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第4話 契約

 ミカゲは、真剣な顔をして私に向き合った。

 先程のミチルもそうだったが、急なお仕事モードは緊張してしまう。

 私もこの間までは仕事をしていたのに。


「わかりました。私は初めて人を雇うので、基本的な事もわかりません。教えて頂けると助かります」

「うーん。俺もこういう風に個人に雇われるのは初めてだからなあ。というか俺は好条件の警備員が出来たら嬉しいけど、リリーは俺の事雇う余裕なんてあるのか? 薬師で店を持っているとか?」


 ミカゲは私の事を心配してくれているようだ。私は素直に打ち明けることにした。


「ミカゲはお祭りに参加する方ですか? この間の夏祭りは王様が変わった記念で盛大でした」

「いや、仕事だったから参加できていないが、今年は特に盛り上がったらしいな」


 ミカゲは急な話の転換に不思議そうな顔をしているが、構わずに続ける。


「じゃあ、その時に、国が宝くじを発行しました。それは知ってますか?」

「ああ。祭自体は参加できなかったが、それは知っている。結構みんな買ってたよな。宝くじなんて初めて聞いたけど、国の発行なら安心だし夢があって面白いって」

「そうです。私はそれが当たったんです。当選金額は大金貨百枚でした」

「ええええええ! それは……すごいな……」


 目を見張って驚いているミカゲに、安心して欲しくて笑いかける。


「そうなんです。だからお金の心配はしないでください」

「お前、なんかすごい落ち着いているな。大金が入ったら普通もっと浮き足だって、パーっと使ったりするんじゃないか?」


 不思議そうにされて、自分に全くその気持ちがない事に気が付く。


 お金があっても、愛されていない。


 その気持ちが根底にあり、お金がある分余計に自分の事をみじめにさせているのかもしれない。

 持っているのに、それでも愛されない。


 しかし、そんな事をミカゲに言っても困らせるだけなので、私はできるだけ悪そうな顔を作って笑った。


「だから、ミカゲさんを雇う事にしたんです!」

「あはは! 確かに究極に無駄遣いだな!」


 私の言葉に、ミカゲは大きく笑った。私もつられて笑う。


「条件は何でもいいですよ。まだ定住も仕事も決まっていないので、決まるまでは本当に何もないですが」

「定住がない? 引越し途中なのか?」

「いえ。この事と関係なく無職になってしまいまして……。あ! でも私の仕事が決まるまでもきちんと支払いはします安心してください」


 私は慌ててミカゲが心配にならないように付け足した。すると、何故かミカゲはため息をついた。


「これだけお金があっても働くのかよ。じゃあ……三ヶ月間雇ってくれ。金額は金貨二十枚だ。ギルドへの支払いは別に金貨五枚になる。とりあえず家は別に借りよう。家賃の支払いはこの報酬の中からでいい。仕事を探しているなら、その都度送迎する。家の中では安心してくれ」


 金貨百枚で大金貨一枚だ。ミカゲが提示した額は、普通ではありえないような金額だった。貧しい場所では、家族でその額以下で暮らす人たちがざらにいるだろう。


「三ヶ月過ぎたらどうなりますか?」

「その時は契約終了だ。ずっと俺の事を雇っていても仕方ないだろう」

「……そう、ですよね。わかりました。ミカゲさんは、この契約で問題ないですか?」

「問題ってなんだ? いい条件じゃないか。庶民が払うには驚く値段だろう。断るかと思ったぐらいだ」

「お金はさっきも言った通り大丈夫です。そうじゃなくて、ギルドの方と、なにか約束があったのに、私と契約してしまったんじゃないかと思いまして」

「ああ、あれな……」


 私の疑問に、ミカゲは言葉を探すように視線を泳がせ、頭を乱暴にかいた。そして、ため息をつく。


「あれは、約束じゃない。ただ、俺はギルドで働かなきゃいけない理由がある。でも、三ヶ月くらいなら逃げられる。きちんとギルドも通しているし、問題ない。リリーとの契約があれば俺はその間自由でいられる。……もちろん警備はするから安心してくれ」


 最後の方は冗談っぽく笑ったミカゲの本心は、別の所にありそうだった。けれど、本当に迷惑ではなさそうなので、ほっとする。

 微笑んだミカゲに騙されているような気もしなくもない。それでも、彼が私を見る目は優しい。


 金額が高くても、もう関係ないと思ってしまった。

 三ヶ月、独りじゃなくなるのだ。


 私は、この契約が嬉しかった。


「よろしくな。リリー」

「よろしくお願いします。ミカゲ」


 私達はにっこり笑いあって、握手をした。




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