第113話、願いの終わり【黒幕視点】
これは恋を知らない栄子が恋を知るための物語。
だからすべてが始まった。
その終わりは、栄子が恋をするためだけに作られた道化師クロードを救い、愛を取り戻す。
それが幸せな終わり。
ハッピーエンドというのだろう?
と、黒幕たるビナヤカの魔像は菩薩としての一面で、慈悲ある笑みを浮かべている。
ニコニコ、ニコニコ。
アルカイックスマイルを保ち続ける象の頭、象兜装備の瞳を輝かせ――ビナヤカの魔像は悪意なく告げる。
『さあ、愛を知った者よ。恋を知った、哀れではなくなった娘よ、世界を壊しあの男を取り戻せ。さすれば願いは全て達成される、我に与えられし契約も終わる。あの男をあの世界に奪われおよそ十五年、汝が二十歳の頃であったか――汝はおよそ十五年の月日を、あの世界に干渉することで過ごしてきた。あの男を救うために、歩み続けた。人の一生は短い、二十歳となった女性の十五年は重い。故に、十五年の歳月、その重みに比例した愛を得られると我は確信しておる。繰り返す、もう一度汝に道を示そう』
ビナヤカの魔像は叶え続ける。
あの日の願いを叶え続ける。
終わらぬ願いを、叶え続ける。
『さあ、あの世界を破壊し――愛する男を救い出せ。これは全て、汝のための恋物語である』
そんなのあんまりだと。
もう一度。
栄子は言葉を零れ落としていた。
「どこから……、いえ、先輩は、いつから……」
『いつから? いつからも何も、あの男は初めからこの世界には存在してはおらん。エイコよ、あの男は汝が愛を知り、恋を知るための偶像。人間の魂を持ち、人間の心を持ち、人間として作り出された存在だと言っているだろう? 何が不満なのだ、何を震えているのだ。汝は、何故』
ビナヤカの魔像は困惑した顔で告げる。
『泣いているのだ――』
空間に、女の涙がこぼれている。
涙の粒が浮かんでいる。
嗚咽が、空気を揺らしている。
『なぜ喜ばぬ?』
ビナヤカの魔像には分からないのだろう。
なぜ栄子が嘆いているか。
なぜ栄子が震えているのか。
「――そんなの嘘っすよ、だって先輩はあたしに笑ってくれて。鬱陶しいって思ってくれて、それでもあたしの理論を理解してくれて……意図も、全部、全部。それが、全部、作り物だったっていうんすか」
そう全てが理想の人間だった。
だから栄子は恋をした。
しかし、それも栄子のために用意された、クラスメイト全員の恋が叶う――その願いを成就させるために作られた、恋するために作られた人間だったなど。
『いつか恋をしてみたい。ゲームのような恋をしてみたい。ああ、でも……自分には無理っすね。汝は心のどこかでそう思っていた。知っていた、自分には恋などできないのだろうと。事実、ほぼその通りであった。なれど、それではあまりにも哀れではあるまいか。恋をしたくともできぬ、一度だけでいい……恋をしてみたい。それも汝の本音だったはず。汝の願いだったはず。故にこそ、我は汝の承諾もあるものだと判断したのだが?』
「誰もここまでしてほしいだなんて言ってないっすよ! そもそも、勝手に心を読んでっ、勝手に決めつけるなんて、頭どうかしてるんじゃないっすか!」
栄子が矢継ぎ早に叫んでいた。
「あたしに恋をさせるために、そのための人間を作った? 恋を自覚させるために新しい世界を作って、その世界に奪わせた? それで、何もかも知らない、踊らされていたあたしがっ、あたしがっ、あの壊されるために作られたあの世界を壊して――っ、それで先輩を救って、二人は結ばれハッピーエンド? クソゲーっすよ、そんなのっ、なにひとつ擁護もできないクソ恋愛ゲーっすよ!」
『クソゲーが好きなのだろう?』
「それはゲームだから笑えるんすよ。もし現実だったらっ、そんなの、辛いに決まってるじゃないですか――」
