第117話、終章―ラスボス―
蠢く天。
昏い空。
初めにそれに気付いたのは誰だったのだろうか。
簡易的な無敵状態が発動する世界。
それが創造神エイコによる保護、恩寵だと既に世界は知っている。
それは同時に、世界の終わりが始まる合図でもあった。
戦闘経験、実戦経験に優れた元傭兵ベアルファルス講師は昏き天を仰ぎ、端整なクマ顔を驚愕に染め――言葉を漏らす。
「なんなんだ……あれは、いったいっ」
イシュヴァラ=ナンディカの城から見上げる空。
負けイベの前兆だと澱んだ雲。
それは荒れた魔力による天候変更状態だと皆がそう思っていた。
けれど違った。
昏き天が、まるでイナゴの群れのように蠢いていた。
天、そのものがである。
会社としてのイシュヴァラ=ナンディカから声が響く。
赤き舞姫サヤカの声だった。
『聞こえていますか、皆さん! わたしはサヤカ、皆さんの前で踊りを披露したことのある踊り子です。今、わたしは創造神たちの世界からあなたたちに語り掛けています』
「これは、踊り子の嬢ちゃんの声か」
頬に汗を浮かべながらも緊張と動揺を押し殺すベアルファルス。
その漏らした呟きに応じるように、悠然と玉座に鎮座する賢王イーグレットが言う。
「サヤカ嬢と魔皇アルシエルにはこの世界、全ての国、全ての街と村に公演を依頼したからな――見るものすべてを魅了する踊り、魅了されずとも心には残る踊り。あの者の踊りと歌は必ずや記憶に刻まれている。そして転生者であることも既に周知のとおり。多少不思議な力が使えたとしても不思議には思わぬ。故に、民はあの者の声を信じる、メッセンジャーとして最適であろうからな」
「ほぅ、てめぇの仕込みだったっつーわけか」
「ふむ、賛辞も称賛も心地良きものであるが――よさぬか、褒めるのは終わった後にせよ――ともあれ、サヤカ嬢の言葉を軸にこちらも動く。異論はあるまい?」
異論がないからこその無言の頷きが返っていた。
サヤカの説明が響く。
今、世界に生きる者たちには無敵状態が付与されている事。
創造の神々は今、大急ぎで儀式を行っている。
今の簡易的な無敵状態を更に強化し、完成した無敵状態へと昇華させ――更に全員を強化する事。
だから、今は無茶をしないで欲しいと声が響く。
大衆を振り向かせるための声。
踊り子としての性質を活かした声。
だが、そんな声が僅かに揺らぐ。
『いいですか、落ち着いて聞いてください』
敵についての説明があるのだろう。
サヤカ自身も緊張しているのだろう。
既に解析で、敵の概要が少しは伝わっているのだろう。
声の前に聞こえたのは、ほんの僅かな、筋肉の筋が動く音。
唾を飲み込む音だろう。
サヤカは事実を伝える声で、しかし極力、緊張や恐怖を倍増させないようにしながら。
告げた。
『あの昏き空、全てが倒すべき敵。負けイベで発生した敵だと鑑定されました』
「あの空が、敵だと!?」
獣将軍グラニューの声が響く。
耳と腰の先から延びる獣毛が、ぶわっと逆立っていた。
城に配置されているコボルト達の獣毛も、ぶわっと逆立っている。
全員が、空を見上げただろう。
イシュヴァラ=ナンディカで待機している者だけではなく、全世界、全国民が、一斉に。
目視されたことで敵も”見られた”と反応したのか。
昏き空が。
嗤っていた。
クススッスススススス!
くすすすすすすすすす!
