第033話、姫と従者と黒猫と【ミーシャ視点】
魔皇が治めるとされる極寒の地。
魔力に満ち、獣人や亜人といった魔に連なる人種が多く存在する北の大地。
北部にも数は少ないが、純粋な人間種は存在する。
その貧民街の一角。
行政にも忘れ去られた孤児院の前にて。
今日ここに大きな変化が起ころうとしていた。
奇跡の御手と呼ばれる黒衣の令嬢が、治療費を払えぬ人間たちの病気や怪我を無償で治癒していたのだ。
その裏。
従者の男に向かい迫っていたのは黒いモフモフ。
太々しい顔をした猫が、キースと呼ばれる美麗な顔立ちのモブ男にクワッと警告していたのだ。
『というわけで――! 君たちを探しに私の弟子がミーシャ君のお兄さんを連れて、この地に向かっているから頭に入れておいておくれ』
この突如として現れた黒猫の名は魔猫師匠。
黒衣の令嬢ミーシャとその従者のキースに、北部に別の天使がいると教えた張本人であり――本当にどういう存在かも分からぬ謎の黒猫なのだが。
いつものように、あまりにも突然な言葉に困惑するキースは端整な顔立ちを顰め。
「というわけでと言われましても――」
『あれ? ”かくかくしかじか”っていう、事情を説明するスキルを使った筈なんだけど。この世界じゃ発動しないのかな』
「いえ、事情は理解できました。ミーシャ姫の兄上、ミリアルド殿下が暴走しコーデリア卿と呼ばれるようになった聖女に難癖をつけ続け、コーデリア様の領地に入り浸り数日。何度追い返しても帰ってきて、牢にぶち込んでもレディオークを攻略対象属性で誘惑し脱獄――ならば、もうミーシャを一緒に探しに行きましょうとなったわけですよね?」
『うにゃははははは! にゃ~んだ、ちゃんと伝わってるじゃないか!』
ネコ用コートを着込んだ魔猫師匠は雪の中で、ふわふわと飛行。
極寒の猛吹雪を背景に、シチューが詰め込まれた揚げパンをガジガジガジ♪
丸い顔ともふもふ尻尾の先には白い雪が乗っている。
「それよりも、魔猫師匠――やはりあなたはコーデリア様と繋がっているのですね」
『あれ? 言ってなかったっけ?』
「あなたはいつもそれですね……」
駆け引きや交渉術ではなく、本当に忘れているだけ。
だって猫だものと、魔猫師匠はいつもテキトー。
『まあ君達についても、君たちに依頼した転生者と思われる新しい天使についても君たち以外には一切、口外していない。そこは信用してもらっていいよ。私は魔族としての性質も濃い魔猫、契約には少しうるさいからね』
「いったい、何が目的なのですか? 逃亡生活を助けて貰えているのはありがたいのですが――」
魔猫は考える間もなく、あっけらかんと告げていた。
『答えてあげてもいいけど、君たち人間はいつだって理由を求めるね』
「それは――助けて貰っている身で生意気ではありますが、やはり……なぜ動いているのか、その理由を把握しておきたいと思う方が普通では?」
そーいうもんかな? っと漏らしつつも、魔猫師匠は追加のもちもちパンの紙袋をゴソゴソゴソ。
本当に、どうでもいいといった様子で淡々という。
『特に大きな理由はないさ、ここは私の世界ではないからね――正直言ってしまえば全部他人事。さらに身も蓋もないことを言ってしまえば単なる暇つぶし以上の意味などないさ。良くも悪くもね。あと、そうだね……いろいろとやらかし過ぎた君の主人がこの後どういう結末を迎えるのか、それには多少の興味はある』
「暇つぶしで他者の運命に介入していると?」
『おや、不満かい? けれど、君たち人間だって同じだろう? 子供のころに経験はないかな? 道を歩いているアリの進路に、棒を置いたらどうなるか。水をかけたらどうなるか、あるいはそれ以上の酷い事をしたり……逆に蜜をあげて運ばせてみたり。反応が違う個体があったりすると楽しかったりするだろう? ようするに君たちはアリの中でも稀少個体。これからどう道を進むのか、見る価値があると判断してあげているのだけれどね』
まるで自分が上位存在だと言わんばかりの言い方である。
享楽主義な猫であると、キースは僅かに不快感を露わにする。
「あなたは神にでもなったおつもりなのですか」
『おかしなことを言うね、ネコなんだから神そのものだろう?』
「この世界のネコは神ではありません、魔物や魔獣と呼ばれる四足歩行の低級モンスターの一種という認識が一般的かと」
あちゃあ、素人はこれだから困る。
そう言いたげな顔で、器用にネコ指を立てて魔猫師匠はチッチッチ!