『ふむ、理解不能。我は契約を遂行したのみ。元となる世界を用意させたとはいえ、新たな三千世界を生み出すには苦労したのであるが……』
ここまで尽力したのだとアピールしたいのか。
象兜を傾けたビナヤカの魔像が、三千世界と恋のアプリコットを生み出していく様子を映し出していく。
象兜の下にある愛欲の悪神としての美貌の男が、背広を着て、会社を一から立ち上げている姿が映っている。
傍観していたが、話はしっかりと聞いていたのだろう。
魔猫師匠が言う。
『なるほどね、あの会社の創設者の情報があいまいになっていたのは、君自身が社長だったからなのか。君は歪んでしまっても願いを叶える神、そして歓喜天とは商売繫盛の神でもある。資金は無限にあるのだろう、多少、無茶な投資も求人もできたということか』
『勘違いはするでないぞ、ケモノよ。これは対等なる契約。誓約と規約、金に基づき我はクリエイターと契約をした。そこに不法も不正もない』
『分かっているよ、君は契約にはうるさい神だろうからね。その厳しさは自分にも当てはまるのだろう。しかしこうしてみると、いろいろと見えてくるものだね……ビナヤカの魔像たる君がゲームつくりの参考にしたのは、あの日、愛欲の宴を経て――自分の内へと取り込んだ高校生たちだったのか』
それはまだ成熟していない、けれど愛や恋に明るい希望を抱いている青少年たちの心。
映像の中。
魔像は会社設立の多忙の裏で、滅んだ世界にとある乙女を参考にした世界の核を植えこんだ。
それこそが、天地創造の一ページ。
ビナヤカの魔像が世界の核として植えこんだのは、愛を知らない、恋を知らない栄子の心を参考にして作られた”三千世界と恋のアプリコット”の種。
種を引き継ぎ、世代を超えて――いつかコーデリアとして育つ、あの世界のプレイヤー。
壊れた世界に植え付けられた種は、発芽し。
世界となった。
黎明の時代。
聖騎士ミリアルドに似た神が生まれる。
それは後に人間と恋をし、クラフテッド王国の始祖となる存在なのだろう。
あの世界の王族とは、黎明期に存在した神の血を引きし者。
ミリアルドに似た神、その顔はクラスメイトのリーダーに少しだけ似ている。
おそらく性格も似ているのだろう。
黎明の神々――そこには、攻略対象とされていたモノたちの始祖としての名残があった。
世界としての”三千世界と恋のアプリコット”の構成には、愛欲の宴で取り込んだ彼らの魂の一部も含まれているのだろう。
『これも、全員の恋が叶いますように――その願いへの答えの一つかい?』
『彼らはあの世界の最初の神々として、愛を知り、恋を知った。その子供は今も王族として残り続けている。それは愛の果ての幸せ、種を残し続けることこそ生物の本懐。嗚呼。満足のいく仕事である』
『なるほどね、それは君がこれから贄となる人間の魂を、あの世界に取り込むための――転生実験でもあったわけか――』
あそこにいる高校生たちは、皆、あの世界の黎明の神々として転生していた。
確かに彼らは幸せになったのだろう。
だが、高校生の集団失踪は問題となる。
ビナヤカの魔像が願われたのは全員の恋の成就。栄子の恋を叶えるまでは大事件にはできない。
だから、ビナヤカの魔像は動いた。
高校生たちの存在を曖昧とした。実在したが、なかったことにした。戸籍も生きた証も残したまま、けれど――既にその生涯を幸せに終えている。
あの世界で、王族の始まりとして。
そして不自然な場所となっている、この時間軸に接続できないようにしたのだろう。
栄子は考える。
叫びたいのに、頭が働き続けている。
ビナヤカの魔像は人間の心を知らぬ神。
だから魔像には愛や恋の根本が分からない。
もちろん、ゲームなど知らぬ神。
クリエイターは雇ったが、最終的に終わる世界にならなくてはならない。
クリエイターに全てを任せるわけにはいかない。
