第141話、◆不帰の迷宮に帰る者◆―その2―
◆【SIDE:オスカー=オライオン】◆
不帰の迷宮にて三獣神を探していた若獅子と恐竜魔物。
オスカー=オライオンの前に出現したのは、長身の獅子にとっては小型な魔物。
足元サイズの白くモコモコな鳥魔物だった。
一見すると、ぬいぐるみ。
ファンシーにしたコカトリスの亜種。
世界観があまりに違い過ぎる存在である。
赤い鶏冠と雄々しき立派な尾羽を持つ、二足歩行の鳥であるが。
あきらかに、存在が異質だった。
それは大魔帝ケトスを見た時と同じ感覚。
言うならば、この世界が巨匠が描きし英雄譚の挿絵ならば、その中に、突如として現れた別の挿絵……童話の中の愉快な生き物。
別世界の存在としか思えぬ、シンプルなつくりのフワフワがそこにあったのだ。
だが。
それがただの鶏の筈がない。
極悪な魔物しかいないこの不帰の迷宮にて、極悪な魔物すら怯え隠れてしまうほどの魔なのだ。
周囲に魔物の気配はない。
遠くから眺めているのみ。
ただ一つある魔物の気配は、神鶏を相手に平伏し続ける恐竜魔物だけ。
ファンシーで愉快であるからこそ、それがとてつもなく――。
悍ましい。
実際、若獅子オスカー=オライオンは言葉を失っている。
選択を間違えれば終わる。
そんな直感があったのだ。
シリアスな獅子の顔を覗き込み、コミカルな鳥の目を細めて頷いたニワトリは――。
鶏むねを見せつけ。
広げた翼をバサァァァァァ!
『クワワワワワワ! 良いぞ、良い! 声を出せぬほどの緊張か、これぞ畏怖! だが、それでは話も進まぬというもの――許す、余の前で矮小なる汝の発言を許す。疾く述べよ!』
「お、お目にかかれて光栄であります。その、話はすでに把握されていらっしゃると考えても……よろしいのでしょうか」
絞り出した声は掠れていた。
乙女ゲームの登場人物、美貌なる王太子オスカーの肌に浮かぶ汗が、勝手に落ち続ける。
それは圧倒的な魔力への本能的な恐怖。
海に落ちた泳げぬ子犬が、周囲を泳ぐサメを前にしたような――絶望に近い威圧感のせいだった。
『ふむ――本当になにもせんから安心するがよかろう。余は偉大なる存在であるが、鳥ゆえの特徴からは逃れられん。俗にいう鳥頭……余は全てが見えるが故、どーでもいい多くをすぐに忘れてしまう性質があってな。だが案ずるな、そんな余であるが――友からの言葉だけは忘れぬ。友猫からは相手は泳ぎ方も知らぬ、脆弱で矮小なる小童だから寛大にと、余も子ども相手への対応を頼まれておるのでな』
「こども、でありますか……」
『不服か?』
「い、いえ――」
選択を誤ったか。
そう思ったが、よほど大魔帝ケトスからの紹介という効果は重いらしい。
悍ましきニワトリの態度は比較的に柔和だった。
『ふはははははは! 本当に駆け引きを知らぬ小僧のようだな! ケトスの言うておった通りだ! なに、案ずるでない。これでも善処して子どもと呼んでやったのだ――余の気遣いと知れ。たかが二十年程度生きただけの、小さな世界の、小さな国の王太子など! 余やケトスにとっては赤子も同じ! ケトス直々の声と頼みでなかったのなら、汝など道の小石ほどの存在感もない、塵芥と同義よ』
まるで王者や皇帝のような高笑いをあげた後。
さて、と振り返りニワトリが言う。
『ケトス直々の頼みであるからな! 今宵の余は気分が良い、実に良き! 普段であれば余の行進の邪魔をしたと、余の石化睨みにより、永遠なる石化状態にしてやるところなのだが。今宵は許す! それよりもだ、汝が余の力を貸すに値する存在か――その審査が終わってはおらぬ』
「審査で、ありますか?」
『うむ! 肝心なことを貴様は忘れておる。余の言葉を忘れたか!? 余は、余を見よと言ったのだ!』
ほれ、もっと見よ! とばかりに――ふぁっさふぁっさ!