ォギャァッァァア。オギャァァァァァ。
それは――子どもの声。赤子の声に聞こえたのではないだろうか。
ぐぎぎぎぎぎ。
分厚い雨雲。雷雲を纏う黒。
その黒の隙間から、肉ごと血を擂り潰したような赤が浮かび上がってくる。
赤。赤。赤。
赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。
赤。赤。赤。赤。赤。赤。
赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。
赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。
赤。赤。赤。赤。赤。赤。
赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。
赤。赤。赤。赤。赤。赤。
ただただ、赤いソレが地上を見下ろしている。
其れは魔力の光。
だが、天を見上げたものには瞳に見えたのではないだろうか。
天を覆っていたのは雲ではない。
空を浮遊する正体のつかめない魔物が、折り重なりあい。
泳いでいるのだ。
まるで、黒い人魚のように。
転生者であるミーシャが、正体隠しのヴェールを乾いた吐息で揺らす。
「なによ、あれ。あれはいったい。なんなのよ」
それは奇しくもベアルファルス講師と同じく、理解できない事への叫びにならない困惑だった。
ただアレがとてつもない存在だとは理解できるのだろう。
おそらくヴェールの下では乾いた息による湿りが、肌を僅かに濡らしているだろう。
名もなき魔女が鑑定の魔術を発動させ。
ばしん!
鑑定の媒介としていた水晶が、割れる。
「レジストしおっただと……っ」
「仕方ないわ。距離が遠すぎる……あれは、あたしには黒い色をした、イルカとか……マナティー。顔のない、人魚のように見えている。名もなき魔女。あなたには?」
「我には……水子。生まれてくることのできなかった、生者を恨み続ける精子のように見えておる。だが、たしかに無貌の人魚。そう形容できなくもないが。おぬしは知っておるのか?」
「知らないわよ、あんなもの、見たこともないわ……っ」
武器であり、魔道具である烏の黒扇を強く握りながら、ぞっと語るミーシャ。
そんな彼らの困惑を知ってか知らずか、サヤカによる声が続く。
『我々は太陽を覆う、昏き雲を倒さなくてはなりません。一体でも倒し損なえば、それらは何度でもリポップします。申し訳ありませんが、それ以上は……鑑定名も、能力も。ただ、その一匹一匹がキマイラタイラントのような、いえ、それ以上の強大なエリアボスと思ってください』
ミーシャが、言う。
「キマイラタイラントって……コーデリアが魔境で倒した、あれよね? あれより強くて、正体も不明な敵が何体いるって言うのよ!?」
「強ぇボスが一体湧くもんだと思ってたが、なるほど、そりゃあ数の指定もねえだろうからな。強敵が一体とは限らねえ、無限に近い程の数の敵がいても――おかしくはねえってことか。はは、マジかよ」
ベアルファルス講師の声は、僅かに震えていた。
強者だからこそ相手の強さが理解できているのだろう。
『敵の数も、すみません。あまりにも多くて膨大で、観測しきれないのです。ただ、昏き天、暗雲はこの世界の空全てを覆っています。空、全てです。そちらの世界のフィールドを確認したところ、太陽の光によって発生する日光系のフィールドはゼロ……つまり……』
聖騎士ミリアルドが冷静な顔で空を眺めたまま告げる。
「本当に、世界そのものを邪霊にも似たこれらが覆っている……そういうことでしょうね。しかし、この魔物……どこかで見たことがあるような」
訝しむ聖騎士ミリアルドに応えたのは、聖コーデリア卿だった。
「わたくしにも覚えがあります。あれは外の世界の魔物、邪霊の頂点ともいえる存在でしょう。確かに師匠のコピーと言える存在かもしれません」
弟子であるコーデリアの目線を受けた魔猫師匠は、肉球で頬をポリポリ。
『あぁ、なんというか。これ、たぶん無理だね』
「ちょっと、無理ってどういうことよ!」
『そう大声を上げないでおくれ、ミーシャ君。彼らを私は黒マナティーと呼んでいるが、まあ私の同類さ。私の世界では無貌なる人魚、ブレイヴソウルと呼ばれている邪霊なんだ。転生が存在する、或いは行われていた世界に導かれて発生する――生まれてくることができなかった、勇者の魂。転生する際に世界の境界線、次元と次元の隙間に取り残され誕生できなかった転生者の水子。それが彼らの正体だよ』
まあ今だと魔物に分類されているけれどね、と。
魔猫師匠は目の前に無数の未知なる魔導書を顕現させ、バササササササ!
