第098話、イシュヴァラ=ナンディカの乱
罠が仕掛けられていた玉座の間の扉。
歪められた座標。
その隙間を抜けると広がっていたのは――臨戦態勢をとっていたイシュヴァラ=ナンディカの面々。
かつて悪人だったモノたちである――。
かつて冒険者ギルドにいたモノと、そして盗賊団にいたモノ。
他にも悪さをしていたが喪服令嬢に討伐され、強制的に仲間へとされている者達である。
彼らは来訪者の顔を知っていたのだろう。
王がお待ちですと、静かな口調で誘導。
すぐに玉座の間の奥へと案内すると、彼らはそれぞれ自らの持ち場に戻っていた。
会話を邪魔しない。
余計なことを聞かないためだろう。
彼らはかつて悪人だったが、今は世界のために動いているのだ。
それこそがイシュヴァラ=ナンディカ。
終わった国の跡に作られた新国家の本質。
戦闘員ではない民の多くも、平和に暮らす人々も――かつての聖コーデリア卿を助けなかった……言葉を悪く言えば、見て見ぬフリをし、見捨てたモノたちばかり。
滅びる国を自らの手では救わなかったモノたちばかり。
全員が全員ではないが、ミーシャ姫による悪事の被害者であり、聖女と母国を救わなかった加害者でもある民が多く含まれていたのだ。
そんな――。
贖罪の国の代表たる新国王キースが顕現してきた三人を見て、緊張と警戒の顔を僅かに崩していた。
聖女と道化師と聖騎士である。
もっとも、王の視線は防御結界ともなっていた玉座の間の扉に向けられているが。
壊された扉を眺め、キースは慣れた口調で苦笑をしてみせる。
「――やはりあなた達でしたか」
「ごきげんよう、キース陛下。連絡が取れなくなっていたので馳せ参じましたの――状況は一体どうなっていらっしゃいますのでしょうか」
挨拶もほどほどに問いかけるコーデリア。
おっとりとしていても実力は確か。
天然でズレているだけであっても知能は高い、その思考は戦闘への警戒や、この危機に対し傾いているのだろう。
キースと共に玉座を守っている喪服令嬢が、兄に黙礼だけした直後に前に出て。
「前に襲ってきた木偶人形たちがいたでしょう? あれと同じよ。デバッグモードを用いた謎の襲撃としかいいようがない、正体のつかめない攻撃が襲ってきている真っ最中なの」
「まあ、やはり――」
「ムカつくぐらい冷静ね……。いや、慌てろって意味じゃないけど、まあいいわ。さっそくで悪いんだけど、今、獣将軍グラニューと名もなき魔女が街の人たちを避難区域に誘導しているの。民には犠牲を出したくないのよ……」
言葉を遮り、聖コーデリア卿は微笑み。
「民を守るためならば、なにをしても問題ありませんね?」
「質問じゃなくて確認ってわけね。策があるなら頼める? 後で正式に依頼料を支払うわ」
「受け取れない……というわけにも、まいりませんわね。分かりました――でしたらその交渉は後程、イーグレット陛下とお願いいたします。この国に戻っている民の中には、かつてわたくしの父の領地に住まう人々も多くいる。二度、三度と故郷を失わせてしまうのは悲しいことですから」
告げながら聖コーデリア卿は、そっと手を翳し。
その掌の上に、魔導書を顕現させる。
魔導書:迷宮女王レベル∞。
「それでは、迷宮女王――発動させていただきますわ」
発動宣言に伴い、聖女のドレスの裾から魔力が広がり――。
覆ったのは、イシュヴァラ=ナンディカ全土。
国を包み、地脈の魔力を強化するように作られた魔法陣の規模は強固にして十重。
国中に伝わる声で、迷宮女王……つまりダンジョンを支配する君主としての声で聖コーデリア卿は、詠唱していた。
「聞こえていますか、イシュヴァラ=ナンディカの皆様。わたくしはコーデリア。コーデリア=コープ=シャンデラー。キース陛下に依頼され、皆さまを守るべく参りました――どうか落ち着いて行動してください。ご安心を、陛下も宰相閣下もこの国の民を大事に想い、行動されています」
聖コーデリア卿による安全だと告げる声が続いている。
人々を落ち着かせる声ではあるが、この声の中には扇動の魔術も含まれていた。