踊るように、ふぁっさふぁっさ!
立派なふわふわ尾羽を振り、もう一度。
ふぁっさふぁっさ!
鶏冠に魔力をともらせ、三歩、歩いた鶏が言う。
『どうだ、素晴らしかろう?』
「た、大変、素晴らしくそして絢爛であるとは……」
『むむ……? なんだ。含みのある言い方ではあるまいか? というか……きさまは誰であったか。はて、ケトスからなにか大事な用を言い渡されていたような、おぼろげな記憶があるのだが』
悍ましきニワトリが、コケケ?
顎の下を翼で掻きながら、頭上にハテナを浮かべている中。
恐竜魔物が若獅子オスカーの耳に顔を近づけ、ぐふふふふふ。
パーティー機能による耳打ち、外部に漏れない会話を発動させる。
『(ロックウェル卿様はほぼ全てが見えるが故、どうでもいいと感じている存在の事は本気で忘れてしまう癖があると聞いておる。おぬし……まだロックウェル卿様の眼中に入っていないとみえるな。まずは個体識別していただける程度の好感度を稼がなくては、堂々巡りとなるやもしれんぞ)』
「(最初からやり直しって事か!?)」
声に出さずに獅子が吠えると、恐竜魔物は首を竦めてみせ。
『(我が主の紹介でなければ、今の時点で消されておっただろう。やり直しができるだけ、ありがたいと思うしかあるまい。かの御仁が自ら名を名乗る程度の好感度を稼げれば忘れないと、そう伝承にはあるとされておるが……)』
「(……そりゃ確かにやり直しできるってのはありがたいが、どさくさに紛れてオレの髪を食うな! 食むな、頬を舐めるんじゃねえっての!)」
耳打ちのついでにペロペロしていた恐竜魔物を押しのける若獅子。
押しのけられても構わず、ペロペロしようとする恐竜魔物。
『良いではないか、良いではないか! 減るものでなし!』
「髪を食われたら減るだろうが!」
『ダンジョン籠りでワイルドに伸びた髪も気に入っておるが、短髪も似合うであろう!? 我は知っておるぞ! 長髪キャラの短髪化! 隠れていたうなじが見える! インテリヤクザのような鋭い瞳からの、生え際までのラインも良し! 短髪オールバック美男子からしか得られぬ栄養がある、それもまた萌えと知っておる!』
「転生者どもみたいな阿呆なことを言ってるんじゃねえぞ、この駄恐竜!」
『ぐふふふふふふ! 怒った顔も精悍、眼福眼福!』
もはや耳打ちではなくなっていた。
そんな変なコンビをコケェ……っと眺め、首を横に倒し鶏が言う。
『おい貴様、何か知っておるか? というか、小僧! 何者だ! 極悪なるケトスのダンジョンでコンビ漫才など、正気とは思えぬ! 名を名乗る許可をやろう!』
本当に忘れているらしい鶏閣下から問われ。
グググググっと恐竜の顔を押し返しながら、若獅子が唸る。
「――ワ、ワタクシはオスカー=オライオン。大魔帝殿から最も信頼厚き御友人をご紹介いただけるとご神託を受け、ここに参った次第でありますが」
『大魔帝の友!? おう、そうであったな! 貴様が奴が言っていた聖女に懸想を抱いておる、オスライオンか!』
「オ、オスカー=オライオンにございます閣下」
『貴様の名などどうでも良いが。思い出した、思い出したぞ!』
ビシ! ズバっとポーズを取り。
ニワトリは翼を広げ、デデーン!
『余はかつて魔帝であったもの! 全ての次元、全ての時空、全ての可能性を観測し続ける監視者。全てを見通す霊峰の大怪鳥。かつて魔王軍にて、友と共に勇者と戦いし魔。三獣神が一柱、神鶏ロックウェル卿とは余の事であるぞ!』
許す、疾く褒め称える権利をくれてやろう!
