表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/17

第13話 池での水浴び

 二回、火の番して眠りについた。

 目を覚ますと、テントが明るくなっていた。

 皐月は最後の火の番だったので、テントにはいない。


「あれ? アキラは?」


 てっきり、アキラが隣に寝ているものだと思って、私は疑問に思いながらも外に出た。


「おはよう。杏奈」


 アキラがいた。皐月も一緒だ。


「姉さん。早いな」


「たまには早く起きるわよ」


「はいはい」


 私は皐月の隣に座って、アキラをじっと見た。

 私より早く起きたのかな。アキラの顔はいつも通りで、目の下にクマはできていなかった。


「おはよう」


 その言葉と共に、ショウとマサムネがてテントから出てきた。


「おはよう。ショウ、マサムネ」


 アキラは皐月側に寄って、場所を空けた。そこにマサムネとショウが座る。


「朝食にしようか」


 アキラの言葉で、私たちは朝食の準備を始めた。小さな鍋を火にかけて、持っている水筒の水を入れる。そこに乾燥した野菜を入れて、塩で味付けをした。

 ショウとマサムネはリュックから干し肉とパンを取り出した。


「昨日のお礼よ。今日の朝食はこれを食べましょう」


 ショウがそう言って、私や皐月にも分けてくれた。手のひらの半分くらいの干し肉に、くるみが入ったパンだ。


「ありがとう」


「俺たちは何もしてないけどな」


 皐月はそう言いつつも、ありがたく受け取っていた。


「いただきます」


 野菜のスープもできたので、私たちは朝食を食べ始めた。


「まず、アナトリ町に向かうことになる」


 食べながら、アキラが説明した。


「モンスターが出ることも考えて、慎重に行こう。なるべく、モンスターは避ける」


「ん? モンスターはどうやって避けるんだ?」


 マサムネが聞くと、アキラはサーチャーを取り出して、サーチャーについて説明する。


「便利なもんだな」


「毎回モンスターと戦えるほど、強くないからね」


 私は食べながら、話を聞いているだけだった。いつ食べれなくなるかわからないから、つい無言になってしまう。


「姉さん。早食いしすぎ」


「え、ごめん」


「急いで食べなくても、食べ物は逃げないよ。杏奈」


 アキラはそう言って、にこりと笑う。スープのおかわりはいるかいと聞かれたので、おかわりをした。






 私たちは朝食を食べ終えて、出発する準備を始めた。火を消して、テントを畳んだ。

 ショウとマサムネは大きめのリュックを背負う。

 私たちは相変わらず軽装だ。私が持っているのは弓矢と短剣だけ。皐月も同じだ。アキラは剣とウエストポーチ。


「身軽そうだな」


 マサムネがポツリと言った。


「私もそう思う。アキラには感謝しないとね」


 私はそう言って、アキラを見た。アキラはまた、にこりと笑う。よく笑うなあ。

 準備ができたので、方位磁針と地図を見ながら進むことにした。アキラはサーチャーをパンツのポケットに入れている。方位磁針と地図はアキラの物だ。


「そういえば、同い年の猫耳族を見たのは初めてなの」


 私がそう言うと、ショウがこちらを見た。少し驚いた顔をする。


「私たちが初めてなのね」


「そうなの。あと、自分と両親以外の猫耳族を見たのも、シャルク村が初めてね」


「俺たちは逆に猫耳族ばかり見てるな」


「シャルク村は猫耳族の村だから当たり前じゃない」


 マサムネとショウは私を見ながら、そう言う。


「杏奈はどこの町が出身なの?」


 ショウに聞かれて、私はオリーエンス村だと答えた。小麦を栽培していて、私と皐月とチィランおじさん以外の村人はヒュー族だと説明した。


「チィランおじさん? 伯父さんと暮らしていたの?」


「お父さんの友だちなの。両親が亡くなってからは、ずっと面倒を見てくれていたんだけど」


 私が口ごもると、ショウとマサムネは目を見合わせていた。


「言いたくないことなら、言わなくていいのよ」


「ごめん」


 今でも、少し信じられていない。モンスターに村が焼かれて、おじさんや村の人たちが亡くなったなんて。

 涙が出そうになったが、グッと堪えて、歩くのに集中した。

 今は、シェリーのために秘宝を探しに行かないといけないからだ。

 初めてできた友だちだもの。助けられるなら、私が助けたい。でも、それは何でだろう。本当は、村の人たちを弔う方が先なんだろうけど、どうしても私は秘宝を探しに行きたいのだ。