悪くいってしまえば教皇や大司祭なども使用する、集団を操り指導する声。
ようするに、洗脳の一種でもあった。
もっとも、使い方次第で人を助ける力となるわけだが――。
道化師がぼそりと呟く。
「イシュヴァラ=ナンディカをダンジョン領域化し、支配下に置いたようですが……いやはや、とてつもない魔力ですね。それにその洗脳電波。聖コーデリア卿が一人いるだけで、国の乗っ取りすら容易いと賢い人間なら気付いてしまうでしょうが……大丈夫なんですかね、これ」
道化の言葉の通り、ダンジョン領域化されたイシュヴァラ=ナンディカに魔物が顕現し始める。
それは暗黒迷宮の魔物たちと同類。
聖コーデリア卿の眷属であり領民ともいえる、外の世界の要素を含んだ異物たち。
新たなコボルト達が、わっせわっせ!
コミカルな声と顔と、キュートな表情で駆け巡り始める。
陽気に見えるが彼らのレベルはそれなり以上に高い。
護衛として呼んだのが、魔物は魔物。
普通ならば民は怯える。
戸惑う。
発狂するモノとて、いた筈だ。
けれど、混乱は皆無。
コーデリアはこの魔物たちが味方であると民に告げると、民は疑うことなくそれを信じたのだ。
おお、聖女様の……いえ、救世主様の使いだと崇め始めるものまで出る始末。
既にコーデリアは人の枠ではなく、人のまま神の領域として認識され始めてまでいるのである。
「新しく顕現された魔物さんたちに民を守るようにお願いしておきました。ですが――」
「聖コーデリア卿、何か問題が?」
「どうも民を狙った行動ではないらしいのです。死亡した方をついでに蘇生しようかと……ダンジョンマップを確認したのですが。見ていただいた方が早いですわね、こちらをご覧ください」
聖コーデリア卿は自然なしぐさで空に指を伸ばし。
ススススス。
迷宮主としての権能を使用。魔術によるウィンドウを展開。
そこにはイシュヴァラ=ナンディカで生きる、全ての命の情報が表示されていた。
道化師が言う。
「ほう。これは、ダンジョン内のデータ表示ですね」
「ええ、全ての情報を記載しておりますの。それでなのですが、ここですわね。ここが味方の表示なのですが、一人もダメージを受けていない。つまり」
「なるほど、敵は民を狙っていない。木偶人形もそうでしたがあくまでも狙いは、転生者であるわたくしやそちらの喪服令嬢といったところでしょうか。まあ、喪服令嬢のお仲間であるキース青年や、わたくしの仲間判定を受けているだろう聖コーデリア卿やミリアルド元殿下も敵対判定になるのでしょうが」
ミリアルドが達観した修行者の顔で、考え。
「だが道化師殿がいなくともこの国は襲われた。今回の狙いはおまえというわけか、喪服令嬢」
「そのようですね、聖騎士様」
「そうか――ならばやはり、我等の考えは正しかったという事だろうな」
「どういうことです?」
兄妹であるが、もはや兄妹ではない二人。
その複雑な間柄などどうでもいいとばかりに道化が言う。
「よくお考えなさい。連絡が取れなくなっていたからここに来たと言ったでしょう? それはすなわち、伝えたいことがあったという事。さあ聖コーデリア卿! かくかくしかじかで説明してさしあげなさい!」
「道化師クロード……あなた、なぜそんなにノリノリなの? それにかくかくしかじかって……なに?」
疑問を浮かべる喪服令嬢に構わず、聖コーデリア卿が頷き。
かくかくしかじか。
と、事情を説明する話術スキルを発動する。
以前、この魔術で気絶したことのあるサヤカがいたら、ひっ、と後ずさった事だろうが。
かくかくしかじかの効果を受けても、喪服令嬢は変わらず。
キース国王も平気な顔を維持したままだったが――。
面白いことになると想像していただろう道化師クロードは、おや? と、道化メイクを顰めていた。
「おかしいですね、このスキル……外から入ってきた技術なのですが、術者の精神の影響を受けるので……聖コーデリア卿の天然ポワポワな思考をもろに受けて、バッドトリップするのですが」