そんな偉そうな言葉でふわふわ羽毛の胸を張り、コケケケケケ!
ロックウェル卿と名乗る鶏はドヤ顔の構え。
そのまま鳥足を上げて、ツツツツツ。
鳥の舞を披露し続けている。
あっさりと名乗り上げを受けることに成功したオスカー=オライオンは唖然。
「あの、ロックウェル卿様」
『まあ待て、余の舞はまだ終わってはおらぬ。話はそれからだ! ケトスと再会した暁には、宴! その余興にて、余は余の強化された舞を披露しようと思うておるのだ! 見よ! この麗しき舞!』
「は、はい。承知致しました……」
マイペースが過ぎる。
そして。
踊る鶏の表情はどことなく大魔帝ケトスのドヤ顔と似ている。
同類なので間違いなく、彼こそが未来を知るケモノ。
探し求めていた存在だろう。
この時、若獅子オスカー=オライオンは思った。
強大な獣神には、こういうギャグっぽい連中しかいないのか……と。
恐竜魔物が短い手でオスカー=オライオンの髪を叩き。
『どうだ、我のおかげであろう?』
「いや、ぜってぇ偶然だろう」
『結果としてロックウェル卿様に名を覚えて頂けたのだ、問題はあるまい』
言いながらも恐竜魔物は短い手を伸ばし。
くいくい!
「なんだ、その手とその眼は」
『褒美をくれても良いな?』
「褒美って、金か? そりゃあ構わねえが、一度オライオン王国に戻った後でなら」
『違う、金などではない! オスライオンは騎士の心得を忘れておるのではあるまいか? 淑女の手の甲に、キッスを落とすのが、ドュフ! 褒美というものであろう!?』
それは英雄譚によくある一ページ。
騎士による感謝の口づけ。
忠義のキス。
それで恐竜魔物への報酬となるのならと、オスカー=オライオンはダンジョン探索で伸びた髪をわしゃわしゃと掻き。
「分かった、分かった。ちゃんとしてやるから、お前、名前は?」
『名前だと? 求愛か?』
「ちげえよ、バカ。あのなあ……オライオン王国の騎士は感謝する相手の名を口にしながら、その清らかな乙女の手の甲に感謝を示すんだよ。相手の名を告げること……つまり魔術対象を名指しする事で対象に王家の祝福が発動する、それがこの行為の始まりだとされている。知らなかったのか?」
恐竜魔物はメモを取りつつ、頷き。
『ほう! それは新情報! おそらくは裏設定であろうな!』
「裏設定……って、まあいい。ほら、おまえさんの名を教えろ。早くしねえと、ロックウェル卿様の踊りが終わっちまうぞ」
『そうであったな、我の名はオガサワラ=ハルミ』
さあ、早くチッスを寄越せ。
と、短い恐竜の手を差し出すハルミ。
その名の違和感に気付いたのだろう。
「オガサワラ=ハルミ……?」
『ハルミちゃんと呼んで良いのだぞ?』
オスカー=オライオンは、真顔のまま。
けれど、ぞっと冷たい感覚に背筋を凍えさせていた。
その独特な名には覚えがあった。
「転生者みてえな名前だが、まさか……おまえ」
『うぬ? 気付いていなかったのか? 我等は皆、かつてこの世界に召喚されたモノ、あるいは召喚に失敗して次元の狭間に取り残されていたモノ。あの日、あの時、異世界からやってきた大魔帝ケトス様がいなかったら、永遠に、次元の狭間からこの世界を眺めつづけていた、転生者であるぞ!』
賢い獅子は気が付いた。
だが恐竜魔物は平然としたまま、早くせよと恐竜の尾をブンブンブンと揺らしている。
単語が、浮かんでくる。
王族が召喚していた?
失敗していた?
