3 神
昨日につづいて、上閲補佐として聖域に向かうのは、今日も俺の番だった。
ワルハバの光を背に受けながら、師匠の動作を覚えるように、俺は、じっと見守っていた。
ただでさえ薄暗い、地上という異界に設けられた、関係者にしか発見不能な、地下への入り口。魔法を使って、扉を強引に上へと押しあげれば、中からは、地下への階段が姿を現す。
段数は、全部で三十六。
かなり深い。
それでも空気が薄くならないのは、拠点と変わらない仕様だったが、時々は、場を清めるために、魔法で換気を促していく。
「ヨキ。今日は、お前が序盤をやってみろ」
階段をおりていく最中、師匠が俺の顔を振り返りながら、何気なく言った。
「俺が、ですか?」
驚きのあまり、俺は、オウム返しのように応えていた。
上閲の儀式は、手順を間違えれば、最初からやりなおしになる、重要なものだ。まだ、儀式の全部を把握していない俺が、実際に執り行うようになるのは、もっとずっと、先のことだとばかりに思っていた。
「ああ。初の項までなら、お前にもできるだろ。やってみせろ」
「……は、はい。ぜひ!」
聖域。
その目印のために彩られた、中心部に立って、俺は、簡単な口上を述べる。この部分は、まだ儀式とは関係がない。神に対する真摯な気持ちこそ、言うまでもなく必要だったが、それでも、いくばくかの気楽さが残っていた。
一礼してから、一歩前に。
その場で胡坐を組み、今度は、深く座礼をする。
立ちあがったら、再び立礼。
そしてまた、一歩前に足を出す。
これらをくり返していき、体で大きな半円を描いたら、中央に進んで、正座を組む。
自分の前に並べるのは、水の入った杯一つと、空の杯が五つだ。それらを、自分の体と一直線になるように、ゆっくりと、音を立てないように置いていく。
水の入った杯は手前に。
すべてを配しおえたら、手前の杯から順々に、中の水を、奥へおくへと入れ替えていく。近いほうから数えて、四番目の杯まで水が回ったら、一番最初のものと位置を換え、再び、体で半円を描く動作に移る。
今度は、座り方も歩き方も、最初のものとはまるで別物だ。
同じようにして、水を六番目まで送ったら、スタートに戻る。この一連の作法を、さらに、杯が六・五・六番目になるまで、連続してつづけていく。これが初の項だ。
……おわった。
ずっと緊張しっぱなしで、神経がすり減るような思いだったが、なんとかやり切った。
師匠は、これを十分足らずでこなすが、俺のかかった時間は、優に二十分を超えていた。
安堵もそこそこに、師匠が俺の肩を叩いて、場所を譲るように促す。残りの儀式を、師匠が引き継いでおわらせるのだ。
成果について、師匠は、何も言わなかった。神聖な儀式の最中なのだから、私語厳禁なのも当然だろう。
すべての項目を無事におえると、おもむろに師匠が口を開く。
「偉大なる神よ。我らの明日を、お示しください」
俺たちの間で激震が走ったのは、次の瞬間だった。
「これより汝らは、魔力の調査をはじめよ。宇宙船を用い、民を乗せ、この地を立つのだ。我、クシナの神なり。違う星には、我とは異なる神もおろう。しかし、クシナの民よ。我を信じよ。魔力の調査をはじめるのだ」
「……。承知いたしました。偉大なるお導きに、邑を代表して、厚く感謝を申しあげます」
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