「ああ、そういうこと。お生憎様ね、あたしはこの子のポワポワには慣れているから、そういう副作用があまりないんでしょ」
ミーシャ姫を殺すことで、負けイベを回避したがっている者が襲ってきている。
そんな可能性と事情を把握した喪服令嬢。
その横ではモブから昇格し、美麗で精悍となった王の顔を歪ませ口元を抑えるキースがいる。
だんだんと天然オーラに中てられ、脳を揺さぶられたのだろう。
頭痛をこらえるように鼻梁と額を覆った大きな手は、僅かに痙攣。
筋張った手の甲には強く眉間を抑える反動か、血管が浮かんで見えていた。
「じ、事情は分かりましたが……これは……っ、なかなかに……きつい、ですね」
「おやおや。わたくしが見たかったのはこちらの方の苦悶ではなかったのですが。まあ仕方ないですね。苦悶する、美形の王……これはこれで需要がありそうですし、撮影を……と。これでよし」
揶揄う道化はグラフィックを保存するスクリーンショットを発動。
かくかくしかじかによる精神汚染を受け、あからさまに弱るキース王の表情を保存。キャラクター名、キースと記されたフォルダに格納していた。
喪服令嬢が呆れた様子で言う。
「あのねえ、あなた……あたしの存在はあんまり公にはできないんだから。写真撮影とかやめて貰える? キースも嫌がってるでしょ?」
「写真といっても、ここはファンタジー世界。データ流出はありませんし問題ないのでは?」
本人は気付いているのだろうか。
道化は少し変化をみせていた。
ゲームの世界ではなく、ファンタジー世界と彼は口にしている。
それは聖コーデリア卿と接して、ペースを乱された影響かもしれないが。
彼は明らかに、変わっていた。
この世界を今自分が生きる世界として認識している、そんな空気を出すようになっていたのである。
「とにかく事情も状況も理解したわ。もともとイシュヴァラ=ナンディカは転生者や黒幕をおびき寄せるための釣り場。負けイベに備えるコーデリアの暗黒迷宮による雄たけびを、向こうが勝手に負けイベ開始と判断して行動してくれているのなら、都合がいい。相手の誤解を利用させて貰いましょ」
「ですが……」
かくかくしかじかの影響を受け、うぷ……っ。
バッドトリップ状態のキースが目の下のクマを自らの、”王の治療魔術”で治しつつ。
「あなたが過度な危険に晒される、それは……あまり良策ではないかと」
「国を作った時と同じ状態じゃない。何が不安なのよ」
「転生者たちがそれぞれ行動するのと、負けイベ発生と勘違いし一斉にここを狙ってくる、あるいは調査にやってくるとでは状況が異なります。プランを変更すべきです」
「大丈夫よ。あたしはそう簡単に死なないし、やることを為すまでは死ねないわ」
死ぬつもりもないわと喪服令嬢は引く気はない。
だが知恵者たる道化師クロードも少し思うところはあるのか、王と宰相の言葉に口を挟み始めた。
「この戦力です、ただの転生者や天使ならばどんな数でも問題ないでしょうが――相手がデバッグモードを使ってくるとなると話は別でしょう。おそらく黒幕と呼んでもいい、古き時代から天使を使い転生者を操り好き勝手にやっていた存在は――この世界を憎んでいる、恨んでいる、破壊したいと願っている。何を仕掛けてくるか分からないですから、あまり油断はされない方がいい」
「ま、確かにね……あたしの天使も、天使には何者かから命令が来ることを自覚していて、それに従っていた。魔猫師匠が”ミーシャの天使”から情報を引き出した時に言ってたみたいなのよ。何故かは知らないけど、黒幕はこの世界が嫌いなんじゃないかって」
転生者同士の会話が続く中。
聖コーデリア卿が瞳を細めて魔導書を抱き。
「難しいお話の途中で申し訳ありませんが、何者かが来ますわ」
転生者チートを使う両名が言う。
「敵? あたしの課金アイテムでの感知では何も反応はないけど……」
「はて、わたくしの開発者用のインチキアイテムにも反応は……」
コーデリアの言葉を信じすぐに動いていたのは、聖騎士ミリアルド。
盾と剣を召喚したミリアルドは、聖剣ガルムを抜き放ち。
ざしゅ。