ビナヤカの魔像の目的は商売繫盛ではなく、栄子に世界を壊させ、あの男の魂を救わせ――ハッピーエンド。完全なる願いの成就を果たさせるのが目的なのだから。
だから三千世界と恋のアプリコットを作る際に、とあるインチキをしたのだろう。
栄子の考えを肯定するように、タイミングよく魔猫が言う。
『――てっきり私は三千世界と恋のアプリコットが先にできていたのかと思っていたが、順序が逆、いや並行してというべきか、ともあれ、君はゲームを作るよりも前に世界の核たる”栄子の恋心”を先に荒廃した世界に埋めていたのだね。そして自然に育っていく世界を参考に、開発中のゲームに逆輸入した。おそらくは栄子君がデバッグモードの端末で中を操作していたように、君も後から世界を弄ったり――逆に世界からゲームに使える部分を抽出していたってところかな。あの世界を終わらせるための仕掛けはどうしても必要だからね』
その仕掛けこそが、ゲームに仕掛けた負けイベ。
他にも規約違反……課金返金による終わりも用意していた。
多くの手段で、世界を終わらせ――道化師クロードを引き上げる手段は用意していたのだろう。
悪びれる様子もなく魔像が応じる。
『ゼロから作るのは非効率であるからな。元からあった、あの壊れた世界を利用したように――我は多くの人間を作り、そして神へと転生したあの高校生たちと交わらせた。黎明の神々の血を引きし愛の結晶は王族となり、多くの民を従えあの世界を育てていった。彼らはとても幸せになった。幸福なる愛の果ての終末。願いは成就された――あの世界が終わったとしても、この世界では”三千世界と恋のアプリコット”として残り続ける。人間とは歴史に記録を残す生き物、たとえサービスが終わったとしても、そのゲームがそこにあったとどこかに記される。あの世界の神々となった者達は、永遠に刻まれ続けることになる』
それは一種の神話ともいえる。
神話として残り続ける事、それは神にとっての幸福。
ハッピーエンドの一つと言えるのだろう。
理解できない価値観だが、それが神。
栄子を眺め、魔像が言う。
『我は三千世界と恋のアプリコットを参考に、あの世界を作ったのではない――恋を願った高校生たちが育てた世界と、そしてその道筋を参考に、三千世界と恋のアプリコットを作らせた。あの日、いや今見ているこの日か。ともあれ、全員の恋を願った彼らが神々になったからこそ、あの世界は不安定だとも言えたのだろうな。かつて高校生たちだった神々はそれぞれがそれぞれに、思うがままに、愉快な人間や亜人を生み出しおった。卵か先か、鶏が先か。結果が滅びであるのだから、どちらでも構わぬのだ。エイコよ、こちらからあの世界に干渉できることも、こちらで作ったルートをあちらに強制させることができる事も――汝自身が一番知っておろう?』
それがあの世界と、あのアプリの真相。
『すべては愛のため。願いのため』
あとはお前の恋をかなえれば。
全てが終わる。
ビナヤカの魔像は、泣き崩れる栄子を眺めて訴える。
『嗚呼、長く険しい道筋であった。だがそれもあと少し。あと少しで、解決する』
ようやくこれで終わる。
いや、終われるのだ。
と。
「あたしに恋を実らせる。そんな……、そんな……くだらないことのために、こんなことまでやったんすか……」
『我は歓喜天より生まれし偶像。ビナヤカの魔像。それが願いであったのなら、そして対価をささげられてしまったのなら。我は逆らえん。この身滅びようとも、たとえ悪神と誹りを受けようと――その願いだけは必ず成就させてみせよう』
実際に、もはや魔像も限界だったのだろう。
世界創生に必要な力は絶大だった。
絶好のタイミングで壊れる世界を維持するには、壊れぬように見張り続ける必要もある。
そして同時に創設者、経営者としての生活もあったのだろう。
