第5話 旅人ギルド
旅人ギルドはアキラたちからはぐれてから、十分ほどで着いたと思う。
「ここです」
「ありがとう、シェリー」
シェリーとはここでお別れだろうと思ったが、中まで着いてきてくれるそうだ。
「受付の人とは知り合いだから、話がスムーズにいくと思います」
シェリーはそう言って、中に案内してくれた。
木の扉を通ると、奥の方にカウンターが見えた。カウンターの前の両端にはテーブルと椅子が置いてあり、何人か座って、雑談をしている。カウンターの両隣には上に行く階段があった。扉の近くには観葉植物が置いてあり、扉側の壁には掲示板があった。掲示板にはいくつかの紙が貼ってあった。
「これはモンスターの討伐依頼ですよ」
私が掲示板を眺めているのを見たシェリーが説明してくれた。
「こんなにあるの?」
五枚の紙が貼ってあった。
一人、長い金髪で鎧を着ている男性が眺めていた。
「少ない方だと思う。……多分、もうなくなるけれど」
シェリーは金髪の人を見つめていた。
金髪の人は、紙を全て取って、カウンターに行く。
「全部受けることにしたよ」
金髪の人は、カウンターにいる茶色の短髪の男性に言った。
「さすが、レオさん。ずっと貼ってあって気になっていたんですよね」
「これくらい楽勝だよ。行ってくるね」
レオと呼ばれた金髪の人は、颯爽と外に出て行った。
その人が通った後は、いい匂いがした。
「行きましょう」
シェリーに言われて、カウンターに行くことにした。
「シェ、シェリー様!」
カウンターにいた男性に、シェリーはそう呼ばれた。
「また出歩いているんですか?」
「別にいいでしょう。この人の旅行許可証を発行してほしいの」
シェリーが少し説明すると、カウンターの人は私の方を見た。
「いくつか質問してもいいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
私はドキリとした。質問の答え方では、旅行許可証をもらえないかも。
「お名前は?」
「河川杏奈です」
「歳と誕生日をお願いします」
「十四歳です。誕生日は第二マギア歴四九八六年の二月二十二日です」
普通の質問だ。身構えていたが、大丈夫そうかも。
「オリエーンス村は、モンスターに壊滅させられたんですね」
「……はい」
「あなただけでも、無事で良かったです」
「あ、弟も生きているんです。後で来ると思うんですけれど」
「それは良かった」
「おいおい! オリエーンス村が燃えたってえ!?」
酒の匂いがした。私たちが話しているところに、無精髭を生やした男が横から入ってきた。
「ガハハハ。ヒュー族だけのじじばばしかいねえ村だからなあ!」
「……旅人様。今はこちらの少女と話しているので」
カウンターの人はゆっくりと男に声をかけた。
「はあ? 話に混ざっちゃいけねえのかよお?」
「酒臭い方はこのギルドに」
ドン! 音がしたと思ったら、カウンターの人はカウンターを叩いていた。その手には短剣が握られていた。短剣がカウンターに刺さっている。
男は驚き、身を引く。
ギロリと男を睨む。薄く開けられた瞳の奥は燃えているようだった。
「必要ないのでお帰りください」
その睨みを隠すように、またにこりと笑った。
「ひ、ひいい!」
男は身を翻して、慌てて外に出ていった。
「さすが、マロン」
シェリーは拍手をする。
「これだから、大人は……」
カウンターの人……マロンと呼ばれた人は私の方を見て、笑った。先ほどの睨みが全く感じられない。
「すみませんね。たまにあのような人が現れるんですよ」
「だ、大丈夫です」
「杏奈ちゃん。マロンは元は旅人なの。とっても強いのよ」
シェリーが誇らしそうに、そう言った。
「私はシェリー様に、この旅人ギルドの受付に指名されたんですよ」
シェリーには恩があるわけだ。だから、様付けで呼んでいるのだろう。
「シェリー様、そろそろお屋敷に帰られた方が……」
マロンがそういうので、シェリーの方を向いた。赤かった顔には青さが出ていた。
「大丈夫!?」
「大丈夫です。慣れているので」
「慣れているって。家まで送るよ?」
「そうですね。杏奈さんに家まで送ってもらいましょう」
「でも……」
シェリーが言い淀んでいると、ギルドの扉が開いた。
「杏奈!」
「姉さん!」
アキラと皐月がいた。息を切らしている。
「アキラ、皐月」
「はぐれるなんて、馬鹿だな。ずっと会えないかと思った」
皐月はそう言って、私に近づいた。
「杏奈。迷子になった時は、最初の地点から動かない方がいいよ」
アキラはにっこりと笑った。
「ごめん! それより、私のことを助けてくれたシェリーが具合悪そうなの」
アキラと皐月は私の隣にいるシェリーを見た。
「旅行許可証は後にして、シェリー様をお屋敷まで送っていただけませんか? 街の中央にある一番大きいお屋敷です」
マロンは眉を下げて、私たちにお願いした。
「俺なら、背負っていけるよ」
アキラはシェリーに近づき、シェリーの目線に合わせるように体を曲げた。
「でも、私、重いし」
「そんなことないさ。さあ、乗って」
アキラはシェリーに背を向ける。乗りやすいように屈む。
「……はい」
シェリーを背負ったアキラと、私と皐月はギルドの外に出た。
「中央の屋敷と言ったら、領主様の家だ」
アキラはそう言った。
シェリーはハッとした後に俯いた。
「杏奈ちゃん、黙っててごめんなさい」
「謝ることなの?」
「だって、偉い人の孫だもん」
「そんなの関係ないよ。助けてくれたし、もう友だちでしょ?」
シェリーは顔を上げた。驚いたように、目を見開いている。
「う、うん! 友だちですよね!」
シェリーは嬉しそうに笑った。




