最終話
イシュヴァラ=ナンディカの地にて、千年を生きる国王キース。
美しい容姿で落ち着いた物腰。
けれど戦いともなれば苛烈な一面も見せる王には、とある伝説があった。
なんと異界の神々も参戦したというあのお伽噺。
ブレイヴソウルと呼ばれるこの世界の罪を拭う、あの戦い――最終決戦の生き証人だというのだ。
ある者はそれはただの噂だと言い。
ある者はそれはただのプロパガンダと言い。
ある者はそれは伝説ではなく事実だと言う。
ともあれキース=イシュヴァラ=ナンディカ一世が不老不死であることに違いはなかった。
そして少なくとも、誰か一人の女性を待っているという事も、確か。
世界は平和で満ちていた。
黄金獅子たる主神オスカー=オライオンと聖女コーデリア。
彼らが主神となって、どれほどの月日が流れているだろう。
異界の神々が約束した平和な時。
二千年は保証されている安定した治世の中。
男はいまだに待っていた。
キース国王の憂いを帯びた微笑は女の庇護欲を誘う。
一世の肩書のまま、千年間国を支え、民に幸福をもたらしているのだから――彼の伴侶の席を狙う者は、種族性別年齢を問わず多く存在した。
ある日。
国一番の知恵ある美女が言った。
治療も攻撃も補助も、全ての魔術を扱えるわたしをどうか、隣に置いてくださいましと。
玉座を守る王は言った。
すまないが、それはできない。あなたは国の宝です、私が独占していい人材ではないでしょう、と。
ある日。
国一番の武勇ある美男子が言った。
我を側仕えにお召し上げください、あなたの孤独をこの武芸を以って埋めてみせると。
王は言った。
私に君は勿体ない。それよりも、国一番の知恵ある美女が丁度ここを訪ねてきている。会っていってはどうか、と。
彼らは王の紹介を経て出会い、互いに気に入り結婚した。
彼らは王を敬愛していた。
王を愛していた。
だからこそ、夫婦で王を支えることにしたのだ。
どれほどの月日が経っただろう。
少なくとも、四季を数十回は通り過ぎていた。
側近へと成長した彼らの子どもが言う。
「伝説の聖騎士ミリアルド様がお見えになられておりますが、いかがいたしますか?」
「ミリアルド殿下がかい?」
「殿下……? でございますか?」
「ん? ああ、すまない。ミリアルド殿下はかつて存在した国家、クラフテッド王国と呼ばれる国で皇太子だった聖騎士。つい、昔の癖でしょうね。私は今でもたまに、殿下と呼んでしまう事があるようです」
国はあの伝説の英雄の来訪に騒然としていたのだが、王は毅然としたまま。
それが当たり前のような顔で。
キース国王は穏やかな笑みを崩さず応じていた。
側近が言う。
「それで、いかがいたしましょうか――今は本人かどうかを確認できる者もおりませんので、丁重にお待ちいただいているのですが」
「そうだね、すぐにお通ししておくれ」
「畏まりました」
側近が言う。
「あの……」
「なんだい」
「王よ――父と母から聞いたのですが、王があの伝説の悪女、ミーシャを待っているという話は、本当なのでしょうか?」
伝説にあるクラフテッド王国の名が出たからだろう。
だから側近は珍しく、王に問いかけたのだろう。
なにしろ彼の父と母は生前、キース国王にその生涯をささげていた。
彼らは安らかな最期を迎えるその日まで、王を敬愛していた。愛していたのだ。そんな両親を見て育った側近は思うのだ。
こんなに素晴らしい父や母に愛されていて、それでも伴侶とする事を断った。
王は言ったらしいのだ。
待っている人がいるのです、と。
ならば、と息子は思った。
クラフテッド王国が実在したのなら。
聖騎士ミリアルドが本当に、まだ世界のために動き続けているのなら。
あの伝説はお伽噺ではなく本当の事なのではないかと。
千年と五十年前にあったとされる、最終決戦。
あの物語は全て、史実なのではないかと。
だから聞いてしまった。
