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望まぬ再会

 アリスにセクハラされつつも、寧々は無事に放課後を迎えた。

「寧々たん、一緒に帰ろ」

「お前は指導室に来い」

 さりげなく寧々の腰に伸ばされたアリスの手を、菫先生は乱暴にはたいて連行していく。

 放課後の何時ものやり取りである。最早慣れてしまった自分に寧々は悲しみを覚えた。

 気を取り直して理事長室に向かう。

 聖蓮学院の放課後は賑やかである。部活や特別授業、友人と語り合えるサロンなどもあり、すぐに帰宅する生徒は少数派だ。

 ブラス部の調子外れな音楽を聞き流しつつ、寧々は理事長室のドアを叩いた。

「一年五月雨組、竜胆寧々です」

「はい、どうぞ」

 失礼しますと断って入室した寧々は意外な人物と目が合った。

「貴方は今朝の女子高生ではないですか」

 ソファーに座っていたその人物は淀みなく両膝を絨毯につき、お祈りのポーズをとる。

「再会の感謝をアーメンしましょう」

「竜胆さんですね。そちらへ座って下さい」

 対面に座っていた理事長は懸命にも深くは追及せず、祈る変態から離れた位置に座るよう促した。

 ただし、変態に向けて苦虫を忌避するような視線を向けているので内心穏やかではないだろう。

「もう対面しているようですね。怖かったでしょう?」

 理事長に優しく語りかけられて、寧々は僅かに頬を赤らめる。三十代前半くらいの理事長は美人である。それも、如何にも女子受けしそうなきりっとした知的な女傑だ。寧々がときめくのも無理もない。

「エレテさん、とりあえず座って下さい」

 どこからか取り出したハンカチを咥えてひっぱる変態、もとい、エレテは理事長に促されて悔しげに座る。

「私も年上なのに、なのに」

 ぶつぶつぼやくエレテ。

「えーと、こちらはエレテ・グーテンベルクさんです。こう見えて高位の神官で腕だけは保証します」

 グッと、袖をめくって平坦な力こぶを見せつけるエレテ。真面目な表情でやっているので寧々はどうリアクションすべきか迷う。

「エレテのやることは無視してくれていいですよ」

 理事長の的確なアドバイスを寧々は胸に刻む。わりと深めに。

「エレテ、こちらが護衛対象の……」

「いえ、紹介には及びません」

 エレテは自信たっぷりに小鼻を広げる。

「身長166、バスト75、トップは……」

「エレテさん、また警察のお世話になりたいのですか?」

 理事長のこめかみに青筋が浮かぶ。

 寧々は真っ赤になって身を守るようにというか、守るために胸元を腕で隠した。

「むむ、日本とは窮屈な国ですね」

 エレテはしかめっ面で唸る。

 理事長は渋面で唸る。

「寧々さん、実害はないことは確認しておりますが、変更も可能ですよ?」

 護衛役であるから四六時中、寧々はエレテと行動を共にすることになる。だからこそ、女性が選ばれたのにエレテが変態では不安だ。

「変更するとしたら、どれくらいかかりますか?」

「半年以上は見て欲しいですね」

 その間、多額の税金が垂れ流されていくのかと思うと、寧々は怖くなる。

 一介の小市民どころか貧乏人である寧々は、無駄な出費で、

 しかも億単位のお金が消えていくことに耐えられる度胸は持ち合わせていなかった。

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