高度で複雑すぎる魔法陣を同時に発生させ、それぞれ性質の異なる三十冊以上の魔導書を同時に詠唱している。
魔猫師匠を中心に、深淵の底まで浸るような、ぞっとするほどの濃厚な魔力が回転し始める。
同時並行詠唱の応用なのだろう。
詠唱と同時でありながら、その口からは器用に言葉が伝っている。
『結論から言おう。私はアレに手を出すことはできない』
「は? なんでよ!」
『私は女子供、特に悪意のない子どもに手を掛けることを禁じられていてね。あれらは子供であり、悪意のない存在。ただ救ってほしくて、遊んでほしくて世界の隙間で揺蕩っている存在だと言うこと。と、一応の理由はそれなんだが、もっと重要な事情がある』
さらに追加で百冊を超える魔導書を顕現させ、更に同時に詠唱を開始させた魔猫師匠が言う。
『それでもあれを倒さなくてはならないだろう。だからこそ、君たちは一度自分で敵の性質を知るべきだ。おそらく、全世界同時に、アレの迎撃に人類が協力した国家単位の極大攻撃魔術を放つだろう。それが実にまずい、非常にまずい。っと、言っている間に開始されたね――』
魔猫師匠が言っている言葉。
手を出すことができない事情とは別の、戦闘面でも手をだせない事情。
賢王イーグレットは察したのだろう。
「いかん! サヤカ嬢! 攻撃を停止させよ――!」
言葉は遅く。
対応は僅かに間に合わず。
全世界同時に、空に向かって国家単位の極大魔術が解き放たれた。
そして、それらは空を泳ぐ黒い人魚たちを直撃。
……。
することはなく、暗雲の中に吸い込まれ、回転。
放たれた極大魔術は黒き人魚たちのおもちゃのごとく、グルグルと回され――。
あとはもう、理解した者が大勢いたはずだった。
放った極大攻撃魔術は、その規模を数倍に膨らませ。
空を覆うブレイヴソウル、黒天の海が。
嗤った。
空が全員同時に、反射能力を行使したのだろう。
その数も、規模も天文学的数字となる。
「魔術反射――!? やべえ、防御結界を急げ――!」
ベアルファルス講師の叫びは遅く。
光が――世界を包む。
それは、まるで太陽に呑まれていく惑星。
世界の終わり。
星々の全滅。
世界は数倍にされ返された魔術反射により、その幹を軋ませる。
▽世界は全滅した。
本当に、皆。
死んでいた。
世界そのものが蒸発し、その影響で主神たるコーデリアでさえ消えている。
生き残っているのは、聖騎士ミリアルドだけ。
守りに長けた男は、周囲を見渡した。
ほんとうに、全滅していたのだ。
「そんな……っ」
『おや、やはり君は生き残ったんだね。ミリアルドくん』
声は昏い世界で聞こえていた。
何もない世界である。
聖騎士ミリアルドは額から大きく血を滴らせ、崩壊しかけた盾を支えに立ち上がる。
彼の後ろにあったはずだった。
彼が守りたかった、コーデリアも消滅している。
何もない世界に、魔猫師匠だけが浮かんでいた。
「師匠……これは」
『全滅だよ。見ればわかるだろう?』
「みんなは」
ネコの口が淡々と事実を告げる。
『死んだよ』
今頃冥界は大騒ぎだろうと、神たる声で告げるのみ。
ミリアルドの頬に、涙が伝う。
「私はまた、守れなかったのですね」
『そんなことはない、君が生き残っているじゃないか』
「私は! 私は皆を守りたかったのです! たとえ私自身がどれほどに傷つこうと、図々しい亡国の愚者と誹りを受けようともっ、それが、彼女を、コーデリアを、そして我が国と民を苦しめた私の贖罪っ。おめおめと生き続ける恥知らずな人生を続けていた理由だったのです。それなのに……っ」
魔猫師匠が瞳を閉じる。