ビナヤカの魔像は既に、崩壊しかけていた。
けれど、そこには菩薩の笑みを浮かべる魔像がいる。
ようやく終われるのだと。
終わりを望む、疲れた神がそこにいる。
クラスメイト全員の恋が叶いますように。
きっかけは、恋のおまじない。
しかも栄子とは特に親しくもない乙女の、メルヘンな願い。
彼女にも悪気があったわけではない。
ただみんなが幸せになればいいのに。
と。
ただそう願っただけだったのだ。
けれど全てが複雑に絡んだ結果、こうなった。
そこには。
黒幕が二人いた。
天使を操り、愛する男を救おうと世界を壊そうとしていた創造神。
そして、そんな彼女に恋をさせるため暗躍し続け、多くの奇跡を起こし続けていた愛欲の神。
けれどどちらも、壊れかけていた。
『何故嘆く、何故笑わぬ。全ては汝ら人間が望んだことであろう?』
複雑な顔をしながらも魔猫師匠は頷き。
『彼が言っていることは事実だよ。彼はあくまでも願いを叶えているだけ、そして願ったのは君たちだ。そこに手段ややり方への配慮が、一切かけているだけ。誰が悪いわけでもない、事故みたいなものさ』
しばしの沈黙の後。
「信じられないっすよ……」
魔像は首を傾げていた。
『ふむ、分からぬな。汝は愛や恋を信じない女であった。恋して、愛して結婚したはずの両親の醜い部分を眺めつづけた哀れな乙女であった。我は探した、この世界の全ての魂を探した。汝が恋に落ちる男を探し求め続けた、なれど該当者は居らず。ならば、作るしかあるまい? 我は歓喜天の偶像。誓約と規則、規約と契約を厳守せし魔像。願われたのなら、それを叶えなくてはならない――そう創造し、そう在れと我を生み出したのはそなたたち人間であろう?』
栄子は言った。
「このこと……。先輩は……知ってるんすか……」
『答えは否。自分が恋をされるためだけに作られた存在だと知れば、人の自我は崩壊するであろう。自己を保てず壊れてしまうであろう。故に、あやつには我の存在や、汝こそが世界に介入している黒幕であるとは気付かぬように、知られぬようにと、魂とでも呼ぶべき部分に制約を埋め込んだ。だから、安心せよ、安堵せよ。やつは賢い――なれど、天使を操っていたおぬしのことには絶対に気付いておらぬ』
道化師クロードが天使を狩り続けていたころの光景が流れ出す。
目視はできないが、その天使の裏には創造神。
天才栄子がいるのだろう。
『おぬしが歴史の裏で動いていたことも――天使を屠るあの男をデバッグモードから眺め、唇をぎゅっと噛んで眺めていたことも。あの男との知恵比べを楽しみ始めたことも、やつは知らぬ。いや、理解できないようにしてある。我は我を作りし汝らを模倣し、そう在れと――奴を作ったのだ。だから安堵せよ』
ビナヤカの魔像はまるで善行だと言わんばかりの声で。
慈悲深い声音で告げていた。
栄子が言う。
「あたしが……してたことも全部、ルートなんすか。誰かさんが、あたしのために用意してくれた。恋をもっと知るための、レールだったんすか。あたしが、ずっと……先輩をあの世界から奪い返した後のために、転生者たちから寿命を確保してたことも」
唇から滲み出た血が落ちる音の後。
魔像が言う。
『いかにも――我が用意したレール。汝のための我の計らい。汝があやつと結ばれるための道。天使を操り、誘導し、転生者に課金を促す。それを阻んでいた道化師クロードとの、長い長い、盤上遊戯。おぬしは楽しかったのだろう?』
「楽しい? なにを、いってるんすか……」
心を知らぬ魔像が言う。
『天才との知恵比べに心を躍らせたのだろう? 今までどんなゲームでも本気を出せなかった。一度も負けたことがなかった、天才ゆえの悩み、負けを知らない孤独。けれど、奴ならば違った。道化師クロードは天才であった。天才の汝にも勝てる存在として作られた、完璧な偶像であるからな。汝を喜ばせ、惚れられるためだけの存在。汝はあの日々を楽しんでいた、更に恋を深めた。初めてゲームに負けたあの日、汝は再び恋を知った。負ける度に、さすがあたしの先輩っすね――そう喜び、あの男をより一層に愛した。相違あるまい?』