『この世界じゃあどうかは知らないけど、少なくとも私がかつていた世界ではネコは神――最も尊きイキモノだって、多くの人間が言っていたよ。この世界の元となった乙女ゲームを作った世界の住人だってそうさ、ネコを愛し、ネコと共に暮らし、ネコを崇め生きている。なにしろスマホで毎日、億単位の回数をネコの姿を崇めるために活用しているぐらいだからね』
キースは考える。スマホとはミーシャ姫も使っている魔導板のことだろうと。
『ま、今の君たちに直接危害を加える気がないという点だけは保証するよ』
「それを信用していいかどうか――」
『けれど、君の主人は信用しただろう?』
「ミーシャさまはあれでいて純粋な方ですから――猫が嘘をついているとは考えないのでしょう」
治療を続けている黒衣の令嬢を見て、魔猫は複雑そうな顔で言う。
『根はいい子だったんだろうね。ま、やってきたことが極悪だったから私も過度な手助けはしない。けれど、天使については少し気になる。だから君たちを助けるついでに、贖罪の機会を与えて、更に助言までしてあげている。本当にそれだけの話だよ』
よ! 偉い、さすが魔猫の王! 魔猫の神!
と、肉球と尻尾を振り振り!
魔猫師匠は自画自賛の舞である。
「コーデリア様がこの魔境に来るのはよろしいのですが、そう簡単に来られるのですか?」
『あぁ……なんつーか、コーデリア君だからね……』
「あの、仰っている意味が――」
『師たる私がいうのも変な話だが、コーデリアくんはかなり特殊だからね。彼女の空気の読めなさと天然乙女パワーは、もはや特殊能力や運命改編の領域にまで昇華されている。彼女が魔境に赴きミーシャ姫を探すと決めた以上は、なんだかんだで直ぐに越境してくるんじゃないかな』
と、言った途端。
南の砦で、大きな爆音と爆風が発生している。
魔猫師匠とキースは人間とネコで顔を見合わせ――ぬーん。
さすがにこんな早さでやってくるとは魔猫師匠にも想定外だったらしく、師匠は丸い顔をブニャっとさせつつ肉球で空を叩く。
『いやいやいや、まさかまさか……』
肉球が魔術を描き――遠距離の場所を見る魔術、「遠見の魔術」を発動。
そこには魔物に襲われていた砦を守り、感謝される栗色の髪の乙女の姿。
むろん、コーデリア本人である。
魔猫氏、頭にぺちんと肉球をあてしばし沈黙。
『えぇ……。まーた私の予想の斜め上の行動してるし』
この得体の知れない魔猫すらも振り回す聖女を見て、キースが言う。
「一緒に居るのは……魔境の王……魔皇と呼ばれるアルシエル陛下ですね」
『あーっと……それって君たちが接触しようとしていた、天使所持者の候補だったっけ』
「はい、ここで地道に治療活動を続け――機会をうかがう筈だったのですが……」
『コーデリア君の場合は入国数分で、もうコネを作っちゃうと……ああ、宮殿に招待されているね。あの子、永続幸運倍増状態になっているとはいえ、あいかわらずぶっ飛んでるなあ』
そもそも私と出会った時も豪運だったし、と魔猫師匠は考え込んでしまう。
「どうかされたのですか?」
『いや、彼女は元から幸運値が高いがさすがにこれは異常だ。しかし、普段の彼女も運がいいとはいえここまでではない。となると……転生者による介入が生じた時に豪運が発生するんじゃないかなってね、そう仮説を立てていた』
「つまりはやはり、この地に天使がいて誰かの運命を弄んでいる可能性があると」
『ま、そこまでは分からないけれどね』
魔猫師匠はさきほどまでの陽気な声ではなく、敬虔な神父のような声を漏らし告げていた。
