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ちょっとだけ格好いいアーメンシスター

 漆黒の夜にそびえる古城。闇に染まった曇天から稲光が走り、古城のシルエットを不気味に浮かび上がらせた。

 古城の内部、赤い絨毯が敷かれた広いホールにぽつんと棺が置かれている。

 飾りっけのない無機質な棺の蓋が、唐突に弾けとんだ。

 枯れ枝のような細くふしくれだった手が弱々しく棺の縁を掴む。

 棺から身体を起こしたのはみすぼらしい老人。

 しかし、みるみる肌が生気を取り戻し、いつの間にか見目麗しい青年へと変化していた。

 青年の身体を黒い霧が覆うと、次の瞬間に霧がタキシードを形成していた。

「無粋な客人よ、姿を見せよ」

 眉目秀麗な青年がホールの入り口に向かって命令した。

 そう、それは格下を物理的に従わせる力を持った、まさに命令だった。

 ゆったりとした動作で女がホールに踏みいる。

 地味な修道服を来ていても容姿の派手さは隠せない。

 赤い瞳に長い銀色の髪は夜の闇すら打ち払う。

「一人とはな。教会も落ち目のようだ」

 青年は百年前に数百人からなる聖騎士団に敗れ、長い眠りについていた。

 オリジナルの吸血鬼である青年に死の概念は存在しないが故に、殺すのは不可能。

 数百人の聖騎士団が全滅したにも関わらず、青年はたかが百年で復活した。

 青年の言うとおり、長い年月の末に教会は衰えている。

 が、青年の前に立つ女が弱いかとはまた別の問題だ。

「カーミラとは貴方ですか?」

 女の声に抑揚はなく、不気味な平坦さのある声だ。

「いかにも」

 青年はおうように答えた。自ら名乗らない非礼を許す程度には、青年にも慈悲がある。

 女はあからさまに落胆したようだ。恐ろしいまでに整った顔立ちに変化はなかったが、雰囲気が変わっている。

「カーミラとは女性名では?」

 女の態度にカーミラは若干眉をひそめるも、この程度で激昂する程若くもない。

「亡き母の名を頂戴したのだ。母は稀代の悪女であったからな。我もそうなりたいと願った」

 女の瞳に失望が浮かんだので、カーミラは怪訝な表情になったが、些末事と思ったか、何も言わず、美しい所作で立ち上が

 る。

「さて、死んでもらおう」

 正真正銘の化け物であるカーミラにとって人間など地を這う虫けらに劣る。

 カーミラは致命の一撃を放とうとして、自らの心臓の上に構えられた杭に戦慄を覚えた。

 見えていなかったわけではない。女が腰から杭と槌を引き抜くのも見えていたし、近付いてきていたのも見えていた。なのに反応出来なかった。例えるならゴキブリじみた素早さで女はカーミラの胸に杭を押しあてたのだ。

「アーメン」

 女は慈悲深く宣告すると、杭に槌を叩きつける。

 杭は深々とカーミラの心臓を貫いた。

「な、馬鹿な」

 カーミラは身体が崩れて土くれになっていくことに驚愕する。オリジナルの吸血鬼は心臓を貫かれたくらいでは死なない。

 ただし、例外がある。聖遺物であれば、どんな魑魅魍魎であろうと殺せる。

 カーミラは甘くみすぎていたのだ。

 油断していなければ、カーミラの命令が女に通用していない事に気付けただろうに。

 結果、復活したカーミラは目覚めてすぐに長い眠りにつく事になった。

祝 アーマード・コア新作発表。

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