今となっては、全てが滑稽に見えるのだろう。
栄子は顔を上げ、訴えるように肺の奥から叫びを投げ散らかしていた。
「ちがう――ッ! あたしは、あたしは! そんな作られた愛が欲しかったわけじゃないんすよ!」
『ふむ、そうか――ならば道化師クロードのデータを更新せねばなるまいか』
ビナヤカの魔像が何をしようとしているのか。
それはおそらく、人格の矯正あるいは更新。
更新データを弄るように、道化師クロードのナカを変更するつもりなのだろう。
それは人格の殺人に等しい行為。
けれど、それもビナヤカの魔像にとっては願いを叶えるのに必要な行為。
像自身も逆らえない性質。
だから栄子は手を伸ばした。
「やめてぇえぇえええええぇぇぇぇぇ!」
必死に止めようと、指を伸ばした。
ハッと栄子の瞳孔が揺れる中。
プニンと音が鳴る。
魔像による干渉をキャンセルした、魔猫師匠の肉球音だった。
『魔像くんは、どうやら本当に人間の心の機微に疎いようだ。いや――理解したくともできないのか。ああ、きっと……理解できるようには作られなかったのだろうね』
『我を憐れむのか、ケモノよ』
『ああ、可哀そうだとは感じているよ』
魔猫師匠が、スゥっと肉球をかざす。
その獣毛からとてつもない魔力の波が発生している。
赤光が稲光となって、モフ毛の周囲を回転し始めたのだ。
それはおそらく神殺しの魔術。
矛先は――ビナヤカの魔像。
もはや崩壊寸前の、今回の事件の原因ともなった歓喜天像の集合体。
ビナヤカの魔像が言う。
『我を滅するというのか、ケモノよ』
『本当はここまで介入する気はなかったのだけれどね。どうやら君自身も滅びたがっている、終わりたがっているようだからね。介錯ぐらいはしてあげるさ』
『そうか――ならば仕方あるまい』
象兜の下。
魔像は疲れた瞳で。
疲れた顔で。
うなだれるかつて乙女だった栄子を眺めていた。
なぜ泣いているのか。
それも分からないのだろう。
だが、自分が手段を誤っていることだけは理解できたのか。
魔像は言った。
『我はただ、願いを叶えてやりたかった。愛や恋を知らぬ汝の心に、花を添えてやりたかった――恋そのものに畏怖しながら、あこがれを抱き、怯え続けていた汝の夢を叶えてやりたかった。我のうちにあるその心だけは本物であると、そう、我自身は思っておる』
『さようなら、ビナヤカの魔像。歪められた信仰より生まれた、哀れな祭具よ』
魔猫の肉球から、神殺しの魔術が発動される。
それは慈悲の一撃。
痛みもない一瞬で終わらせるほどの、極大の一撃。
魔術の矢が連なり、一条の槍となって魔像の心臓を貫く。
……。
筈だった。
さぁぁぁぁぁぁ……。
魔像を滅する一撃は、霧散していた。
チーズの粉のように、空に魔力の粒子が散っている。
神をも屠る術を防がれるのは、魔猫師匠も想定外だったのか。
そのネコの口から、すこしだけ間の抜けた声が漏れていた。
『コーデリアくん、なぜ、君がここに』
ふわりとした栗色の髪が、魔力の中で輝いている。
神殺しの魔術すらも弾いた魔術の使い手。
その――場に不釣り合いな、おっとりとした声が続いた。
「ふふふふ、黒幕の皆さんだけでお集まりになって話をされているのは、フェアではありませんでしょう? それに――駄目ですよ、師匠! わたくし、他人に向けて攻撃魔術を使うのは良くないと思うのです!」
めっ!
と、空気を読まずに人差し指を立て。
神に説教する聖女がそこにいた。
聖コーデリア卿。
彼女はたとえ黒幕の神々を前にしても、空気を読む気など。
ない。