『そもそも悪意があって操っているのか、善意で操っているのかもわからない。例えばだがルートを知っていることで他者の運命を改竄する子がいたとして、それが善意による行動、誰かを助けるための改竄だったら私は別に悪いことだとは思わない。対処するのなら見極めてからじゃないと判断できないね』
「一つ、よろしいですか?」
『おや、なんだい』
「あなたはとても強い存在なのですよね? 気になっているのなら、何故ご自分で天使を探し討伐なり確保をしないのですか」
まっとうな質問に、魔猫師匠は困った顔をし。
『もっともな質問だ。けれどそうだね――質問に質問で返すのはルール違反かもしれないが、あえて聞こう。もし君が腰に下げた二本の従者の剣で、一切の形も崩さず、傷もつけず豆腐を掴んで持ち上げろと言われたら、どうだい?』
なにやら意味ありげな言葉であったようだが。
キースは後ろに撫でつけている従者ヘアーをポリポリ。
決め顔をしている魔猫師匠に申し訳なさそうに言う。
「あのぅ……。豆腐とは……?」
『って、ああ、そうか――この世界、豆腐は発展してないのか。こう、触るとすぐ崩れちゃう掴むのが難しい食べ物なんだけど。大豆をアレしてコレするんだが……ああ、うまく説明できないな。妙なところは食文化を再現してるのに、急にファンタジーな一面も見せるし、乙女ゲームってどうしてこう極端かなあ』
そもそも魔術の名前も、ただの闇の矢だったり。
回復の術Iとか。回復の術IIとか結構てきとうなのが多いし……と魔猫師匠が文句を言いつつ考える中。
空気が読めるキースは鼻梁に苦笑の色を乗せて言った。
「つまり、魔猫師匠は強すぎることがある意味で弱点――剣で豆腐を掴めぬように……天使を捕まえようとすると豆腐が壊れてしまうような現象が起こってしまうということですね」
『おお、君はなかなか頭が回るね!』
どうやら正解だったらしく、魔猫師匠は満足そうに髯をぶわっと広げ。
くははははははは!
『いやあ、強すぎるのも考え物だね~』
「そのノリで、こちらで暴れたりしませんよね……? あなたはなんというか、強さのわりに色々と雑なので少し不安になります」
『ま、暴れるといってもさすがに世界は数えるほどしか壊していないから安心しておくれ。それについうっかりでふっとばしちゃっても、ちゃんと全員蘇生させるから問題ないよ?』
魔猫師匠の笑えない冗談にキースは苦労人の顔で、眉間に濃いシワを刻み。
戻ってきた主人、ミーシャ姫に事情を説明した。
◇
事情を聞いたミーシャ姫の、黒い髪が吹雪の中で靡いていた。
むろん、今まで散々に苦労し――。
乙女ゲーム世界の時に使われていた、「名声」と呼ばれる魔皇と出会うためのポイントを上げていた黒鴉姫は、ぐぎぎぎぎ。
完全に顔面を硬直させ、一言。
「は!? なんなのあいつ……っ」
「まあ、コーデリア様ですから……」
「分かってるわよ! だからイラっとするんじゃない!」
一瞬にして、イベントをすっ飛ばし魔皇と接触したかつての友の登場に、頬をヒクつかせていたのである。
だが、すぐに顔を王族に戻し魔猫師匠を見上げて言っていた。
「魔猫様――ミリアルド兄さんがあの天然女と一緒に居るってのは、マジなの?」
『ああ、そうだけど……何か問題があるのかい?』
「大したことじゃないんだけど……兄さんって、昔、あの子にべた惚れだったから……」
昔を思い出すと同時に、自分の悪行も思い出したのだろう。
ミーシャ姫は治療で汚れた指も気にせず、黒髪を耳の後ろに流し。
「ま、それも全部あたしが邪魔して、愛を憎しみに変えさせて……潰しちゃったんですけどね……」
『ミーシャくんって本当に物語の悪役令嬢みたいなことばかりしてたんだね』
