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第12話 ゴブリンとの戦闘

 音のする方へと私たちは慎重に歩いて行く。モンスターに気取られないように、そうしている。

 段々、音が大きくなり、皐月も聞こえてきたとこっそりと話してくれた。獣道から少し逸れて、茂みの中をゆっくりと歩く。


「あそこだ」


 アキラは身を屈めて、私と皐月を見た。腰を落とすように指示を出す。

 茂みから少し上へと顔を覗かせると、人が二人。どちらも猫耳と尻尾がある。猫耳族だ。その二人は、緑色の皮膚の小人三体と戦っていた。

 緑色の小人は、戦士ゴブリンと言うらしい。アキラが教えてくれた。ゴブリンは人の腰程度の身長だった。とんがった耳を持っていて、頭は禿げていて、目はギロリと吊り上がっていた。三体とも両手に棍棒を持って振り回している。

 対時している人間二人は防戦一方だった。二人とも茶色の髪の毛で、女性の方は顎の下あたりで髪を二つ括りにしていて、コートを羽織っている。もう一人の青年は前髪はセンター分けで顎までの長さの髪の毛で、女性と同じくコートを着ている。

 二人はゴブリンの攻撃を避けながら、お互い片手に持っている短剣で、すぐに攻撃に転じられるようにするためか、構えたままだ。


「俺が割り込むから、杏奈と皐月は隠れてて」


「でも」


「三体だから、援護はいらないよ」


 アキラはそう言って、剣を取り出した。


「行ってくるね」


 アキラはそのまま、茂みから出て、ゴブリンたちと二人の注意を引いた。


「え、誰……って、アキラ!」


 女性の方が即座に反応した。青年も驚いたような顔でアキラを見る。


「加勢するよ」


 アキラは軽やかに剣を振って、構える。驚いていたモンスターは、叫び声をあげて、一斉にアキラに襲いかかった。

 一体目の攻撃を避けて、二体目と三体目のゴブリンに向かって、剣を横にした。ゴブリンはピタリと立ち止まり、アキラをじっと見つめる。


「ギギギ」


 ゴブリンはお互い目を見合わせた。

 アキラはその隙を見逃さなかった。一番近くにいたゴブリンの首を刈ろうとした。

 しかし、すんでの所で避けられてしまう。後ろに飛んだゴブリンはにたりと笑う。


「ゴブリンは人の言葉がわからない。連携しよう」


 アキラは二人にそう提案した。二人は頷き、短剣を構える。


「俺が注意を引きつけるから、ゆっくりと後ろに回って。あとはわかるよな」


「わかったわ」


「はいはい」


 猫耳族の青年の方は、気だるげに答えた。

 アキラは宣言通り、剣を振り回して、ゴブリンの注意を引き始めた。

 ゴブリンは剣の軌道を追うように、目を向ける。アキラの隙をついて攻撃を仕掛けようと考えているのだろうか。

 一体のゴブリンが奇声をあげて、アキラに突進していく。両手の棍棒を振り回すので、攻撃範囲が広い。

 アキラは突きを繰り出して、空いている腹を狙うが、棍棒で跳ね飛ばされてしまった。

 それをニヤつきながら見ている二体のゴブリンの後ろに、猫耳族の二人がゆっくりと迫っていた。


「ギっ!」


 モンスターがそう声を上げた瞬間に、二体のゴブリンの首の後ろは二人に刈り取られた。


「ギャギャ!」


 青い血が吹き出して、二体のゴブリンは倒れた。

 アキラに向かっていたゴブリンは、倒れた二体の方を振り向く。その一瞬の隙をついて、アキラはゴブリンの首を跳ね飛ばした。


「ふう」


 飛んだ首が地面に転がる。

 アキラは剣についた血を払うように、剣を軽く一回振った。


「アキラ!」


 猫耳族の女性はゴブリンを跨いで、アキラに近寄ろうとした。それを遮るように、猫耳族の青年は腕を出す。


「なんで、お前がここにいるんだよ」


 警戒しているのか、猫耳がピンと立っている。


「マサムネたちと同じ理由だよ。ね、杏奈」


 アキラが私たちがいる茂みの方を見たので、出てきて良いよという合図なのだろう。私は皐月と顔を見合わせてから、茂みから出た。


「こんばんは。私は杏奈。メイに頼まれて、あなた方を探しに来たの。あと、秘宝を探す旅の途中」


「……私はショウ。メイに頼まれて、か」


 猫耳族の女性、ショウは、アキラの方をちらりと見た。


「杏奈のいう通りだよ。メイちゃんが心配していたよ」


「そう」


 ショウは下を向いた。


「やっぱり、ショウだけでも帰るべきだ。俺についてくる必要はない」


 猫耳族の青年、マサムネはそう言ってショウの肩を叩いた。


「バカ! 私たち二人でモンスター三体相手に勝てないのに、一人で旅なんて続けられないでしょ」


「うぐ」


 マサムネは正論を言われて固まった。


「でも、帰れない」