ミーシャを待っているのかと。
王は遠い昔ではなく、昨日を眺めるように瞳を閉じ。
「おそらく――そうなのでしょうね」
まるで他人事のような言い方だった。
けれど、様々な深い思いが込められた言葉だった。
外から入り込んでくる太陽の光が、キース国王の端整な顔立ちを照らしている。
側近は無礼を詫びた。
すぐに通されたのだろう、聖騎士ミリアルドがやってきた。
怜悧で鋭き黒虎のような印象の、肌に多くの切り傷痕を浮かべる美丈夫だった。
側近は言われずとも席を外そうとしたが、王がそれを引き留める。
伝説の聖騎士がどのような男か見てみたい、そんな側近の心を汲んだのだろう。
王は伝説の聖騎士に向かい、頭を下げていた。
「お久しぶりですね、ミリアルドさん。最後にあったのは……いつだったでしょうか」
「五十年ほど前だったと記憶しております」
「それほど経っていたのですね――また魔猫師匠が絡んだ案件で動かれていたのですか?」
「……あの方絡みの事件ですからね、いかんせん規模が大きい」
想像できないことが想像できたのだろう。
王は端整な顔立ちに苦い笑みを浮かべていた。
「それで、本日はどのようなご用件で」
「あなたがいつまで、待っておられるのか……。我が師、大魔帝ケトス殿。そして我が上司、ホワイトハウル殿も気にされておりました。様子を見に行けとは言われなかったのですが、言外の含みとばかりに、耳と髯を蠢かされておりましたので。それで立ち寄ったのですが」
キース王が僅かに眉を跳ねさせる。
「ホワイトハウル様……裁定の三獣神にして白銀の魔狼。最終決戦の折に顕現された、力ある獣神の一柱。今はあの方の下で動いておられるのですか」
「善を為すには、師匠よりもあの方の下の方がいいだろう――と、いつのまにかそういう流れに」
「三獣神はいつものように、ミリアルド殿下に相談なくお決めになられたと」
お察しの通りですと、伝説の聖騎士は動きこそみせなかったが――露骨に頭を抱えている様子。
王が言う。
「殿下も、いつまで贖罪の道を歩まれるつもりなのですか」
「終わりなどありません」
「もう、十分責任は果たされたと私は思いますが……何を言っても、考えを変える気はないのでしょうね。それと同じです、私も考えを変える気はありませんよ」
「そうお答えになるとは思っておりました」
王に聖騎士が言う。
「ですが、既に千年の時が経っております。もし転生し戻ってくるのなら、もう……可能性は低い」
「いいえ、そうは思いません。彼女は寝起きの悪い方でしたから」
「たしかに、姫殿下が目覚めないが起こすのが怖い、殿下、どうか姫様を起こしてくださいませんか? などとメイドたちに頼まれたことがありました。もう、千年以上も前の話になるのに、あの日の出来事はいまでも鮮明に思い出せる。ミーシャ、彼女はとても、良くも悪くも人の記憶に残る存在だった」
「起こしても怒られ、起こさなくとも怒られましたね」
思い出話に、二人の端整が花を咲かせる。
しばらく談笑した後。
聖騎士ミリアルドは姿勢を正し、神の眷属としての声で告げた。
「千年続く王国イシュヴァラ=ナンディカ、喜びの国の王。キース=イシュヴァラ=ナンディカ一世。大魔帝閣下からの伝言を読み上げます。君は確かに不老不死だ、一生を待つことができる。けれど、もう自分を許し、自分の人生を歩んでもいいのではないか。いつかを待つのは、もう終わりにしよう――と」
「待つなと、そういいたいのですか」
「妹が帰ってくるなどという保証はありませんので」
「それでも、私は待ちますよ」
男は玉座の上で、悪女が帰る場所を守るとばかりに笑みを崩さぬままだった。
結局、説得には失敗した。
それからまた二十年が過ぎた。
側近がその息子の代に代わっても、王と聖騎士だけは変わらない。
聖騎士ミリアルドはまだ諦めないのですかと、王に言う。
王は答えた。
