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しばらくして、俺たちが拠点に戻ると、ほとんどの住人が出迎えてくれた。手を離せない数人を除けば、邑の全員が集まったことになる。
それだけみんな、神のご意思をいち早く聞きたいと、思っているのだ。師匠の口が開かれるのを、一同が、今かいまかと待ちかねている。
「普段どおりに」
上閲の言葉に、安堵の息が漏れる。
それは、難題を課されなかったという、緊張からの解放などではなくて、神の慈愛が、滞りなく自分たちに注がれていると、そういう安心からだった。
そののち、俺たちは師匠から、儀式についての勉強を教わった。
やがて、夜になり、一日のお役目がおわる。
夕飯を食べるため、俺が広間に向かうと、そこにはすでに、麗しいマリアの姿があった。
俺は、マリアの顔を見たとたん、この一日の疲れが、瞬く間に吹き飛んだ気がした。
「大事なお務め、ご苦労様です」
労うように、マリアが俺に湯呑を取ってくれる。
本当は、俺がマリアに、色々としてあげたかったのだが、仕方ない。思いのほか、今日の勉強はハードだった。これも今朝、師匠が話していたように、俺に対する期待の表れなのだろう。
「何を言ってるんだ。マリアだって、比較にならないお役目を、もらってるじゃないか。医者……覚えることは、上閲よりも多いと聞く」
「まだまだ、わたしは、見習いだけどね。おばあさまは、本当にすごいわ。今日も急病人に、的確な治療をしてたのよ。わたしが一人前の石勠になるには、だいぶん時間がかかりそう」
「それでも、補佐官として言わせてもらえば、聖域までの道のりは、少なからず、戦いは避けられない。見習いと言っても、マリアが貴重な石勠であることに、違いはないと思うよ。本職の医者が、俺たちの邑には、一人しかいないんだ。マリアだって、かけがえのない戦力だよ。実際、今日だって、バケムクロと対峙したからね」
俺の何気ない一言に、マリアが飛びあがらん勢いで、驚いてしまう。
「ヨキもバケムクロと戦ったの!? 体は平気?」
「ごめん、心配させちゃったか? ありがと。平気だ。戦ったと言っても、非常に小さなやつだったからな。楽勝だったよ」
他愛もない話をしている時間は、あっという間に過ぎてしまう。それこそ、時間というものが、見る間に溶けていくかのようだ。
「じゃあ、また明日。明日こそ、わたしに迎えに行かせてね」
「ふふっ、わかったよ。おやすみ」
言って、俺は、マリアの頬に口づけをした。
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