『ああ、知っているよ。だから私は君に修行させた。弟子として受け入れた、その願いは本物、その後悔も本物。その責任を果たすべく燃やした心も、その慚愧もすべて私は知っている』
「師匠は、知っていたのですか」
『なにをだい』
「敵の事も、こうなる事も。神エイコや、ビナヤカの魔像様の事も。全て……知っていたのですか」
それは弟子だからこそ分かる答えだったのだろう。
魔猫師匠は強大な闇。神――大魔帝ケトスとしての声で言う。
『さてどうであろうか――未来は変動し続けるもの。観測した時点から、禁呪クラスの魔術を使えば揺らいでしまうもの。だが、そうだな。弟子たる汝に隠しておっても仕方あるまいか。見えていた、とは言っておこう。我は大いなる闇。三千世界とて単騎で揺るがすことが可能たる、三獣神が一柱。敢えて語らぬ、敢えて知らぬと見て見ぬふりをすることもあったのであろうな』
「いつから……」
『聖コーデリア卿が聖コーデリア卿と呼ばれるよりも前。あの日、あの時、あの者の額に触れ――その存在に触れた時には既に、この光景までは見えておった。それが神というもの、それが大魔帝ケトスたる我という存在。故にこそ、我は多くの楔――フラグをこの世界に打ち込んだ。多くの命と出会いを果たした。この結末を変えるため、いや……汝らがこの結末を変えられるかどうか、多くの種を蒔いた』
巨獣と化した魔猫師匠が、大きな咢を蠢かす。
『しかし、所詮は悪あがきに過ぎんかったか。残されたのは汝のみ。世界と世界とを繋いでおった影響で、イシュヴァラ=ナンディカでは魔皇アルシエルもサヤカも滅んでいるだろう。そして、栄子もまた同様。これが終わりの歌、我が友たる全てを見通す三獣神、ロックウェル卿が観測した終わりの未来。我は悪事をなした姫……ミーシャの成長により道は変わり、この確定されし終わりも回避できると天秤にかけたが――賭けは我の負けであったようだな』
魔猫師匠の裏――大魔帝ケトスの奥にて。
蠢く影が無数にある。
その中の一柱。
白銀の獣毛を靡かせる魔狼、大魔帝ケトスと並びうる神格を持つケモノ。
白銀の魔狼が、唸りを上げていた。
『ケトスよ、汝の負けだ。遊びはもう良かろう、帰るぞ』
『ホワイトハウル、そなたも負けた賭けであろうて』
『ふん、貴様がこの世界の人間を信じるなどと言うから我もそれに乗ってやっただけ。くだらぬ、実に下らぬ。こうなるのならば、初めから、書類仕事に飽きたと脱走した貴様を、無理やりにでも連れ帰っておけば良かったわ。悍ましき所業をみせつけおった愚かなる姫や天使、転生者どもの連帯責任として世界ごと焦土と化し、連れ帰れば時間を無駄にせずとも済んだであろう』
白銀の魔狼が消えた世界を一瞥し。
『さあ、ケトスよ。時間切れだ、これが夢の終わりと知っておろう。いつまでも下らぬ世界を守護している義務も義理もあるまい。汝はどうしても見捨てられぬと粘っておったが、ここまで種を蒔いても翻らなかったのだ。どう足掻こうとも、終わりの夢は変わらぬさ』
『さて、それはどうであろうか』
『――過剰な介入、これ以上は看過できん。何故、このような生き物たちに味方をする。上位存在たる我らが動けば、後の未来に大きな影響を与える。我等の気まぐれは時に人を救うであろう――だが、反面、新たな滅びを招くであろう。安定を欠いた世界となろう、その揺らぎが三千世界全てに波及すると知っておろう。我は断言する、この世界にそこまでの価値はない』
神として、神のルールがあるのだろう。
他の獣神達も、これ以上介入するのならば止める。
そんな気配を抱いて、蠢き始めている。