「またあの話ですか」
「喜びの国の王は良い王だ。善政を維持し、民草の声を拾い、誰にも平等で、誰にも公平で、けれど時に民が悪さをすれば叱る――素晴らしい王だ。けれど、かの王は誰にも心を開かない。二度と戻らぬ伝説の悪女を、ミーシャを待ち続けている。王の時計は、あの日で止まっているのだ……と、そんな歌を、耳にしました」
歌と聞きキース王が言う。
「サヤカ嬢の子孫にお会いしたのですね」
「あの方のように燃えるような赤髪の、そして当時の魔皇陛下を彷彿とさせる甘いマスクの……とても立派な青年でしたよ。民からの評判もすこぶる良いと聞いておりますが」
「あの方々、最終決戦の英雄の血族ですからね。きっと、期待されているのでしょうね」
「キース王、あなたにも血族ができる事を望んでいる民は多い。今朝、ここを訪れる前、あなたの部下に言われてしまいましたよ。王は誰にでも優しいが、とても……寂しそうな方なのだと」
誰しもがもういいだろうと言う。
さすがにもう、いいだろうと。
それでも。
同類を眺める瞳で、王は言った。
「それでも、心は変わらない。いえ、変えられないというのは……ミリアルド殿下、あなたが一番ご存じな筈です」
「では、こうしましょう」
「なんですか、いきなり」
「キース殿、あなたがもう諦めるのなら、こちらも諦めます。既に十分にやったと、自分を納得させ――諦めます」
聖騎士ミリアルドの提案への答えは、やはり変わらない。
待ち続けるキース王は言った。
「でしたら話は早いですね。あの方……彼女が帰ってくれば、兄殿下であるあなたも救われる」
「キース殿」
「駄目なのですよ。どうしても……私には彼女の色が、声が、仕草が……忘れられない。どれほどの時が経っても、どれほどの出会いを通り過ぎても。あの不器用で、見栄っ張りで、けれど、どこかが抜けている。そんな彼女の事が、どうしても……消えないのです」
人々は王の言葉と顔を拝謁し。
誰しもがこう、思っただろう。
王は、今でも彼女を愛しているのだ――と。
また五十年が過ぎた。
百年が過ぎた。
五百年ほどが過ぎたころ。
使われていた硬貨も、言語にも変化が訪れていたがキースの心は変わらなかった。
王と聖騎士は、変わらず何度も語り合う。
あの日々の思い出を。
あの伝説の日々を。
いつまでもキース王は彼女を忘れない。
聖騎士ミリアルドの贖罪も、終わらぬままだった。
頑固で不器用な、二人の端正。
その物語は終わらない。
◇
ある日、その魔猫は思い出した。
カラスと同じ色の、雌猫はふと、太陽の中で思い出した。
生まれてくるその時、親でもない、太々しい顔の黒ネコに言われた言葉を思い出したのだ。
そこは昏い闇の中。
まだ命になる前の空間。
『やあ、初めまして。私は……いや、自己紹介は省こうか。誕生おめでとう! さっそくだが君には試練がある。どうやら君の前世の前世の前世の……まあ千五百年以上前の君の前世が、とても悪いことをしてしまっていたらしい。だから、君は何度生まれ変わってもすぐに死んでしまう運命のもとに生まれていた。今回もきっとそうなのだろう。けれど、いつまでもそれじゃあこちらも困ってしまう。最初はきっとついていない事ばかりが起きるが、そこはそれ、アフターサービスはしっかりするつもりだよ。おや、何を言っているのか分からないと言った顔だね?』
太々しい顔の猫は、ごめんごめんと肉球を振り。
『ともあれ、いいかげん君が目覚めてくれないと、どうもあの二人は諦めというものを知らないらしいからね。本来ならいけないのだが、少しだけ、君の人生、いや猫生に手を貸そう。君は今これから生まれてくる。五匹の子猫の一番下の妹猫だ。けれど育ちが悪そうだからと、親猫に捨てられてしまう。弱肉強食。強くなれそうにない命は切り捨てられる……それが厳しい野性の猫の掟だからね』
太々しい顔の猫は、ご安心だよとフフン!