「分かってるわよ。でも、今更言い訳なんてしないわ――」
『そうかい。ならいいけれどね――君が贖罪を心の底から望んでいる限りは、まあ私もたまには手伝ってあげるよ。ポカポカ太陽でモフ毛を温めている間と、グルメ制覇ツアーをしている時は無理だけど。っと、イーグレットくんが夕食だって呼んでいるから、私はこれで失礼するよ』
言って、魔猫師匠の丸いモフモフフォルムが影となって消えていく。
魔猫師匠はいつでもこう。
神出鬼没で、出現したかと思えばこうやって勝手に消えてしまう。
本当に気まぐれな猫そのものなのだ。
消えた膨大な魔力の塊の残滓に、僅かに眉を顰めたまま。
ミーシャ姫が言う。
「イーグレットくんって、攻略対象のイーグレット様の事よね。あの魔猫……本当にいったいなんなの」
「少なくとも……拭いきれないほどの罪への贖罪を決めたあなたと、そうなってしまった境遇だけには同情している。それは確かでしょうね」
「どうしてわかるのよ」
「さあ何故でしょうか――」
「なによそれ――あー、うっざ。そういう思わせぶりなの一番嫌いなんですけど?」
どうしてキースに魔猫の心がわかるのか。
頭一つ分以上背の高いキースの顔を見上げるミーシャ姫には、それが分からない。
キースは黙して語らない。
語りたくないのだろう。
だがきっと。
空気が読めないコーデリアがいたらこう言っていただろう。
きっとキース様も同じ気持ちだからですよ、と。
だが聖女はいないので、その天然オーラが発動されることはない。
キースは周囲に目をやった。弱き人々がいる。
ここはまだ先ほどの猛吹雪の中。
孤児院の前。
魔猫師匠が去った後の冷たい空気の中、治療待ちの列を見ながらキースが言う。
「コーデリア様に先を越されてしまいましたが、どういたしますか」
「……そうね。それでもここではあたしの治療を必要としている人がいる。順番が早かった人だけを救って、遅れた人は見捨てるってのもどうかと思うし――最後まで治していきましょう。拠点を移すのはそれからでも遅くないわ。天使所持者候補の魔皇も、どうせしばらくはコーデリアの相手で忙しいでしょうし」
執事として過ごし、門番兵士だった時よりも翳と色気が増しているキースの表情は、苦く緩んでいた。
やはりこの娘は、弱者を見捨てなかった。
もはや助けるメリットはないのに、最後まで面倒を見てから行動すると決めた。
だから従者の表情は笑みとは違う、渋みの混じった苦笑になる。
そういう娘だから放っておけないのだと、自らの主人の顔を見おろしていたのだ。
視線に気付いた黒鴉姫が言う。
「なによ。文句ある?」
「いえ――私もあなたの提案に賛成です」
「そう、じゃあ悪いけど終わった後はよろしくね。たぶん、魔力枯渇状態になるだろうから――」
「畏まりました」
接触により魔力を奪うエナジードレイン。
魔猫師匠の力も借りて、寿命も奪わなくなったそれは効率の良い魔力補給手段となっている。だが少女にとってもはやそれはただの作業だった。
男にとっても、ただの作業。
けれどだ。
キースは、頷き――遠くの空を見た。
それはかつての故郷――クラフテッド王国の方角。
「あなたも災難ね、貧乏くじばかりを引かされて」
「いえ、代価は魔猫師匠から既に受け取っております――天使を全て探し見つける依頼料として、知人にお金を送って貰うように取引をしましたので」
珍しくミーシャがきつく眉を顰める。
「え? ちょっとキース、初耳なんですけど。あの魔猫様とそんな取引をして、大丈夫だったの?」
「どういう意味ですか」
しばし姫は考え――。
