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「じゃあ、兄さん。聖域にある、あの大きな船も、古代文明の一つなの?」
モタカ先輩の弟にして、俺の後輩にあたる上閲補佐が、思いついたように口を開いていた。
「ああ……。俺は、あんま好きくないけどな」
「おしゃべりは、もういいだろ。集中しろ」
「ういっす」
黙々と歩く俺たちが、さらなる大きな緊張感に包まれたのは、それからすぐのことだった。モタカ先輩が、鋭い口調で言い放ったのだ。
「右斜め前方。ちょっと、何か動いたっすね」
「俺、見て来ます」
早く大人になりたい。
逸る気持ちから、俺はモタカ先輩が示したほうへと、素早く近づいていった。
岩陰を覗きこむように、慎重に身を乗りだす。
「……」
いた。
小ぶりだが、確かにバケムクロが一匹、蠢いている。
バケムクロは、人類の敵だ。倒せるようなら、ここで始末しなければならない。
相手はまだ小さいんだ、俺一人でも余裕だろう。
黒刃剣……。
とっさに、魔法を使おうとした俺だったが、まもなく思いなおす。
ただでさえ、クシナに残された魔力は少ないのだ。こんな雑魚相手に、一々魔法を発動させていては、ダメだろう。
抜き身の短刀で十分だ。
意を決すると、俺は、岩に手をかけた。
跳躍。
岩を飛び越えると同時に、バケムクロを目がけ、勢いよく短刀を振りおろす。
ぐしゃり。
寸分も狂いなく、脳天を貫くと、そいつは何をするでもなく息絶えた。
あとには、動かなくなった死骸だけが残る。
その体に触れ、きちんと死亡したのを確認した俺は、みんなのもとへと戻った。
「先輩の言ってたとおりでした。小さいバケムクロを視認。その場で処分しました」
好意的にうなずく、モタカ先輩とは対照的に、師匠は、俺に鋭い視線を向けた。
「魔法を使ったようには、見えなかったが?」
「相手が、とても小さな個体だったので、通常の武器で大丈夫と、判断しました。まずかったですか、師匠?」
「いや、お前が無事なら、それでいい。だが、くれぐれも油断するな。体が小さいからと言っても、やつらはバケムクロだ。そのことに、違いがあるわけではない」
「はい……」
魔力の節約。
俺は、自分の気遣いが、正しく評価されなかったことに、少しだけ不満を抱いてしまった。その不満は、声のトーンにも表れていたのだろう。師匠はつづけて、こう話す。
「だが、邑のために、魔法の使用を、控えようとする姿勢については、評価しよう」
「はい!」
それからは何事もなく、俺たちは、無事に聖域に到着した。上閲が神の言葉を聞く場所、それが聖域だ。師匠も、その一人。俺やモタカ先輩たちのお役目は、それを補佐することにある。
神の言葉を聞くための儀式は、非常に複雑だ。上閲である師匠は、それらを、すべて諳んじていることになる。すさまじい記憶力に、上閲を志す者として、俺は、尊敬の念に堪えない。
邑で暮らす者たちに与えられる、お役目すべてに優劣はないと、俺も固く信じてはいるが、それでも、やはり上閲は別格だ。なにせ、上閲は、俺たちの明日を決定する、神の言葉を直接聞いて、それを人々に伝える役目なのだから。
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