『だけど! 今回は! にゃにゃにゃんと! 君の誕生を事前に主神に伝えておいた。いやあ、さすが私。直接介入すると怒られるなら、他人に任せればいいじゃない! 完璧な作戦だね?』
生まれる前の魔猫は、にゃんだ……この変な猫はと引き気味であるが。
なぜだろうか。
遠い昔。
前世の前世の、そのまた前世でこんな図々しくコミカルな猫と出逢ったことがある、そんな気がしてきていた。
太々しい黒猫が言う。
『ああ、やはり君がそうなんだね。うん、確信した。だから君に祝福を授けよう、長く生き、多くを頑張った彼らへのご褒美だ。ぶっちゃけ、さすがに千五百年以上も待つなんて、私も想像してなかったし……。ロックウェル卿には見えてたのかな。まあ、卿はそういうことを口にするタイプじゃないからなあ』
腕を組んで、にゃぁ……とため息をつく黒猫はくるりと身を翻し。
『産まれたら、まずは太陽……温かい方向を目指して進み給え。君は草の中に生まれて、そのまま死ぬ運命にある。けれど、きっと、彼らなら君を導いてくれる。なに、なんであんたの言うことを聞かないといけないのよ! だって、にゃははははは! その調子だ、懐かしいね、君のその声は。おっといけない、雑談している暇はなさそうだ。そんなに睨まないでおくれ、文句があるのならちゃんと育って、私を思い出して直接言いに来ることだね』
言って、太々しい顔の猫は闇の霧となって消えていく。
子猫として生まれたその魔猫は、予言通り、冷たい草の上で産み捨てられていた。
けれど、何故だろうか。
まるで全てを包む、慈愛に満ちた温かい風が魔猫を淡く包んでいた。
まるで全てを愛する聖女のような。
そしてまるで、全てを照らす太陽のような黄金色の輝きが。
二つ寄り添って、生まれたばかりの魔猫を包んでいたのだ。
魔猫は神の加護を受けて産まれていた。
だから、産み捨てられ死ぬ筈だったが生きていた。
魔猫が自由に立って歩けるようになった頃、目の前に黄金色の獅子が現れた。
獅子が言う。
『ようやく目を開けたのか、ったく、何年も待たせやがって』
獅子の背に乗る美しい美女が言う。
『まあ、そんな言い方駄目ですわ。ふふふふ、初めましてでいいのかしら。わたくしはコーデリア、こちらはオスカー=オライオン様。わたくしとこの方はセットで一つの神性、この世界の主神です』
胡散臭い女と男だと、歩けるようになった魔猫はカラスのような獣毛を膨らませ。
あ、そういうのいいんで……と、見なかったことにして立ち去ろうとする。
慌てて獅子が前に立ちふさがる。
『おいおい、まあ待て。また何百年も待たされたらこっちがヤキモキしちまうだろう。いいか? おまえさんにはしばらくの間、神の加護を授けてやる。どんな困難でも負けない心を得られる、ライオンハート。主神たるオレの恩寵だ』
『わたくしからはこちらを……』
言って、神々しい美女が手を翳す。
『かつてあなたが最後に所有していた権能。願いを叶えるビナヤカの力です。きっと、今のあなたなら悪用せずに良いことに使って下さるでしょう。だって、わたくしのお友達なんですもの』
『いや、いいのかこれ……世界のバランスが崩れたりしねえか?』
『それほど長続きしない力ですから、問題ないと思いますわ』
美しい聖女が、瞳を閉じ。
魔猫を抱き上げ、こつんと額をつける。
『さあ、新しくも懐かしい命よ。この世界で最も強い願い、強い祈りを感じ取って歩いてください。ライオンハートとビナヤカの力があればきっと、あなたはたどり着けるから。だから、彼らの心を救ってあげて』
一方的に告げた彼らは、いつの間にか消えていた。
草原に、獅子の足跡が残されている。
足跡に沿って行けというのだろう。
こちらへ行け、あちらへ行け、ここで休め、ここでミルクを飲め。
まるで神に先導されているようだった。
カラス色の魔猫は仕方なく道を進む。
どれほどの旅だっただろう。
生まれたばかりの子猫であったが、神の祝福のおかげか、彼女は長い旅路を歩くことができていた。
魔猫は長い旅路の果てに、どこか懐かしい空気の場所についた。
人々で賑わう綺麗な国だった。
文字は読めそうにない。それが文字だとは分かるのだが、何故か読むことができない。
知っている言語と違うのだろう。
けれど一つだけ、古い門に書かれたその名だけは、読むことができた。
イシュヴァラ=ナンディカ。
