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第17話 【SIDE:ミカゲ】救われる

「……ありがとう」


 リリーに差し出されたそれを受け取とったミカゲは、何か言いたいのにそれ以外の言葉が出てこなかった。


 リリーは何でもない感じで調合をしていたが、それがとんでもない技術だという事がミカゲにはすぐわかった。

 魔力コントロールが素晴らしく、信じられないぐらいに繊細だった。

 魔物素材も、粉にするのは通常は魔法などではなく、人力で乳鉢を使う大変な作業だ。


 それに、聖魔法を入れるというのは全く意味が分からなかった。

 調合自体、素材の持つ魔力を混ぜるような作業であり難しいと聞く。


 その作業をしながら、更に自分の魔法を入れ込む? そもそも、魔法って混ぜられるのか?

 ミカゲは手順を説明され実演を見たけれど、それでも疑問だらけだった。


 ミカゲもSランクとして、薬師と接する機会は多かった。しかし、こんな簡単そうにこんな高度な調合をする人は居なかった。


 更にこれが通常のポーションだったとしても、圧倒的に、早い。


 ポーションを作るのは、一日に十本程度だと聞いている。上級に至っては、一日に一本、二本作れる人はまれだと。

 しかし、それよりも更に高度だと思われるこのポーションを作成して全く疲れた様子もなく、目の前でにこにこと笑っているリリーに驚きしかない。


 手の中にある、緑色の液体。

 それを、いつ飲むんだろう? と嬉しそうにじっと見つめているリリー。


 ミカゲは、震えそうになる手でポーションのふたを開けた。


「リリー、一つ確認いいか?」


「なんでしょう?」


「これって、飲む奴だよな?」


「当たり前じゃないですか! ポーションと言えば飲むものです!」


 ちょっと確認すると、リリーは当然だと頬を膨らませた。ポーションと言われても、今までのものと全然違うのだからミカゲの疑問は正しいはずだ。


 しかし、本当に少し手を加えただけという風に思っているらしいリリーを見ると、馬鹿らしくなる。

 目の前に居る姿は普通の可愛い女の子なのに、規格外すぎるだろ。


「じゃあ、……飲むな」


「味は保証できないですけどね」


 そういってほほ笑んだリリーに思わず笑ってしまう。そして、その勢いのまま、ポーションを一気に飲み込んだ。

 飲み込んだ瞬間、身体の奥に痛みが走る。


 しかし痛みは一瞬ですぐ引けた。


 自分の身体がどうなったかは、はっきりはわからない。ただ、何かが軽くなった気がした。


 そして。

 ミカゲのその様子を見ていたリリーは、嬉しそうに笑った。


「良かった! ちゃんと呪いはなくなりましたね」


「……本当に」


 上手く言葉が出てこない。忘れたことがない呪いが解ける日がくるなんて。

 まだ希望は捨てていなかった。それでも、あきらめの気持ちがもうずっと抜けなかった。


 Sランク、なんて肩書が虚しかった。


「ふふふ。疑い深いですね。呪いの為に動きが変だった魔力の流れはなくなりました。見る限り、何も残っていないので、完全に解けたといえると思いますよ」


「ありがとう。本当にありがとうリリー」


 ミカゲは感動の気持ちのままにリリーをぎゅっと抱き寄せた。

 腕の中でばたばたと暴れているが気にしない。体温がとても温かい。

 ミカゲは構わずリリーの肩に頭を寄せた。


「ミ、ミカゲさん……恥ずかしいし苦しいですー」


「もうちょっとこのままでいてくれ。俺の喜びを表しているんだ」


「この方法は、ちょっとどうかと思いますけど……今日だけですよ」


 許可が下りたので、思う存分抱きしめる事にする。


「この恩は絶対返すから」


「うーん。私、今の生活とっても楽しいんです。今まで、自分がお金を稼ぐこと以外に価値があるかいまいちわからなかったんですが、そういう事じゃないんだなっていうのもわかりましたし。お仕事は楽しかったですが、今は誰かの為に働くのも楽しそうだなって思いました。そう思えることが嬉しいんです」


 危ない人に抱き着かれながらも、照れて嬉しそうに話すリリーには危機感がない。これは危ない。


 他人事のようにミカゲは貞操の危機について思いを馳せた。

 そして、驚くほど細いその身体にも。


「それに、ミカゲさんといて、初めてご飯を作るのも食べるのも楽しいって、思えたんです」


 あの家族は早く処分しなければ。


 リリーの健気な言葉を聞くたびに、ミカゲのストレスが酷い。

 早い所限界にきてしまうかもしれない。


「俺も、リリーと食べる食事は美味しく感じるな」


「本当ですか? ……うれしい、です」


 ミカゲの言葉に、リリーは目を瞬かせた。そして、嬉しそうにミカゲの胸に顔を寄せた。

 その甘えるような仕草に、ミカゲの心臓は急にどきどきと大きな音で鳴りだした。頬がかっと熱くなるのを感じる。


 リリーの事を思い切り抱きしめたいのに、壊しそうで怖くなる。それでもやっぱり、このまま抱きしめていたい。


 今までにない感情にミカゲは慌てて、リリーを離した。


「本当にありがとうリリー! と、ところでポーションって作れそうか?」


 赤くなった顔が見られないかと心配になりつつ、顔をそむけて別の話題を振る。

 今ポーションを作ってくれた恩人に更に催促するという図々しい人になってしまった事に気が付き、後悔する。最悪だ。


「ポーション……? そうだった。お友達の分ですね! ちゃんと忘れず材料は買ってありますよ」


 リリーはミカゲの様子に気づいた様子もなく、やる気の感じる声で笑った。

 そしてそのままくるりとミカゲに背を向け、準備を始める。

 名残惜しそうにあげたままになっていた手を、ため息とともにおろす。


「申し訳ないけれど、とりあえず五十本は用意したい。どれぐらいでできる?」


 ミカゲが尋ねると、リリーは準備をしながら答えた。


「明日中には渡せると思います」


 ミカゲは自分の常識が良くわからなくなった。

 ともかく、リリーはすごい。


 ミカゲは呪いから解放された。もう、身体が動かなくなるという恐怖から、解放されたのだ。


 リリーの求める、ずっと一緒に居る誰かにもなれる。

 じわじわと、その実感がわいてくる。


 あの時は、リリーとずっと一緒に居られるかわからなかったから。しかし、今はそうじゃない。そして、ミカゲは、この少女とずっと一緒に居たいと願っている。

 その実現に必要な事は……。


「とりあえず、前の家族とはさっぱりすっきりしてもらおう」


「? 何か言いましたか?」


「いや、こっちの事」


 ミカゲはリリーに向かって優しく微笑んだ。


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