表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/17

第7話 商店街

「いやいや、君たちには無理ですよ。モンスターや山賊もいますし、秘宝がある洞窟には狡猾なモンスターがいる噂があります」

 私は確信していた。これは、私がやらないといけないことだと。それがなぜだかは、今はわからないけれど。

「アキラは強いですし、私と皐月も狩りをしていましたから、大丈夫です」

「姉さん! 全然大丈夫じゃないし、なんでこいつも着いてくる前提なの?!」

 皐月はアキラを指差した。不服そうだ。

「アキラは旅をしてきたんだもの。少しの旅くらい大丈夫よ。歩いて五日から六日程度の場所って書いてあるし」

「孫のスヴェンが大怪我をして帰ってきたんです。生半可な旅ではないですよ?」

「私は大丈夫だと思います。そういう自信があるんです」

「どこから、その自信が来るんだよ……」

 皐月は呆れながら、私を睨む。

「何より、私は初めてできた友だちを助けたいです」

「……うむ。何が起きても、良いというのなら、認めましょう」

「ええ!?」

 皐月は領主様の方を振り向いた。

「ありがとうございます!」

「君たちが戻るまでは埋葬も待ちます。早く帰ってこないと、いけませんからね。ダメだと思ったら、帰ってきてください」

「わかりました」


 私たちは屋敷から外に出ていた。

 シェリーは大分病状が悪いみたいで、会うことはできなかった。無理をしたのだろう。

「まずは旅行許可証を発行して、役場に行く所からだな」

 アキラはそう言って、歩き始めた。

 私と皐月がそれに着いていかないので、くるりと振り向いた。

「行かないのか?」

「自分で言っておいてなんだけど、アキラも着いてくるの?」

「杏奈が着いてきてほしそうだし、そうじゃなくても着いて行くよ」

 アキラはさらっと言い退けて、私と皐月の手を掴んだ。

「触んな!」

 皐月はすぐに手を弾く。私は握られた手を見つめた。結構がっしりしているな。

「まあまあ、旅に出る準備をしようぜ」

「俺はまだ認めてないからな」


 先ほどの旅人ギルドで旅行許可証をすんなりともらった。マロンにシェリーのために旅に出ると言ったら、心配されたが、応援もしてくれた。街の旅人向けの良いお店を教えてもらうこともできた。

 役場でもほぼ何も苦労することなく手続きを終えて、旅の準備のために商店街に来ていた。

 大勢の人が行き交っている。ぶつからないように歩きながら、アキラに着いていく。

「一度しか来たことがないから、道を覚えているか、だな」

「アキラはヴァストークタウンに来たことがあるの?」

 そう聞くと、アキラはこくりと頷いた。

「杏奈たちの村に行く前に、来ていたんだよ。イヴを探していたから、何日か滞在していたよ。まあ、今はイヴも見つけたし」

 アキラは私に向かって、ウインクをした。

「だから、私はイヴじゃないから」

「イヴなのになー」

 アキラはどうしてもそれを譲らない。イヴと間違っているから、いまだに着いてきているのかと思うと、少しだけ申し訳なかった。人違いなのにな。

「あ、ここだよ」

 アキラが示した場所は、缶詰屋だった。

「缶詰とパンはたくさんあった方がいい。往復で十日から十二日は旅をするからね。途中の村で補給できるかもしれないけれど、その村では日持ちがしない栄養のあるものを補給しよう」

 アキラはそう言って、缶詰屋に向かう。私と皐月もそれに着いて行く。

「肉と果物の缶詰をください」

「おおう、兄ちゃん。お目が高いねえ」

 店主と会話するアキラを見ながら、私たちは黙って待っていたが。

「アキラはどこで資金を手に入れていたの?」

「ん? ああ、それはモンスター退治や、雑用だよ。旅人ギルドで依頼を斡旋してくれているからね」

「兄ちゃんは旅人か! どおりで。ランクはいくつだい?」

「銀マイナスです」

「若いのにすごいな! ガハハ!」

 すごいのか。ランク付けがされているようだが、私にはそれがすごいのかはよくわからなかった。


 缶詰屋での買い物を終えた私たちは、次の店に行くことにした。

「姉さん。はぐれるなよ」

「もうはぐれないわよ!」

 皐月に軽口を叩かれて、ムッとむくれた。

 そういうやりとりをしていたのだが……。

「はぐれた……」

 私はガックリと肩を落とした。

 少し他の店に気を取られている内に見失ってしまったのだ。

 アキラには動かないように言われたので、少し待つことにした。

 私は近くの店の壁にもたれて、アキラたちが戻って来るのを待つ。

「人が多いなあ」

「お姉さん」

 私に声をかけてきたのか、私と対して歳が変わらないような少女が目の前にいた。

 黒髪のボブヘアで、顔にかかるような横髪だった。少しのツリ目で、強気な印象だった。

「何かしら?」

 私がそう問うと、にこりと笑った。

「猫耳族が珍しくって。嫌な感じがしたら、ごめんなさい」

「良いのよ。それだけかな?」

「それだけっていうか……。お姉さんに似た人を探していて」

 私はドキリとした。もしかして、イヴとか?

「杏奈って名前なんだけど」

「え! 私も杏奈だけど」

「そうなの!? でも、猫耳族だしなあ」

 少女はうむと唇に手を当てた。

「私は亜希。魔族とヒュー族の間に生まれているの。どうしても、杏奈という魔族の女性を探さないといけなくて」

「私は猫耳族だし、同じ名前の魔族に心当たりはないわね」

 イヴではなかったようだ。

 同じ名前の人がこの世には何人もいるだろうから、珍しい話ではないだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