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第12話 【SIDE:ミカゲ】命の本数

「本当に。すぐにお礼に行きたいぐらいだ」


 ミカゲは嬉しそうに笑うリリーの顔を見ながら、怒りを抑えるのに必死だった。


 たった、二十本。

 たった、だ。


 ミカゲが呪われてから、五年。

 ポーションは半年に一本。


 もう十本も使用したことになる。

 半分だ。


 そしてリリーはここに居て、ポーションを作ったのは最初のころだといった。

 そして、作れる薬師もいない。ギルドがその事を知らないはずがない。


 それなのにギルドはポーションを餌に、ずっとミカゲを縛っていた。

 永遠に供給できると装って。


 それを信じていたから、ミカゲはギルドに逆らわないで生きて来た。生き延びるために。

 死にに行くような所にも、生きる為に。


 なのに、あと五年でポーションがなくなる所だった?

 ポーションがなくなっても、呪いで死ぬまで騙すつもりだったのか?


 疑問が生まれるが、それは事実そうだろう。

 ギルドは手持ちがなくなれば、引き伸ばしてミカゲが呪いで弱って死ぬのを待つだけだ。

 Sランクのミカゲの怒りを正面から受け止められる奴なんて、あのギルドにはいない。


「どうしました?」


 にこにこと笑うリリーの声で我に返る。


 そうだ。

 リリーが居て、呪いを解いてくれると言ってくれた。

 実際完全に解けるのかはわからないけれど、それでもギルドに捕らわれた状態からは抜け出せる。


 少なくとも、今のポーションは彼女の手によって作られたものだというのだから。

 それは信じられない幸運だ。


 本当だろうか。

 こんな何もかもが都合よく進むなんてことがあるのだろうか。


 これ自体が何かの罠だったりするかもしれない。

 ミカゲはリリーの顔を注意深く見た。


「お腹すいたんですか?」


 不思議そうに首を傾げてじっとこちらを見つめ返すリリーに、嘘は見られなかった。それはミカゲの願望かもしれないが。


 ……それでも、いいか。


 ミカゲは諦めてため息をついた。

 駄目なら駄目でいい。この生活は気に入っている。


 リリーの話が嘘だった場合は、他の呪いを解く方法を探すだけだ。

 もとより、この三カ月はそのつもりだったのだから。


 そうすれば、それまでこの生活ができる。

 見つからなくても、元に戻るだけだ。

 ……この心地よさを知って、また元の生活に戻れるかはわからないけれど。


「朝ごはん食べたばっかりだろう。流石にまだ空いてない。あと、魔物素材ならこの家にたくさんあるぞ」

「え? なんでですか?」

「ひみつー」


 そう言って、ミカゲはリリーの手を引いて二階の部屋に連れて行った。


「ここだけ、魔法錠だったんですよね」


 リリーは扉の前に立って、不満げに言った。掃除ができないとの話は聞いていたけれど、魔法錠だから開かないとだけ言っておいた。


 魔法錠は魔力を登録するもので、値段は高いけれど本人以外には開かないという、かなり防犯性の高いものだ。


 うっかり本人が死んだりしたら、壊すか莫大なお金と時間をかけて解除するかしかない。

 大体は魔法錠をかけるようなものには強化の魔法もかけてある為壊すことは難しい。最終手段としては、半分を渡すことを条件に、王城の魔術師に託すことになる。


 扉に手をあて魔力を流すと、するりと扉が開いた。


 リリーは不思議そうな顔でこちらを見ている。


「なんで、ミカゲさんで開くんですか?」

「ひみつー」


 まだ、リリーには教える気はない。

 ただのミカゲで居たいから。


 むっつりとした顔のリリーに扉の中を開いて見せると、急にキラキラとした顔になった。


「どうなってるんですかこの家! すごいすごいすごい!」


 走って素材に噛り付くようにして見ている。

 きちんと手を触れないで見ているのが偉くて可愛い。

 距離は驚くほど近いのでマナー的にはどうかわからないけれど、可愛いから許す。


「良かった。これも好きに使っていいらしいから、買いに行く手間が省けるといいけど」

「そんなところじゃないですよ! 希少品だらけです! いつか家主の方にお礼を言わせてください! 見せて頂いただけでもありがたいものばかりだわ」


 ちょっと居もしない家主に嫉妬するほどの感謝ぶりだ。


「その内な」


 そっけなく答えてしまう自分は、こんなに狭量だっただろうか。


「これだけあれば、ミカゲさんの呪いも、すぐ解けるように出来そうです良かったです! 私、頑張りますね!」


 そういってとても嬉しそうに笑うリリーに、ミカゲはなんだか泣きそうになった。



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