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第14話 ウルフゾンビ戦

 水浴びを無事に……マサムネは無事ではないが、無事に終えた私たちは再びアナトリ町に向かうことにした。

 森の中の獣道なので、そこまで歩きづらくない。森でいつも狩りをしていた私と皐月は楽々と歩いている。ショウとマサムネは慣れていないのか、少しペースが遅い。ただ、アキラが前を歩いてくれているので、そこまで遅くはない。


「あと二時間くらいかな」


 アキラの背中がそう言う。

 アキラのすぐ後ろには私。次に、ショウとマサムネ。皐月は一番後ろだ。皐月が一番後ろが良いと言ったのだ。

 その時、アキラがグッと立ち止まった。


「まずい」


「何が?」


 私がそう言うと、アキラは振り向く。険しい顔をしていた。


「すごい速さで、モンスターがこちらに来ている」


「え! 逃げないと」


「逃げれる速度じゃない。なぜか、こちらに真っ直ぐ来ている。しかも」


 アキラは剣を振り抜く。

 私の耳にも聞こえた。何かが走り駆ける音だ。しかも、たくさんいる。


「五体だ。もう来るぞ!」


 すぐ近くまで、音が聞こえたと思った。茂みと木の間から、狼が現れた。

 そして、やはり普通の狼ではない。顔や体が(ただ)れていて、皮膚が()がれ、一部分だけ内臓や骨が見える。体毛は緑色で、長い舌がベロリと見えている。真っ赤だ。

 いきなり、五体の狼モンスターが私たちに(おそ)いかかる。


「ウルフゾンビだ!」


 アキラが叫ぶ。

 他の人を見ている暇はない。私は一体のウルフゾンビの噛みつきを避ける。私は避けられたが、皐月はどうだろう。


「危なっ」


 皐月の声が聞こえた。その言葉から、避けられたのであろうことがわかった。


「マサムネ!」


 ショウが叫んだ。ショウとマサムネの方を少しだけ見ると、マサムネが狼に噛まれていた。血が滲むコートが見えた。


「杏奈! よそ見するな!」


 私はアキラの声に、ハッとして、先ほど攻撃を仕掛けてきたウルフゾンビを見た。

 すぐに飛びついてくる。

 私はそれをギリギリの所で避けて、足のホルダーにある短剣を抜いた。

 ウルフゾンビはハアハアと息を吐き出して、私をジロリと見る。赤い瞳は虚ろだ。

 戦えるのだろうか。モンスターと戦うのは初めてだ。

 鹿や鳥を矢で打つことはたくさんあったが、モンスターと対峙することは、村が燃えたあの日が初めてなのだ。

 ウルフゾンビは私の隙を狙うつもりなのか、じりじりと距離を詰めてくる。

 息ができなくなりそうだ。

 構えた短剣は震えている気がする。

 その時、ウルフゾンビがぐわっと爛れた口を開けて、襲ってきた。

 しまった!

