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第17話 森の中での出会い

 一晩明けて、私たちは出発した。みずほは見かけなかったが、まだ出発していなさそうだった。部屋から物音が聞こえていたからだ。

 ショウやオースティンたちとは、昨日のうちに別れを告げていたので、今日は誰にも声をかけずに出発することにした。まだ朝も早いことだしね。

 日の出と共に出発した私たちは、洞窟に向けて森の中を進むことになった。


「今日はモンスターと会わないと良いなあ」


 私がそう呟くと、前を歩くアキラはくすりと笑った。


「サーチャーはきちんと見ておくよ」


「姉さんは森を舐めすぎてるだろ」


「でも、オリエーンス村にいたときは、モンスターに出会ったことがないじゃない」


 私がそう言うと、アキラは立ち止まって振り返った。

 じっと私と皐月を見つめる。


「それがおかしいんだよな」


「何がおかしいんだよ」


「オリエーンス村にたどり着く前に俺はモンスターに出会ったよ」


 その言葉に、私は驚いた。

 もう五年くらい森で狩りをしていたが、モンスターに出会ったのは、アキラと初めて出会ったあの日以来だ。


「防衛魔法がない村に、近くの森……モンスターはいるのに出会ったことがない。普通はありえないよ」


 私と皐月は黙ってしまった。

 ふと、私は思いついた。


「誰かがモンスターを倒していたのかな?」


「誰だよ。オリエーンス村には戦える人もいないし、旅人や騎士を雇う金もないだろ」


 皐月にすぐに反論されてしまった。


「チィランおじさんかな?」


「戦えるなら、村を燃やしたモンスターを倒せるだろ。第一、おじさんは家で死んでたんだぞ。戦っていたなら、外で死んでるんじゃないか?」


 なるほど。皐月の言うことはあってそうだ。

 私が、うんうん唸っていると、アキラが質問をしてきた。


「チィランおじさんは魔族なのか?」


「え」


 私と皐月はお互いを見た後に、アキラを見た。


「たぶん、魔族、かな」


「そういえば、聞いたことはないな」


 アキラの真剣そうな顔はなくなり、柔らかく笑った。

 

「歩きながら話そう。チィランおじさんはどんな人だったんだ?」


「家を空けることが多かったわね。出稼ぎに行っていたの。そのお金で村の人たちから、食べ物を買ったりしていたわ。村の人たちも、お金が手に入るから喜んでいたの」


「姉さんや俺を頻繁にお馬鹿さん呼ばわりしてたけどな」


 皐月がいる後ろをチラリと見ると、口を尖らしていた。

 皐月と目が合い、前見て歩けと言われてしまった。


「私と皐月が五歳の時に、お父さんとお母さんは亡くなってしまって、お父さんの友だちのチィランおじさんが引き取ってくれたのよ。それから、九年間も私たちを育ててくれたのよね」


 でも、そんなチィランおじさんも亡くなってしまった。

 シェリーのために秘宝を探し終わったら、チィランおじさんや村の皆の亡骸を埋葬してあげたい。


「俺たちの話ばかり聞いてないで、自分の話もしろよな」


 皐月はアキラに向かって言った。


「昨日も結局、オースティンに旅の話をしなかっただろ」


「話す間がなくてね。それから、別に隠しているわけじゃないよ。本当に話す機会がないだけさ」


「じゃあ」


 皐月が次の言葉を発しようとした時、右隣の茂みからガサリと草が揺れる音がした。


「モンスターではないな」


 アキラはそう言いながら、私と皐月の隣に行き、剣を取り出した。


「山賊かもしれない」


 アキラは小声で言った。

 草むらは大きく揺れて、そこから人影が現れた。


「わ! 人か」


 草むらから現れた人は、そう言って驚いたように目を丸くした。茶髪に黒目でほっそりとした体型の人だ。低い声からすると、男性なのかな。きちっと着られている服はお金持ちそうだった。