玉座の間の床オブジェクト。金赤刺繍の目立つ魔力糸が編み込まれた絨毯に剣を突き刺し、吠えていた。
「偉大なる眷獣たるガルムよ――獅子さえ震え怯える叫び手よ! 我等を守れ!」
魔力糸の絨毯が大きな獣の影となり、遠吠えを発動。
それは詠唱の一種だったのだろう。
瞬時に張られた結界が、やはり瞬時に顕現した無数の影を弾き飛ばす。
次元の隙間から、次々に影はやってきた。
道化師クロードがぎょっと驚いた様子を見せる。
それもその筈だ。
襲ってきていたのは、以前も出会った無敵の存在。
木偶人形。
問題なのはその数。
「まずいですね……っ、前回はコーデリアさんのインチキで強引に仲間に引き入れましたが、この数は……っ」
「うわ、ゴキブリじゃないんだから、何匹いるのよ!?」
転生者コンビが突っ込む中で、やはり冷静にコーデリアが告げる。
「二百五十六、体ですわね」
「数の把握もダンジョン領域化の効果ってわけね、さすが過ぎるけど。それよりも敵の数が256って……昔のゲームじゃないんだから……っ、コーデリア、こいつらの説得は」
「無理ですわね――やはり今回も同じ存在が操っているのでしょう。前回の教訓と反省からか、説得不可能な属性が追加されておりますので――」
「そう、まずいわね……」
表情と正体を隠す喪服ヴェールの下で、焦りの声を漏らす令嬢に。
すぅっと手を上げ聖女が言う。
「城ごと破壊していいのなら、すぐに終わりますけれど……どうしましょうか?」
「どうしましょうかじゃないわよ、さらっと問題発言してんじゃないわよ! この城には利用価値があるから却下よ却下!」
クロードが言う。
「聖コーデリア卿、範囲の狭い攻撃魔術でどうにかできませんか? わたくしたちの攻撃は通用しませんが、あなたの魔術……おそらく異世界由来の魔術なら。デバッグモードの無敵も貫通できる筈なのですが」
「その。お恥ずかしいのですが――わたくし、手加減が苦手でして。できないこともないのですが、加減を間違えるとやはり、お城が」
よほど城自体にも利用価値があるのだろう。
喪服令嬢が拒否を示して吠えていた。
「あぁあああああああぁぁぁぁ! どんだけ破壊したいのよ! いや、わざとじゃないんでしょうけど! あなたっていつもそうよね!」
「ふふふ、懐かしいですわね。わたくし、そうやってよくあなたに怒られていました」
「こんな状況で懐かしんで喜ばないで! って、ますます喜んでんじゃないわよ!」
面と向かって苦言を呈されることに聖コーデリア卿は、微笑みを浮かべている。
いざとなったら吹き飛ばせるので、聖女には余裕があるのだろう。
もちろん、周囲の犠牲を計算に入れなければ、だが。
吹き飛ばした後で治してしまえば問題ない。
それが一門の教えなのだろう。
喪服令嬢は却下をしているが。
実際問題として、この無敵人形の山をどうにかしないと押し切られる。
喪服令嬢はキースに目線を送るも、まだ”かくかくしかじか”の影響で本調子ではない。
死なず、壊せず。
破壊したとしても何度も蘇るデバッグモード専用の木偶人形の群れ。
絶体絶命とまではいわないが、劣勢と考えたのだろう。
喪服令嬢が課金アイテムの追加を視野に入れる中。
動いていたのは兄たる聖騎士ミリアルドだった。
「下がっていてください、皆さん。私がやります――」
「にい……あなたでは無理よ」
喪服令嬢は冷静に応じていた。
単純な話。
どれだけ成長したとしても、配布キャラである兄では勝てないと判断しているのだろう。
ゲームを知る道化師クロードも同意見のようである。
だが。
聖コーデリア卿だけは、焦りをみせていない。
道化師クロードが開発者のアイテムを取り出しながら警告しはじめていた。
「おやめなさい、無駄死にしますよ」
「問題ありません。これくらいならば――」
無敵の敵を前にして、それでもミリアルドはガルムを翳し。
そして。
おもむろにガルムを放棄。
「え!? ちょっと兄さん!? ガルムは!?」
「必要ありません!」
装備していたもう片方の盾を振りかざし。
ゴン!
