがいつも食べる量よりも多かった。

 パン二切れ、野菜の入ったスープ、干した肉が食事だった。野菜入りのスープはなかなか食卓に並ぶことはなかった。

 パンも柔らかく、いつも食べるパンがとても硬いものだったことを感じた。

 味はいつも食べるものと変わらず、薄めだが、美味しく食べれた。

「この宿屋は水浴びできるみたいだけど、二人ともどうする? 旅に出るとなかなか浴びれないけれど」

「水浴び?」

 私と皐月は首を傾げた。井戸で体を拭いたり、髪を洗うことはあるけれど、水浴びはしたことがなかった。

「したことないのかい?」

「ない……」

 私は急に匂いが気になって、服の匂いを嗅いだ。

 臭くは……ないと思う。

「浴びてきなよ。今は空いてるって言ってたよ」

 アキラにそう言われて、私と皐月は順番に水浴びをした。

 水はそんなに出てこないし冷たいが、初めての水浴びはとてもスッキリするものだった。

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