「あたしは魔猫様に言われたからあなたの手紙を添えて……送金したけど……。たぶんそれがあなたが言っているお金よね? いくらだか知っているの?」
「一生を暮らしていける額という話でしたが……」
「ちゃんと額を確認しなかったの!?」
天使捜索という、終わりの見えない依頼。
だから、まあそれくらい払ってもいいかと魔猫師匠は気軽に了承した、とキースは姫に語る。
魔術や契約を知っているミーシャ姫は、やはり不安そうな顔を継続して。
ぼそり……。
「大事なことだからもういちど確認するわ。正確に答えて。あなたが魔猫様からの依頼料として受け取ったってのが――あたしが転移装置を使ってクラフテッド王国に送った”魔道具とお金”でいいのよね?」
「はい」
「中を確認はしていなかったようだけど、依頼料と理解して一度は受け取った――それは確かなのね?」
「何か不味かったのでしょうか」
「んー……たぶんそれ契約として成立しちゃってるわね。推測する事しかできないけれど――あの魔猫、ああ見えてたぶん本物の異界の神よ。それもかなりの高位存在。それでね、神との取引ってのは最も高位な魔導契約なのよ。あなたと魔猫師匠とは既に契約魔術で繋がっている。天使をすべて見つけるっていう依頼をこなさない限りは、眷属状態になってると思う。まあ眷属化の副産物としてあなたには能力向上効果が付与されているでしょうけど――」
ミーシャ姫が魔術師としての顔で言う。
「あなた、嵌められたわね。言われた通りもう全部送っちゃったけど……あなたが受け取った依頼料には未知の魔導アイテムも多く含まれていた――控えめに言って、城が建つぐらいの金額があったわよ?」
「城ですか……!?」
「それも魔導契約の痕跡もあったから、おそらくは正式な契約が施されていたわ……。契約破棄には同価値の対価を払わないと無理だから……。あなた、全ての天使を見つけないと一生、あの魔猫の便利な小間使いにされるんじゃないかしら」
神や魔族との契約には慎重を期す必要がある。
魔導と呼ばれる概念を知っていれば常識だが、キースが扱える魔術は執事系統が中心。城を買えるだけの金と同じ対価を、働きによって返さないといけないと同義なのだが――。
人間が一生を働いたとしても稼げる額ではない。
理解していない様子のキースにミーシャは言う。
「本当に理解しているの? 結構大ごとなんだけど」
「はい――まあ、理解はしているのですが」
従者はさほど戸惑いをみせはしなかった。
「もしそうなら、私は一生、あなたと行動を共にしなくてはいけないのですね」
「は? なんでよ」
「あなたも贖罪のために天使を探し続けるのでしょう? 同じ過ちをする者が出ないように、そして悪辣な天使が同じ悪事を働かないように――ならば私はあなたと共にいることが効率的、一番の近道となります。あなたにとっても魔力補給手段を持つ私といると都合がいい。違いますか?」
なるほど、と納得し姫が言う。
「あなたもとことんツイてない人ね。まあ、魔猫様との契約はあたしとは関係ないし、そこまでは文句を言わないで頂戴ね。あなたの自業自得です」
「あの魔猫師匠はどうもお人好しで、お節介な性格みたいですからね。不思議と、あまり心配はしていませんよ」
「そう、まあ――あなたの人生だからあたしは気にはしないけど。魔術を嗜むものからの遅い忠告よ、契約はちゃんと内容確認をすることをお勧めするわ」
と、かつて天使との契約によって苦しめられた姫は、かつての自業自得を自嘲へと昇華させていた。
ミーシャ姫は一生、行動を共にするという言葉の意味も特に追求せず。
治療再開のために魔力を練り上げ始めていた。