嫌な予感が、頭の回転の速いオスカー=オライオンを苦しめる。
王族ゆえに、彼は様々な文献を知っている。
表にはだされていない、世界の暗部の噂を耳にしていた。
名もなき魔女の物語。
戦禍の魔女の、その真相の噂。
王族に伝わる、外道なる術のために多くの生贄があったという、史実。
「ハルミ……おまえ、何歳なんだ」
『乙女に年齢を聞くなど無礼であるが、まあオスライオンと我の中だ。特別に教えてやろう。オガサワラ=ハルミ、十五歳。花の女子高生なのだ!』
獅子が顔を俯かせたからだろう。
ダンジョン籠りで伸びた前髪が、美麗な王太子の表情を消していた。
若獅子の唇だけが動く。
「……。大魔帝がくるまで、いつから、ずっと……どこにいたって」
『次元の狭間ぞ? 最初の二十年ぐらいは時を数えておったが、途中で飽きてな。数百年と経った今、いつだったかと言われても、我にはもう分からぬが。ぐふふふふ! あの日、大魔帝閣下がおいでと誘ってくれたのだ! 次元の狭間に閉じ込められていた我等を、迷宮の魔物へと転身させることでお救い下さったのだ! こうして推せる男と再会できた、あの日のゲームのキャラと出会えた。ああ、大魔帝閣下には感謝してもしきれぬと……』
恐竜魔物が、震える獅子を覗き込む。
『なぜ、そんな顔をしておるのだ?』
「分からねえのか……?」
『もしや、我がこっそりとオスライオン氏の手甲を舐めていたのが、バレた?』
あ、あれは違うのだ。出来心でと――あわわわわ。
頭を下げる恐竜魔物。
その顔を強く抱いて――オスカー=オライオンは唇を震わせていた。
◆
手の甲に騎士の口づけを受け。
狂喜乱舞する恐竜魔物がドュフフフフフっと走り回る裏。
踊っていた筈の、ロックウェル卿が告げる。
『酷い顔だ――それでも乙女ゲームの登場人物か』
「この世界は、ゲームじゃねえだろう……」
『その通り。どうやらオスライオンよ、そなたは顔に似合わず……想定しておったよりは賢く優しい男であるようだな。少々、優しすぎるのが弱点であるように思えるが――いいだろう、力を貸してやる』
「なあ、鶏閣下。あの恐竜魔物……ハルミもそうだが、他のネコが正体の連中も」
大魔帝ケトスが作り出した、迷宮全体を眺め――マップを表示し、魔物を示す無数の赤い点を点灯させ。
とても、静かな声で。
コミカルさを捨てた、冷徹な貴族の声音で。
ロックウェル卿が言う。
『このダンジョンの魔物の正体はブレイヴソウルと呼ばれし邪霊。この世界を正当なる恨みをもって破壊するモノたち。大魔帝ケトスの眷属とされる、世界を滅ぼす力を持った悍ましき黒マナティー……その荒魂が姿を変え、魔猫となっている状態にあるのだろうて』
王太子が女教師から預かったにゃんスマホ。
そのモニターに、オガサワラ=ハルミと異界の文字で書かれた画面が表示される。
名前の横には、恐竜の顔をしたアイコンと呼ばれるモノが並んでいる。
オガサワラ=ハルミと呼ばれていた者が、恐竜の姿をアバターとして使っていたのだろう。
おそらくは他の魔物達も同類。
「これは、オレたちの世界のせい……なんだろうな」
『――如何にも。こやつらは皆、キサマたちに殺されたも同然の亡霊であろう。だが、ケトスの戯れに触れ……そう邪悪なものではなくなっておる、今だけはな。ほれ、今もなんだなんだと此方を眺めておるではないか。まるでネコのようであろう?』
やはりそうだったと、王太子の背が揺れる。
王太子としての顔でオスカー=オライオンが振り返ると。
そこにはやはり、無数の魔物の気配がある。
赤い瞳が、無数にある。
ウニャニャニャっと声がする。
こちらの様子を興味深げに探っているのだろう。
『もう察しておるようだが――不帰の迷宮の魔物達、彼らは皆この世界の次元の狭間に漂っておった、転生者の成れの果てなのだ』
「オレが助けていた連中とは……違うのか?」