 そう思った時には、遅くて。


「杏奈!」


 アキラの声が聞こえたと思ったら、視界に茶色の布が広がった。

 誰かの背中だ。黒い髪も見えた。


「ギャガ!」


 目の前に現れた人の先に、青色の液体が飛ぶのが見えた。

 アキラだと気づいた。


「よそ見しないでって言っただろ」


 ウルフゾンビの方を見たままのアキラがそう言った。


「ごめん」


 私はアキラの背中越しに、ウルフゾンビを見た。目を傷つけられたのか、ウルフゾンビは震えている。

 皐月が気になって、私は皐月の方を見た。ショウとマサムネは反対側にいる感覚があった。戦っている音が聞こえる。

 皐月はアキラから買ってもらった杖を構えていた。


「ファイアボール!」


 皐月がそう叫ぶと、皐月の頭くらいの火球が皐月の頭上に現れた。

 私はアキラに手を掴まれたので、アキラの方を見た。


「後ろにいてね」


 手が離れて、アキラは先ほどのウルフゾンビに斬りかかった。

 ウルフゾンビはその攻撃を避けるが、目が見えにくいのかよろける。

 アキラはその隙を逃さずに顔に剣を突き刺す。


「姉さん! アキラ!」


 声のする方を見ると、皐月がいた。汗をかいている。皐月の後ろを見ると、丸焦げになったウルフゾンビがいた。


「よく当てたな」


 アキラがそう言うと、皐月は目を逸らした。


「別に、どうってことない」


「俺はショウたちの方に行く。皐月は杏奈を頼むよ」


 アキラはそう言って、ショウたち方へと向かった。


「皐月。大丈夫だった? 怪我してない?」


「大丈夫。姉さんは?」


「アキラが助けてくれたから」


 私は言い終わったら、ショウたちの方を見た。マサムネが倒れて、腕を押さえていた。

 腕から、青と赤の液体が垂れている。

 アキラを見ると、ウルフゾンビ二体をショウと一緒に対処していた。

 ウルフゾンビ二体が同時に二人に襲いかかると、ショウは避けた。アキラは牙に剣を当てる。力で押す気なのだろう。

 あれ? ウルフゾンビは五体いたよね。

 一体は私を助けてくれたアキラが倒して、もう一体は皐月が丸焦げにした。


「姉さん。マサムネの方に行かないか」


 考え事をしていたら、皐月に話しかけられた。


「そうね」


 戦いの場所から離れているマサムネの所に私たちは駆け寄った。

 マサムネは声を発せずに、震えていた。


「傷口を見せて」


 私はそう言って、マサムネから半ば無理やり腕を見せてもらった。

 噛まれた跡は深くて、骨まで達していそうだった。ヒビが入ってなければ良いのだが。

 それと、この青い液体はなんだろう。


「杏奈……。この液体には、触れ、るな」


 マサムネはゆっくりと話し出した。


「たぶん、毒だ」


 酷く痛むのか、マサムネの顔は脂汗がすごい。

 私はマサムネの腕をゆっくりと下ろした。皐月はマサムネの背中を支えるように手をかけていた。


「マサムネ!」


 ショウの声がして、左を見ると、ショウとアキラが駆け寄ってきた。

 ショウは心配そうに眉を下げる。座り込んでいるマサムネに目線を合わせるためにひざまずく。


「……ショウ。無事か?」


「私のことはいいから! 傷口を見せて」


「ダメだ。毒が」


 アキラもしゃがみ込み、マサムネの傷を見る。


「ウルフゾンビの毒だ。治療しないと」


「村に帰りましょう。先生に見てもらわないと」


 ショウの言葉に、マサムネは目を見開く。

 腕を抑える手が、力強くなったのが見えた。


「アナトリ町に行った方が早いか?」


 皐月がそう言って、アキラの方を見た。

 アキラは頷いた。


「毒は放っておくと良くない。近いのはアナトリ町だ」


 アキラはウエストポーチから小瓶を取り出す。中にはいくつかの錠剤が入っていた。


「痛み止めだ。苦いが、飲んでくれ」






 私が気にしていた残りのウルフゾンビは最初にアキラが仕留めてくれていたそうだ。

 灰化(はいか)したウルフゾンビを見つめた後、アキラに応急処置をしてもらったマサムネを見る。

 顔は青ざめたままで、汗も止まっていないようだ。


「早く行きましょう」


 ショウはマサムネを支えて、今にも泣きそうな顔でそう言った。


「モンスターとの戦闘は俺と皐月でやるよ」


 アキラはそう言って、皐月の方を見た。

 いつもは、つっけんどんな皐月でも今の状況では、文句を言わずに頷いた。


「これじゃあ、秘宝探しは無理だよな」


 マサムネは落胆しているのか、顔に陰りが見えた。


「当たり前でしょ! お金より命の方が大事よ」


 ショウが叫ぶ。


「ショウとマサムネはどうして秘宝がほしいの? お金目当てだとは聞いていたけど」


「俺は家を出たいんだ。そのためには、まとまった金がいる」


「私は、それを手伝いたくて……」


「父親と母親が、まあ、嫌な人なんだ。俺は村の外に出て、大きな街で働きたいんだよ」


 マサムネは、そう言った後、この話はもう良いだろうと町へ向かうのを勧めた。

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