盾を鈍器として、次々に木偶人形を粉砕していく。
ゴンゴンゴン!
ゴゴゴゴンゴンゴン!
喪服令嬢と道化師が唖然とする中。
聖女が言う。
「ミリアルド様は魔猫師匠の弟子、わたくしの弟弟子ですので」
「そ、そう……兄さん。強くなっていたのね。え、でも……なんで盾で殴って、しかもふつうに、倒しちゃってるの、これ」
コーデリアは息を吸い。
最強の魔術師猫の弟子の顔で、一息で言う。
「なんでも、殺す勢いで襲ってくる修行相手……というか実際に殺してくる神々相手とずっと修行をしていたらしくて。攻撃を防ぐために盾方向の修行を積んだらしいのです。どんな攻撃でも盾で防げば死なない。その一点をまず鍛えたのです。神の攻撃すら防ぐ盾、それは最強の盾といえるでしょう。それは裏を返せば、どんな攻撃をも通さぬ結界。破壊されない結界。修行により得たスキルにより、破壊されないと定義されている盾スキルを習得したも同然。当然、破壊されない盾で叩けば、そこにいた存在、叩かれた相手は破壊されないと定義された盾を干渉力で上回らないと――逆に破壊されてしまう。なにしろ破壊されない盾に、空間座標を上書きされるわけですから……。破壊されない属性、無敵属性を持った相手であっても強制的に、世界法則、魔術式による計算式の影響で破壊されてしまう……っと、理論を説明しているのですが、なぜ頭を抱えているのです?」
喪服令嬢は言った。
「と、とにかく……あんたと同じで、異世界の異物の影響で、倒せるってわけね」
「ええ、あなたのお兄様は本当に強くなられましたよ。ご自分の意志で。前に進んでいるのです」
「そう――」
良かった……のかしら、これ。
と。
喪服令嬢が複雑な心を吐息に乗せて零す中。
ミリアルドによるシールドバッシュとも呼べる、絶対に貫通されない、壊れない盾による殴打ラッシュが続く。
無双シーンではあるのだろうが。
絵面が、わりと地味だからだろう。
妹としては、兄の成長を凄いと素直に褒めていいのか、悩ましい様子だった。
現代人と呼ばれる転生者からすると、モグラたたきのようにしか見えないのだ。
空気に呑まれつつも道化師クロードが言う。
「これ、やっていることは凄いですが、地味ですね」
「あのねえ……せっかく、あたしが言わないようにしてたことを言わないで貰えます?」
「けれど同感なのでしょう?」
「ま、兄さんっぽいっちゃ兄さんぽいけどね」
「元となったゲームのキャラは、配布キャラでしたしねえ」
同じゲームを知っているからこその共感と、唖然。
喪服令嬢と道化師。
ともに転生者である彼らの関係も、少しずつ変わり始めていた。