喜びの国の王が治める、伝説に名を残す都。
旅をしてきた魔猫の瞳が、くわぁぁぁぁっと広がる。
獣毛が、ぶわぶわと膨らんでいた。
全てを、思い出したわけではない。
けれど、なぜだか誰かが待っている、そんな気がして心が跳ねるのだ。
体も跳ねていた。
魔猫は駆けていた。
街を駆けていた。
肉球に触れる感触は、温かい。
太陽が道を照らしているのだ。
魔猫とは強力な魔物。だから子猫とはいえ、突然かけてきた魔猫に門番たちが慌てて動き出す。
捕まってしまった。
王宮にまで入り込んでいたのに。
魔猫は叫んでいた。
力強く、叫んでいた。
ニャーニャーニャーと、魂が誰かを呼んでいた。
あそこに行きたいの。
邪魔をしないで。
もし彼が待っているのなら、言わないといけないことがあると。
叫びは、王宮に吹き込んだ暖かい風に乗って運ばれたのだろう。
音がした。
手にしていた書物を落とす、音だった。
そこには――あの日と変わらぬモブ兵士、キースの顔があった。
魔猫は全てを思い出した。
あの日々を思い出した。
あれからどれほどの月日が流れているのか、彼女には分からなかった。
けれど、言語が変わってしまう程の時間を、彼は待っていたのだろう。
それが嬉しくもあり、とても申し訳なくもあり。
だから、魔猫は男の胸の中に飛び込み、ニャーニャーニャーと泣いたのだ。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
こんなに待たせてしまって、本当に……ごめんなさいと。
いつかのあの日には言えなかった言葉だった。
ごめんなさいと言えなくて。
道を踏み外してしまったのに、今ならば何度だって口にできた。
けれど所詮はネコの言葉。
まだ幼い魔猫の彼女には、人間の言葉を発する魔力はない。
けれど――千年と五百年以上を待った男には、言葉が通じずとも理解できたのだろう。
キース王。
伝説の女性を待ち続ける、喜びの国の王。
かつて世界を救った英雄の一人。
いつも微笑みを絶やさぬ王は。
泣いていた。
ぎゅっと、魔猫を抱きしめ……。
それが彼女だと確信したのだろう。
「ああ、やはりそうだった。私は――あなたを愛しているのですね」
王は涙と共に、自らの恋を自覚した。
男の涙が、黒い獣毛に吸われていく。
かつてミーシャだったネコは、男の髪を慰めるように舐めていた。
ミーシャだったネコは言葉の代わりに、額と頭を何度も王に押し付ける。
ああ、どうか泣かないでキース。
笑ってちょうだい。
せっかくの再会なんですから。
どうか、泣かないで。
ゴロゴロゴロと喉から音が鳴っていた。
言葉にしたいのに、まだ言葉を出すことができない。
それでも言いたいことは伝わるのだろう。
男はぎゅっと唇を噛み。
微笑んだ。
おかえりなさいと。
千年以上の時を超え。
いつかのあの日のように――。
【完結】
▽本日の更新をもちまして、今作は完結となります。
不器用な男女の恋物語&異世界アニマルたちの珍道中をお読みいただき、
ありがとうございました!
楽しんでいただけたのなら幸いです。
本日の更新をもちまして、
不帰の迷宮から始まった物語は完結となりました。
不器用な男女の恋物語&異世界アニマルたちの珍道中をお読みいただき、
ありがとうございました!
※もしここだけを見ているという方は、全154話となっておりますので、
お時間があるときにご覧いただけたら幸いです。
▼これからの更新について。
本作完結の前後に新連載「天才レイドの幸福なる一生」を開始いたしました。
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ハイファンタジーではありますが、
今作は珍しく最強スタートではなく成長モノです。
ついでにタイトル詐欺です。天才は天才ですが、その後の文が怪しいです。
女神に死ぬほど愛される男主人公レイドくん(作中美形設定)の人生を綴る、夢と希望はあまりなさそうな、ゼロからの冒険譚です。
今までとは少し作風が異なる、実験的な作品かもしれませんが、
こちらもチェックしていただければとても嬉しいです!
それでは最後となりますが、
お読み&応援いただき、本当にありがとうございました!!
ご意見、ご感想、誤字脱字の御連絡などとても励みになっておりました!