それほどに、既に魔猫師匠はルール違反を起こし、この世界に有利になるように動き続けていたのだろう。
この終わりを終わらせるために。
しかしそれも終わり。
彼らは魔猫師匠を連れ帰ろうと、魔力を放ち始める。
だが魔猫師匠は、あの日、コーデリアと出逢った時の姿と声で言った。
『拾ってしまったからね、彼女を。あの日、私は――彼女を見捨てることができなかった。一度拾ったからには、責任を持ちたい。それが私の答えだよ――私はこの世界を見捨てない。たとえ、君たち全員と敵対しようとも――』
空気が。
変わる。
魔猫師匠が亜空間から取り出したのは、玉座と王冠。
燃えるような外套と、そしてネコの瞳をした石を先端に嵌めた、猫目石の魔杖。
それは魔猫師匠が本気となった時に装備する神器なのだろう。
白銀の魔狼も同じく、牙の形をした三人の女神が連なった形状の杖を、無から取り出し。
コゥゥゥゥっと瞳を赤く染め。
『主より授けられた正装か。ケトスよ、我ら全員と、やる気か――』
『愚問だね。私は私の好きなようにやる、いつだってね。さてそれでは、いつものあれをやろうか。私たちにとっては矮小で脆弱で、くだらない世界にしか見えないが。それでも私は、この世界が気に入ったよ。その過ちも、失敗も、不出来も――全てを私は認めよう、全てを私は愛そう。寝床を作ったのなら、それは既に私の領域。ここはもう私の所有物。知っているかい? ネコっていう気高き存在は、自分の所有物を奪われるのは我慢がならない生き物なのさ』
告げた魔猫師匠は、周囲に無よりも濃い闇の霧を発生させ。
ざざざ。
ざざ。
ざあぁぁあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!
『我はケトス、大魔帝ケトス――偉大なる御方に仕える、魔。すなわち、殺戮の魔猫なり!』
名乗り上げそのものが詠唱となり。
人間という器では理解できない領域の魔術が、同時に展開されていた。
そのまま魔猫師匠は、尾を利用し魔術を並行発動。
世界が滅ぶ直前。
数百冊にまで倍増していた浮かんだ魔導書。
本を前に詠唱していた魔猫師匠が、その魔術を解き放つ。
『さあ、立ち上がりたまえ人類よ。世界よ、君たちはまだ諦めてはいないのだろう――これは一度限りのコンティニュー。世界の全てをあの時に保存しておいた、記憶を持ったまま、あの時あの時間に戻り給え。時間は稼ぐ、あとは君たち自身の手で攻略するんだ』
魔猫師匠が時間逆行の魔術を操りながら。
くはははははっといつものドヤ顔を浮かべる。
『これが君たちの最後のクエスト。そして君たちのはじまりの物語だ。さあ、私に見せておくれ――君たち人類の魂の輝きを、まぶしい心の光を――』
「師匠!」
『ミリアルドくん、君ならばできるさ。今度こそ――道を間違えないように、前を向き歩くんだ! さあ、世界を救い給え!』
負傷だらけの、血まみれの聖騎士ミリアルド。
その伸ばす腕に滴っていた血が、体内に戻っていく。
そのまま昏く染まっていた世界も――。
次元と時間のはざま。
神による介入を止めるべく、魔猫師匠を連れ帰ろうとするケモノ神達。
そしてまだこの世界を守護するとルールを破り、粘る、魔猫師匠が戦う中。
全てが魔術反射される前の時間へと。
▽コンティニューしますか?
モニターが表示される。
三千世界と恋のアプリコットに埋め込まれた、魔猫師匠による細工だろう。
それがおそらく、時間逆行に必要な最後のスイッチ。
そのボタンを押せるのは、たった一人生き残った聖騎士ミリアルドのみ。
男は必死に手を伸ばした。
「コーデリア、今度こそ――君を!」
そして世界は巻き戻る。