 アキラは剣を仕舞い始めた。相手は武器を持っていないからかな。


「旅人さんかな?」


 男性がそう聞いていきたので、私は頷いた。


「あなたは? 一人で旅をしているの?」


「ああ、俺かい。俺には相方がいるんだ。今は、相方は食材探し中だよ」


 男性は私たちの横を通り過ぎて、私たちの後ろにあった木にもたれかかった。

 よく見ると、汗をかいていて、肌が青白く見えた。


「俺はコディ。ちょっと体調が悪くて……気晴らしに少しだけ話していかないか?」


「私は杏奈よ。こっちは弟の皐月、こっちはアキラ」


「少しの間だけ、よろしくな」


 コディは立っているのが辛くなってきたのか、座り込んだ。


「体調が悪いっていうのは、風邪?」


「いや、ちょっとした病気でさ。でも、たまに発作が出るだけだから、大丈夫だ」


 コディは長袖の袖で、汗を(ぬぐ)う。


「杏奈たちは何で旅をしているんだい? 若そうに見えるけど」


「友だちのために秘宝を探しに旅しているの」


「……へえ。素晴らしいことだ。友だち想いなんだな」


 コディは少し辛そうに笑った。


「もう少ししたら、相方が戻るだろう。付き合ってくれて、ありがとう」


 コディはそう言って、私たちにもう行ってもらって大丈夫だよと(うなが)した。


「相方さんが戻ってくるまで、一緒にいなくて大丈夫?」


 モンスターが来たら、どうするのだろうと思って聞いたのだが、大丈夫だと言われてしまった。


「モンスターが出たら、相方はすっ飛んでくるから」


「そう……。それなら、私たちは先に行くわね」






 コディと別れてから、一時間ほど経ち、私たちは休憩していた。

 アキラはいつでも戦えるようにと、木にもたれかかって立っている。皐月も同じ木にもたれていた。

 私は地面に座っている。土や草で汚れるかもしれないが、次の行動までに少しは休んでいた方がいいと考えたからだ。

 水筒に入れた水を飲みながら、一息つく。


「コディは大丈夫かなあ」


「大丈夫って言ってただろ。誰にでも良い顔してると、後で困るぞ」


「何が困るのよ」


 私は皐月を睨む。皐月は一度こちらを見たが、すぐに正面に向き直った。


「まあまあ。皐月が心配するのもわかってあげたら?」


「心配してるわけじゃない」


 アキラは皐月の言葉に少し困ったように眉を下げた。


「ショウやマサムネみたいに、良い人ばかりではないってことだからな」


 皐月はそう言って、飲んでいた水筒の(ふた)を閉めた。

 それをアキラに返す。アキラは受け取って、ポーチに仕舞った。


「そろそろ……え!」


 アキラは慌てたように、ポケットからサーチャーを取り出した。

 青く光っている。


「これは」


 アキラが言葉を発する前に、ドンという地鳴りが聞こえた。

 後方からだ。

 ドン! ドン!


「何の音?」


「まずい。もう、すぐそばだ!」


 アキラが、なぜ気づかなかったんだと叫ぶ。

 その時、木と草むらをかき分けて、大きな図体の生き物が現れた。

 灰色の固そうな皮膚に、体の割に小さな顔。頭は禿げていて、耳はとんがっていた。

 腰には獣の皮を巻いている。


「モンスター!」


 皐月が足のホルダーから杖を取り出す。アキラも剣を構えた。


「トロールだ。俺たちだと敵わない! 隙を見て、逃げるぞ!」


 トロールは右手に持っていた石の棍棒を振った。

 周りの木が薙ぎ倒されていく。私たちは後ろに飛び跳ねて避ける。

 トロールはすぐに右足を前に出し、棍棒を先ほどと反対側に振った。


「杏奈!」


 その声が聞こえた後、私は地面に仰向けに転がっていた。

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