 私は前を歩くアキラを見た。黒い髪に旅人の格好。私をイヴって人と勘違いをしている変な人。

 私はアキラを信用している。それも、何でかはわからない。村を出てから、自分の行動がちょっと変な気がする。


「あれ、何かしら」


 私の隣歩くショウが、指をさしている。

 少し歩くと、何かわかった。目の前には大きな水たまり、池があった。


「池ね」


「池だな」


 私たちは池を見つめて、立ち止まった。私たちは無言のままだ。


「ねえ」


 ショウが静寂を破る。


「水浴びしたい」


「はあ? 急いでるのに?」


 ショウの提案に抗議したのは皐月だった。

 アキラは苦笑している。マサムネはじっとショウを見つめる。


「だって、昨日のゴブリンとの戦闘で汗をかいたんだもの。気になるのよ」


「マサムネだって、急いでるって」


「ショウが浴びたいっていうなら、いいよ」


「ええ!?」


 皐月の言葉を遮って、マサムネは了承した。


「何でだよ!」


「ショウのためなら、いいんだよ!」


 皐月とマサムネは睨み合った。

 アキラが、まあまあと、二人の間に割り込んでなだめている。


「少しくらいなら、良いじゃないか。急いでるから、俺たちは水浴びしなければ、時間もそんなにかからないだろ?」


 アキラの提案に、皐月は少し身じろぎしたが、今回だけだからなと了承してくれた。

 ショウが水浴びするならと、私も水浴びさせてもらうことにした。

 アキラたちは茂みの方にいるから、終わったら声をかけることになった。

 ショウと二人きりだ。同い年の女の子と話すこと自体、初めてなので、少し緊張する。シェリーもメイも年下だったから。


「杏奈と皐月って姉弟なの? 皐月が杏奈を姉さんって呼んでるから」


「うん。そうだよ」


「義理の?」


「まあ、そういうことになるかな。私は本当の姉弟だと思っているけど。皐月もそう思っているよ」


「野暮なこと聞いたわね」


「ショウとマサムネは? 友だちよね?」


「私とマサムネは幼馴染というか、従兄弟なのよね。母さん同士が姉妹なの」


「そうなんだ! だから、少し似ているのね」


「私は似ているのは、嫌だけど」


 私はその言葉に吹き出した。マサムネはショウのことをとても好きなんだろうなと感じるけど、ショウはそこまででもないのかしら。

 私たちは、そんな話をしながら、水浴びを続ける。


「……だよ」


「はあ? ……んな!」


 茂みの方から声が聞こえ出した。私とショウは顔を見合わせる。

 そして、ショウは茂みの方を睨む。


「だから! 今がチャンスなんだって!」


 マサムネの声だ。何がチャンスなんだ。


「ふざけんなよ! ダメに決まってるだろ。姉さんもいるんだから」


「まあ、落ち着けって。男なら、仕方ない欲求だよ」


 これはアキラの声だ。皐月が何か抗議しているようだ。


「これがしたくて、水浴びを許可したんじゃないだろうな」


 皐月がイライラしているのが伝わる。


「そうとも言うな」


 マサムネは開き直ったような声色でそう言った。


「すけべ野郎め」


「男はみんな、すけべさ」


「一緒にすんな!」


 茂みの方から、ショウの方へ目を移すと、じっとりと茂みを見ていた。

 私に聞こえるのだから、ショウにも今の会話が聞こえたのだろう。

 ショウは池から上がり、タオルを巻いた。茂みへと、ドカドカと裸足で歩く。


「あーんーたーたーち! 覗きすんな!」


「まだ、してないって!」


 マサムネの声が聞こえた。


「まだって何よ! バカ! こっち見るな!」


「あ! アキラ! ショウの方を見るなよ」


「声がしたら、振り向くだろ。それに、タオル巻いてるんだから、良いだろ」


「マサムネ!」


「は、はい!」


「今日は口きかないから」


「ええ!? やだよ!」


「うっさい!」


 ショウは茂みに向かって、そう言ってから、こちらに戻ってきた。


「ごめん。バカな奴で」


「ううん。未遂だし、良いよ」


 ショウは怒らせたらダメなんだなと肝に銘じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