第7話 商店街
「いやいや、君たちには無理ですよ。モンスターや山賊もいますし、秘宝がある洞窟には狡猾なモンスターがいる噂があります」
私は確信していた。これは、私がやらないといけないことだと。それがなぜだかは、今はわからないけれど。
「アキラは強いですし、私と皐月も狩りをしていましたから、大丈夫です」
「姉さん! 全然大丈夫じゃないし、なんでこいつも着いてくる前提なの?!」
皐月はアキラを指差した。不服そうだ。
「アキラは旅をしてきたんだもの。少しの旅くらい大丈夫よ。歩いて五日から六日程度の場所って書いてあるし」
「孫のスヴェンが大怪我をして帰ってきたんです。生半可な旅ではないですよ?」
「私は大丈夫だと思います。そういう自信があるんです」
「どこから、その自信が来るんだよ……」
皐月は呆れながら、私を睨む。
「何より、私は初めてできた友だちを助けたいです」
「……うむ。何が起きても、良いというのなら、認めましょう」
「ええ!?」
皐月は領主様の方を振り向いた。
「ありがとうございます!」
「君たちが戻るまでは埋葬も待ちます。早く帰ってこないと、いけませんからね。ダメだと思ったら、帰ってきてください」
「わかりました」
私たちは屋敷から外に出ていた。
シェリーは大分病状が悪いみたいで、会うことはできなかった。無理をしたのだろう。
「まずは旅行許可証を発行して、役場に行く所からだな」
アキラはそう言って、歩き始めた。
私と皐月がそれに着いていかないので、くるりと振り向いた。
「行かないのか?」
「自分で言っておいてなんだけど、アキラも着いてくるの?」
「杏奈が着いてきてほしそうだし、そうじゃなくても着いて行くよ」
アキラはさらっと言い退けて、私と皐月の手を掴んだ。
「触んな!」
皐月はすぐに手を弾く。私は握られた手を見つめた。結構がっしりしているな。
「まあまあ、旅に出る準備をしようぜ」
「俺はまだ認めてないからな」
先ほどの旅人ギルドで旅行許可証をすんなりともらった。マロンにシェリーのために旅に出ると言ったら、心配されたが、応援もしてくれた。街の旅人向けの良いお店を教えてもらうこともできた。
役場でもほぼ何も苦労することなく手続きを終えて、旅の準備のために商店街に来ていた。
大勢の人が行き交っている。ぶつからないように歩きながら、アキラに着いていく。
「一度しか来たことがないから、道を覚えているか、だな」
「アキラはヴァストークタウンに来たことがあるの?」
そう聞くと、アキラはこくりと頷いた。
「杏奈たちの村に行く前に、来ていたんだよ。イヴを探していたから、何日か滞在していたよ。まあ、今はイヴも見つけたし」
アキラは私に向かって、ウインクをした。
「だから、私はイヴじゃないから」
「イヴなのになー」
アキラはどうしてもそれを譲らない。イヴと間違っているから、いまだに着いてきているのかと思うと、少しだけ申し訳なかった。人違いなのにな。
「あ、ここだよ」
アキラが示した場所は、缶詰屋だった。
「缶詰とパンはたくさんあった方がいい。往復で十日から十二日は旅をするからね。途中の村で補給できるかもしれないけれど、その村では日持ちがしない栄養のあるものを補給しよう」
アキラはそう言って、缶詰屋に向かう。私と皐月もそれに着いて行く。
「肉と果物の缶詰をください」
「おおう、兄ちゃん。お目が高いねえ」
店主と会話するアキラを見ながら、私たちは黙って待っていたが。
「アキラはどこで資金を手に入れていたの?」
「ん? ああ、それはモンスター退治や、雑用だよ。旅人ギルドで依頼を斡旋してくれているからね」
「兄ちゃんは旅人か! どおりで。ランクはいくつだい?」
「銀マイナスです」
「若いのにすごいな! ガハハ!」
すごいのか。ランク付けがされているようだが、私にはそれがすごいのかはよくわからなかった。
缶詰屋での買い物を終えた私たちは、次の店に行くことにした。
「姉さん。はぐれるなよ」
「もうはぐれないわよ!」
皐月に軽口を叩かれて、ムッとむくれた。
そういうやりとりをしていたのだが……。
「はぐれた……」
私はガックリと肩を落とした。
少し他の店に気を取られている内に見失ってしまったのだ。
アキラには動かないように言われたので、少し待つことにした。
私は近くの店の壁にもたれて、アキラたちが戻って来るのを待つ。
「人が多いなあ」
「お姉さん」
私に声をかけてきたのか、私と対して歳が変わらないような少女が目の前にいた。
黒髪のボブヘアで、顔にかかるような横髪だった。少しのツリ目で、強気な印象だった。
「何かしら?」
私がそう問うと、にこりと笑った。
「猫耳族が珍しくって。嫌な感じがしたら、ごめんなさい」
「良いのよ。それだけかな?」
「それだけっていうか……。お姉さんに似た人を探していて」
私はドキリとした。もしかして、イヴとか?
「杏奈って名前なんだけど」
「え! 私も杏奈だけど」
「そうなの!? でも、猫耳族だしなあ」
少女はうむと唇に手を当てた。
「私は亜希。魔族とヒュー族の間に生まれているの。どうしても、杏奈という魔族の女性を探さないといけなくて」
「私は猫耳族だし、同じ名前の魔族に心当たりはないわね」
イヴではなかったようだ。
同じ名前の人がこの世には何人もいるだろうから、珍しい話ではないだろう。