 しかし、すぐに反論する。


「俺には金が必要なんだよ」


「お金のために秘宝探しに出たの?」


 私がそう聞くと、マサムネは私の方を見て、目を見開いた。


「普通そうだろ。お前たちは違うってのか?」


「私は友だちの病気を直したいからよ」


「ふーん。危険な旅なのに。変わった奴」


「こっちのセリフなんだけど」


「俺は金が欲しい。実家から出ていくには資金がいるからな」


 マサムネは短剣を足のホルダーに仕舞う。


「じゃあ、協力しない?」


 私はマサムネの前に手を出した。


「は?」


「私たちはお金はいらないし、秘宝をシェリーに届けられれば良いの」


「姉さん!」


「何よ。皐月」


「金はいるだろ。村も家も燃えて、これからどうやって生活するつもり?」


「そこは狩りでもしましょ」


 皐月は歯を食いしばって、反論の言葉を探そうとしているのだろう。私はこれ以上、口を挟ませる気はなかった。

 私はマサムネに手を差し出したまま続けた。


「一旦シャルク村に戻って、メイにそう話しましょう。五人での旅なら良いんじゃない」


「それは受け入れられない」


 マサムネは私の手を握った。言葉と行動がチグハグだ。


「五人で旅をするのは了解した。でも、シャルク村には戻らない。秘宝を誰よりも先に見つけ出さないといけないからな」


「ちょ、ちょっと、マサムネ」


 ショウは慌てたように、マサムネに言った。


「ショウ。ごめん。俺はやっぱり諦められないよ」


「……そうなのね」


「決まりね。メイには悪いけど、旅を続けましょうか。アキラも良いよね?」


 私はアキラの目を見た。少し驚いたような顔をしていたが、頷いてくれた。


「はあ。姉さんの悪い癖だ」


「良いでしょ。別に」


「皐月、大丈夫だよ。メイに知らせられるように、カラスを飛ばすから」


「そういう意味じゃないんだけど」


 飽きれる皐月を横目に、アキラは白紙とペンとインク取り出して、地面に紙を置き文字を書き始めた。


「カラス?」


 私がそう聞くと、アキラはこちらを見上げる。


「今、この辺りにいる手紙屋が烏丸族なんだ。カラスに手紙を渡せば、その烏丸族に届けてくれる。それを各町に届けてくれるんだよ」


 烏丸族――本で読んだことがある。黒髪黒目で、一見魔族やヒュー族と変わらない見た目だが、顔に黒いアザがあるのが特徴。カラスと意思疎通が取れると言われている種族だ。魔法を使えるが、魔族ではないらしい。

 アキラは紙を封筒に入れて、次に黒くて細い笛を取り出した。


「これで手紙屋と繋がってるカラスを呼べるんだ」


 ヒューと音が鳴り、少ししたらカラスがやってきた。

 アキラはカラスに手紙を咥えさせた。カラスは直ぐに飛び立ってしまった。見た目は普通のカラスだった。


「これでメイには伝わるよ」


 アキラは私に向かってウインクをした。






 灰化が終わったゴブリンたち。少しの衣類と棍棒を残していた。それを隅に避けて、テントを張り始める。


「人数が多いから、今日はよく眠れそうだな」


 アキラが焚き火を作りながら、そう言った。


「どういう意味?」


 ショウが首を傾げる。アキラは、野宿の危険性と焚き火の番の重要性を話し始めた。

 ショウとマサムネは見張りをつけずに寝ようと思っていたみたいだ。多分、アキラがいなかったら、私と皐月もそうしていただろう。そう口を挟むと、皐月に睨まれた。


「姉さんは危機感がなさすぎる。俺ですら、見張りはいると思うよ」


「えー」


「えーじゃない。父さんと母さんのアレ、忘れたのかよ」


 ……忘れてない。忘れるわけがない。


「アレって何?」


 ショウが聞いてきたが、私と皐月は面白い話ではないし、話せないと言った。

 ショウはあっさりと引き下がってくれた。

 テントを二つ張り終えて、火の番の順番を決めて、寝ることにした。空も暗くなったので、今日は夕飯を取らないことにした。


「おやすみ」


 私と皐月は同じテントで、ショウはもう一つのテントで寝る。最初の火の番は、アキラとマサムネだ。

 目を瞑って、寝ようとするとテントの外から声が聞こえた。


「イヴは見つかったのか?」


 マサムネの声だ。

 そういえば、アキラはシャルク村に寄ったことがあって、ショウとマサムネとは知り合いだった。


「見つかったよ」


「もしかして、あの女?」


「杏奈のことだよね? そうだよ」


「ふーん。良かったな」


 一旦、二人の会話はそこで終了した。

 私も、あまり外の会話を盗み聞きするのも悪いなと思い、寝ることにした。

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