『あやつらはこの世界が誕生するきっかけとなった神……歓喜天を祖とする歪な魔像が”良かれ”と思って転生させたモノ。言うならば創造神から直接に許可を与えられ、次元を通ってきたモノたち。だから通過もできた、転生も可能だった。だが、ここにいる転生者たちは違う。彼らは皆、この世界の未熟な転生魔術により呼ばれた――違法な手段で召喚されようとしたモノたち』
「失敗した……ってことか」
全てを観測するニワトリの瞳が、煌々と赤く照っている。
『賢き王族……黎明の神々の末裔たる汝には、思い当たることがあるのだろう?』
「まあ……かつての王族が、異世界から勇者を呼ぼうとしていた話ぐらいはな。それも遥か過去の事、ただの昔話。黎明の神々から伝えられた異世界の存在と、召喚魔術の記述……今では眉唾物だと断定されている。本当にな、もうそれはただのおとぎ話なんだが……ハルミたちにとっては……」
ずっと、次元の狭間にいたのだ。
彼らは。
ふらりとやってきた大魔帝ケトスが狭間にいた彼らに、気まぐれに手を伸ばし。
この極悪迷宮と契約という形で、救い出すまでは。
それがどれほどの孤独だったか。
どれほどの恨みだったか。
獅子の腕が、ギシリと鳴っていた。
「そりゃ……誰も帰さず、殺したくもなるだろうな――」
ネコという戯れの姿を捨てれば。
おそらく、彼らはその本性を取り戻し、世界の全てを呪うのだろう。
『――ブレイヴソウルの誕生には必ず加害者が存在する――転生という存在を祖霊から聞き、それを私利私欲のために使おうとした愚か者たちがいたのだろう。世の理というもの、事象は全て繋がっておるのだ。この世界の王族、彼らの未熟な異世界転生魔術により召喚され犠牲となった、勇者と呼ばれる器を持った異世界人。その魂は強力だ。いずれ、この世界を蝕むほどの邪霊となるのは間違いない。まあ、この迷宮で遊び、楽しみ、その邪気も少しは治まっているであろうが……』
「あなたの友、あの魔猫閣下は、はじめから全てが分かっていた、ということでしょうか?」
彼らの荒魂を鎮めるために、この迷宮を生み出した。
そう考えると辻褄が合う。
この迷宮の魔物がこの世界の住人を殺すには、正当な理由があるのだから。
『さて、どうであろうか――あやつはその豪運ゆえに、結果としてそうなるという事例も多い。だが、余をわざわざ呼んだという事は、おそらく、ある程度は事態を把握しておるはずだ。さて、余はまずおまえに神託をくれてやる。心して聞くが良い』
「お願いします――」
頭を下げる王太子に頷き。
ロックウェル卿はこともなく告げた。
『このままだとこの世界は滅ぶ。負けイベと呼ばれるイベント……壊されるために作られたこの世界を創造神が壊す儀式。その終わりのイベントが発生する際に解き放たれる、こやつらによって――世界は終わる。まあ、因果応報ともいえるがな』
ロックウェル卿が示すのは、ダンジョンマップに浮かぶ無数の赤。
不帰の迷宮の魔物。
転生者の、亡霊。
世界は、ブレイヴソウルによって滅ぼされる。
「どうにか、できないのでしょうか――ハルミたちの事も、コーデリアの事も」
『難しい話であるな。どれか一つを救うとなると未来の可能性はいくらでも存在する。しかし、全てを救うとなると、それには力が足りなすぎる。だが、そうだな――この世界の主神たるコーデリアを利用するならば、或いは……』
「コーデリアが主神!?」
『うぬ? おう、そうか! すまんすまん! その辺の事も、おぬしはまだなーんも知らんのだな!』
動揺に吠える獅子に三獣神が一柱は頷き。
長い話を語りだす。
それは、この世界の成り立ちからエイコ神の事。
そしてコーデリアの正体。
大魔帝ケトスですら知らぬ事実を、ロックウェル卿は事もなく語る。
誰よりも何よりも早く。
全ての真実を獅子に伝えたのだ。